「体験型小売店+ソフトウェア」RaaSスタートアップb8taの戦略

11月14日(木)・15日(金)の両日、東京・渋谷ヒカリエで開催されたTechCrunch Tokyo 2019。Day1冒頭のFireside Chatには、RaaS(リテール・アズ・ア・サービス)スタートアップ、b8ta(ベータ)CEOのVibhu Norby氏が登壇。「最新ガジェットを試し購入できるリテール・アズ・ア・サービスb8taの戦略」と題して、同社が展開する体験型小売店ビジネスとソフトウェアプラットフォームについて語ってくれた。モデレーターはEngadget Chinese編集長のRichard Laiが務めた。

「リテールは死んだ」時代に小売サービスを始めたb8ta

b8taは米国で、ガジェットやテックプロダクトなどを試したり購入したりできる体験型小売店「b8ta」を展開している。製品を提供する企業側は、b8taが全米20カ所に構えたスペースを借りてプロダクトを展示できる。

b8ta店舗内を紹介する画像

Norby氏は「世界中から探してきた優れたプロダクトを、顧客は使って試すことができる。顧客がどのように製品を使い、どんな経験をしたのか、開発企業にはフィードバックを伝えている」とb8taのモデルについて説明する。

「b8taは2015年の創業以来、4年間でおよそ1500の新製品を市場に出してきた。ハードウェアやエレクトロニクス製品中心にフォーカスしてきたが、プラットフォームをほかのカテゴリにも広げており、(昨年から営業を停止していた)Toys “R” Us(トイザらス)の米国での復活にも関わっている。顧客はフェイク(モックアップや動かないサンプル)ではない製品を体験することができる」(Norby氏)

2015年というと、米国ではオンライン小売が優勢で、マーケットはリテール業界には消極的だった時期だ。Norby氏は「2013年ぐらいから『リテールは死んだ』と言われていて、2015年に小売サービスに進出するというと『なぜ今そんなものを始めるのか』といわれる時代だった」と語る。

「オンラインでは確かにスクリーンでいろいろなことができるが、プロダクトに触れることはできない。リテールで、店舗で何ができるかと言えば、行かなければ分からない体験、例えばスピーカーの音質やブランケットの肌ざわりを体験することができるということだ」(Norby氏)

また「カスタマーリレーションシップが作れない売り方をメーカーも望んでいない」とNorby氏は続ける。「メールなどの通知ではなく、双方向のリレーションシップが持てる方法を、店舗でのビジネスモデルで実現できないかと考えた」(Norby氏)

Norby氏が着目したのは、新しいコンセプトを持ち、誰も見たり触ったりしたことがないようなプロダクトだ。「新製品は続々と出ている。カテゴリーも増えている。20年前にはコストが高くて作れなかったハードウェアが作れるようになった」(Norby氏)

こうしたプロダクトが世に出るときの小売の課題は、その良さ、新しさが伝わりにくいところだ。Norby氏は「日本の小売店でもそうだと思うが、製品が棚には載せられていても使い方が分からなかったり、見て楽しめなかったりする。Googleのスマートスピーカーが置いてあっても『OK Google、○○してみて』といって得られる体験の良さは分からない」と話している。

そこで「いろいろな製品を試してみたい」という声に応えられるビジネスモデルを、リアルな場を持つリテールで実現したのがb8taというわけだ。

リアルな場+顧客の体験まで一貫して提供するRaaS

b8taのソリューションは、RaaS(リテール・アズ・ア・サービス)として提供されている。プロダクトを持つ企業に対しては物理的なスペース提供のほかに、店舗を運用するためのPOSやプロダクトのデータベース、在庫管理、従業員のシフト管理や教育の仕組み、顧客体験の分析レポートなどがパッケージされている。

「ブランドと契約するときには、顧客の体験まで統括できる。お客さまがプロダクトをどう使って、どういう体験をしたのかをレポートして、メーカーに伝えている」(Norby氏)

メーカーがリアル店舗を運営して顧客との接点を持とうとすると、テナント料・家賃や従業員の賃金が固定費として必要になる。これを「アズ・ア・サービス」として提供するb8taは「特に新しい製品では有効だ」とNorby氏はいう。b8taでは、従業員のトレーニングをかなり重視しているという。「1〜2週間かけてトレーニングを行い、プロダクトやブランドに関する質問に答えられるようにする」(Norby氏)

Norby氏はトイザらスとの協業にも触れ、「子どもは実際の製品に触りたがるものだ。だから体験型小売でのエクスペリエンスが合うのではないかと考えた」と話している。米国テキサス州ヒューストンと、ニュージャージー州パラマス(ニューヨーク・マンハッタン近郊)に、間もなく2店舗を開店するトイザらス。子どもが実際に遊べるツリーハウスや遊び場など「細かいところまでこだわって作った」という店舗に「ぜひ来てほしい」とNorby氏は話す。

またb8taでは、おもちゃに続いてアパレル業界への進出も検討しているという。Norby氏は「業界は違っても『試すことができる場』ということでは同じ」として、鏡や壁、スクリーンに情報を表示し、照明にもこだわった“アダプティブ”な試着室を構想していると述べている。「アウトドアウェアにしてもスーツにしても、環境によってどういうものを着ればよいか、どう見えるかは違ってくる。例えば、こうやってステージに上がるときとか」(Norby氏)

リアルなスペースを提供するという点では、店舗がどこに位置しているか、ということも重要なのではないかと思われるが、Norby氏は「期待していなかった場所の店舗がよい店になっている」という。「シリコンバレーで成功するのは分かるけれどと言われるが、実際にはアーリーアダプターはどこにでも住んでいる。どんな人がいるか、というときにどの町かは関係がない」(Norby氏)

現在米国で20店舗を展開するb8ta。Norby氏は数週間後に初の国外店舗となるドバイに出店を控えていることも明かしている。海外への出店には以前から興味があり、いくつかの市場に注目していたそうだが、ドバイには現地パートナーの存在もあり、ビジネス面でもアクセスしやすいことから出店を決めたということだ。

次の市場として、日本はどうかと問われたNorby氏は「まだ発表できることはないが、よい市場だとは思う」と述べている。「リテール業界が強く、銀座などのショッピング街もある。アジアのハブとして、中国をはじめとした観光客も集まり、技術もある。アジアのどこかで出店を、と言われたら日本はよい環境だと思う」(Norby氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。