3月15日から16日にかけて開催中の招待制イベント「B Dash Camp 2018 Spring in Fukuoka」。開幕セッションでは、仮想通貨業界の最前線で活躍する経営者が仮想通貨やブロックチェーンの未来を語った。セッションの登壇者は以下の通りだ。
- 木村新司氏(DAS Capital Director)
- 國光宏尚氏(gumi代表取締役社長)
- 佐藤航陽氏(メタップス代表取締役CEO)
- 高島秀行氏(GMOコイン代表取締役会長)
モデレーターはB Dash Ventures代表取締役の渡辺洋行氏が務めた。
過渡期を迎えた取引所ビジネス
この数年間、仮想通貨ビジネスの中心にいたのは取引所だった。コインチェックから580億円相当のNEMが流出した事件をきっかけに、世間から大きな注目も集めている。
メタップスは2017年11月、韓国の現地子会社を通して仮想通貨取引所の「CoinRoom(コインルーム)」を開設した。ICOを実施し、約11億円の資金も調達している。そのメタップスを率いる佐藤氏は、現在の日本の取引所ビジネスについて、FX業界の強いプレイヤーが参入してきており、手数料やレバレッジ倍率などもFX業界の慣習に近くなってきていると評した。FX業界の枠組みに、仮想通貨取引所を運営する新しいプレイヤーが飲み込まれてしまうといった危惧もあるという。
ステージ上にはGMOクリック証券を設立した高島氏もいる。同社はFX取引高が1兆円に達する、佐藤氏が言うところの“FX業界の強いプレイヤー”の1つだ。2006年に創業したGMOコインを通してFX業界から仮想通貨ビジネスに参入した高島氏は、現在の取引所ビジネスをどのように見ているのだろうか。
仮想通貨の取引所では、取り扱い通貨を増やすごとに別の管理システムを作らなければいけない点がFX業界との大きな違いだ、と高島氏は話す。異なるプログラムによって作られたビットコイン、イーサリアム、リップルなどの各通貨は、必要になる管理システムもまったく異なる。取り扱い通貨数の分だけ監理システムが必要だ。その取り扱いが雑になってしまうと、今回のコインチェックの流出事件のような問題につながりかねない。
こうした事件を受け、金融庁は仮想通貨交換業者に対する規制を強化するという姿勢を強めている。佐藤氏は、取引所ビジネスにはまだ伸びしろがあるが、通常のスタートアップが規制に対応できるだけの体力を備えられるかは疑問だと話す。「ファイナンス、人材など上場企業なみのものが求められている。それができるスタートアップは少ないだろう。(取引所ビジネスは)大人の戦いになってきたと感じる」(佐藤氏)。
規制強化を受け、取引所を運営するスタートアップは新しい生き残りの道を模索する必要があるのかもしれない。
ブロックチェーンは何を変えるか
急速な盛り上がりを見せた取引所ビジネスが変革を迎える一方、仮想通貨を支えるブロックチェーン技術があらゆるビジネスに影響をもたらそうとしている。セッションでは、今後2〜3年における有望な仮想通貨ビジネスの領域はなにかという質問が渡辺氏から飛んだ。
gumiの国光氏とメタップスの佐藤氏は、エンターテイメントが最も有望だろうと答えた。スマホ向けゲーム開発のgumiを率いる国光氏は、「インターネットの時代では、データというものはコピー自由なものだった。データそのものには価値がなかった。なので、SpotifyやNetflixなどもコンテンツではなくサービスを売っていた。対して、ビットコインはただのデータなのにそれが価値をもっている。それは、ビットコインはブロックチェーン上にあってコピーができないのでユニーク性が担保されており、かつトレーダブルだからだ。ゲームのアイテムなどがそれと同じような特徴を帯びるようになれば非常に面白いと思う」と話す。
それに関連して、佐藤氏は「これまでネイティブアプリをAppleやGoogleなどのプラットフォームで公開していた人たちが、ブロックチェーンのプラットフォームに流れてくる。そうなったときに、既存のプラットフォーマーがどのような対策を打つのかに興味がある」と語った。
DAS Capitalを通して仮想通貨領域への投資を行う木村氏は、「注力分野として考えているのは、仮想通貨、シェアリングエコノミー、人工知能。ユーザーを集める、というところ以外は、基本的にはすべてブロックチェーンでやれる。現在は20%や30%というプラットフォーム手数料はザラだけれど、そういう手数料は減っていくだろう」と話す。佐藤氏も、「これまでのモデルは場をつくって手数料を徴収するというモデルだったが、これからは通貨発行益を軸にしたモデルがどんどん生まれる」とコメントした。
GMOコインの高島氏は、「取引所が盛り上がる前、仮想通貨ビジネスは国際送金が一番伸びると言われていた」として国際送金ビジネスへの参入を示唆した。「外国に資金を送金するには、送金元と送金先の両国で銀行口座を持っている必要がある。為替手数料、取引手数料も高い。少額でも送りやすいビジネスをつくりたいと思っている」と自社の展望も交えながら注目分野について語った。
モデレーターを務めたB Dash Ventures代表取締役の渡辺洋行氏は、ブロックチェーンの破壊力を「今回のディスラプトはデカい」と表現した。ブロックチェーン技術の台頭は、現在ではすっかりインフラとなったインターネット黎明期以来のパラダイムシフトだと言う人もいる。もしかすると、今を生きる僕たちはそんな時代の移り変わりを見ているのかもしれない。