「偽ニュース」とは一体何で、何が問題なのか

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アメリカ新大統領を含め、誰もが「偽ニュース」について話しているような気がしないだろうか。過去数ヶ月のGoogle検索のデータを見れば、その様子は一目瞭然だ。しかし、そもそも偽ニュースとは一体何を指しているのだろうか?

読んで字の通り、偽ニュースとは全くの作り話で、通常トラフィックや広告収入、または政治的思想の拡散(もしくはその両方)を目的につくられている。

ニュースの捏造自体は昔からあるが、Facebookを筆頭としたソーシャルメディアの登場以降、偽ニュースが拡散力を持ち、ある種のビジネスモデルとして成立してしまったと考えられている(一体誰が偽ニュースを拡散しているのかというのは、未だにハッキリわかっていない)。

BuzzSumoの調査によれば、2016年最大の偽ニュースは、オバマ前大統領が学校での「忠誠の誓い」を禁じたというもので、この偽ニュースにはFacebook上で200万件以上ものリアクション(シェア・コメント含)があった。そのほかにも、ローマ法王フランシスコがドナルド・トランプを支持しているというものや、トランプがアフリカとメキシコ行きの片道チケットを無料配布するといった偽ニュースに対して、何十万という数のリアクションがあった。

偽ニュースの影響

上記のような偽ニュースが拡散するのをFacebokが放置していたため、ドナルド・トランプが大統領選で勝利をおさめたという議論もなされていた。その対策として、Facebookはユーザーが偽ニュースをみつけた際に、フラグを立てたり、削除したりしやすくなるような仕組みを新たに導入した。

誤解のないように念のため記載しておくと、スタンフォード大学に勤める経済学者のMattew Grentzkowとニューヨーク大学のHunt Allcottが共同で行った研究の結果、ソーシャルメディアが大統領選に及ぼした影響は騒がれている程ではなく、未だにテレビの影響力の方が大きいということがわかっている。

とはいっても、偽ニュースが実際に問題を引き起こしたケースもある。ワシントンDCのレストランComet Ping Pongの地下に存在するとされた児童買春組織と、ヒラリー・クリントンを結びつけるような都市伝説が広まった結果、アサルトライフルを持った男がComet Ping Pongに現れたのだ。

それでは、偽ニュースを止めることはできるのだろうか?それとも、本当の話と嘘の見分けがつかなくなるくらい、偽ニュースは今後も広まり続けてしまうのだろうか?ひとつ良いニュースとして、問題が大きくなったことで、Facebook以外にも発言力を持った人や企業が解決策を模索しはじめた。

Interactive Advertising Bureau(オンライン出版・広告企業の業界団体)で社長兼CEOを勤めるRandall Rothenbergは、テック企業やメディアに対して「積極的に嘘や不正、犯罪行為、憎悪に関する記載を削除していこう」と呼びかけた。既にこの波に乗り始めた企業もいて、Googleは偽ニュースサイトの撲滅に向け、2016年Q4だけで200社ものオンライン出版社を同社の広告ネットワークから締め出した

Truman Waving "Dewey Defeats Truman" Headline

トランプ大統領の登場

そんな中、偽ニュースという言葉自体が変化を遂げ(もっと率直に言うとまく利用され)、トランプ大統領がThe New York TimesCNNのことを「偽ニュース」だと表現した頃に、このトレンドはピークを迎えた。

The New York TimesやCNN、そのほかの出版社や報道機関も批判の余地がないわけではないが、トランプが言っているのはそういうことではない。彼は、もともと読者を騙すような怪しいウェブサイトを指すのに使われていた「偽ニュース」というラベルを、乱暴にも長いジャーナリズムの歴史を持つ組織に無理やり貼り付けようとしたのだ。

「偽ニュース」という彼の叫び(そして対照的なKellyanne Conwayの「Alternative Facts」という発言)を利用して、トランプ政権はアメリカ国民に極めてシンプルなメッセージを伝えようとしている。それは、彼がこれまでに何度も繰り返している、メディアではなく「私を信じてくれ」ということだ。

トロールたちへ:あるポストの内容に同意できないからといって、そのポストは「偽ニュース」にはならない。

次第に「偽ニュース」は「クリックベイト/釣り記事」と同義化し、「自分が気に入らないニュース」とほぼ変わらないような存在へと成り下がろうとしている。実際にWashington PostのMargaret Sullivanは、「偽ニュース」という言葉があまりにも間違った用法で「汚染されて」いるため、いっそのこと使うのをやめて「その代わりに嘘は嘘、捏造は捏造、陰謀論は陰謀論とそれぞれの名前で読んではどうでしょう」と提案していた。

(過去にSullivanがパブリックエディターを務めていた)The New York Timesは彼女のアドバイスに従っているようで、他のメディアも恐らく追従していくだろう。しかしこの動きに効果はあるのか?もしかしたらさらに分断化が進み、パルチザンとしての目線でニュースを読むことになるかもしれない。しかし、もしそうなったとしても、嘘が嘘であることに変わりはない。

読者全員がファクトチェッカー

何を信じれば良いのか分からなくなってしまったニュースの読者には、この記事の議論を通して、ニュースは人がつくっている、という単純かつ不変の真実を理解してもらいたい。誠実で信用できるメディアもあれば、そうでないものも存在し、誰もが間違いを犯す可能性がある(TechCrunchの読者であればよくお分かりだろう)。さらにリベラル派もその影響を受けやすいのだ。

だからこそ、いつもどこか疑いながらニュースを読むべきなのだ。言い換えれば、反射的に全てのメディアを拒否するのではなく、批判の精神を持って、間違いやバイアスや嘘が含まれている可能性を認識しつつ、自分の主義に沿わないような事実や理論にもオープンであり続けることが重要なのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。