「匿名」フィンテックスタートアップMillionsが3.2億円調達、Twitterで現金をプレゼント中

「匿名性」を維持するスタートアップMillionsがシードラウンドで300万ドル(約3億1700万円)を調達し、現在Twitterのアカウントで無料の現金をばらまいている。ユーチューバーのDavid Dobrik(デビット・ドブリック)氏らに着想を得たこのコンセプトには、新企業への注目を集める狙いもあるが、同時にブランドがより直接的にギブアウェイに参加できるような次なるビジネスモデルも築き上げている。

もちろん、ブランドや現金のギブアウェイという考え方は新しいものではない。ソーシャルメディアのパーソナリティやPublishers Clearing Houseのような従来型の懸賞以外にも、モバイルゲームのHQ Triviaはつい最近、ライブトリビアゲームにプレイヤーを引きつけようとブランドのギブアウェイを統合する試みを行った。しかしHQ Triviaにおいてはその新奇性が薄れていき、内部での争い悲劇に対処しながら最終的に閉鎖され、オーディエンスを維持することができなかった。

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Millionsのアイデアはそれとは違う。毎週のライブゲームに代わり、ユーザーがTwitterアカウント@millionsをフォローすると、何らかのギフトや現金のギブアウェイに毎月参加することができる。たとえば同アカウントは今月「100万ドルの懸賞金」をローンチしている。ユーザーはTwitterで@millionsをフォローし、Millions.appを訪れて6つの数字を入力する。この6つの数字がすべて一致すれば、100万ドル(約1億円)を獲得することができるわけだ(詳細は後述)。

同スタートアップは2021年3月「Are you my number neighbor?(番号のご近所さんですか?)」というゲームをローンチする予定だ。このゲームでユーザーはウェブサイトに自分の電話番号を入力し、それがウェブサイトにある電話番号から1桁違うだけであれば10万ドル(約1千万円)を獲得できる。

こういった行為は投資家の金をばらまいているだけのようにも見えるが、実際はブランド認知を高め、顧客を獲得するためのものである。

画像クレジット:Millions、MyCard, Inc.

「論議を呼ぶトピックではあるものの、顧客獲得コストについて考えた時、儲かるのはFacebookやInstagram、Apple、Googleだけです。お金は人々ではなくソーシャルネットワークに流れていくのです」と匿名希望のMillions共同設立者はいう。「彼らは人を獲得しようしていますが、お金は決してくれません。Millionsの方法では実際に人々がお金を受け取ることが可能で、我々が広告を出す必要もありません。私たちは人々に直接お金を渡し、そして彼らが私たちのエコシステムをフォローし、アップデートをサブスクライブし、将来のローンチを見てくれることを期待しています」。

Millionsの最終的なより大規模な計画は、ゲームを通じて獲得した顧客をフィンテックのプレーに移行させることに帰結する。そしてこれにもまた現金獲得が関わってくるという。

TechCrunchは、同スタートアップの動向を知るためのディスカッションの中で、当面はゲームの遊び心と匿名性を保ちたいとする共同創設者の名前を明かさないことに同意している。一方、アクセスが容易で一般に公開されているデータを特筆するのは、契約違反ではないということをお伝えしておきたい。我々はこの事業の背後にある法人としてMyCard Inc.という会社がMillionsのウェブサイトの規約で言及されていることを確認した。このSECへの提出書類にはKieran O’Reilly(キーラン・オライリー)氏とRory O’Reilly(ローリー・オライリー)氏の名前が記載されており、同社は300万ドルの資金調達を2020年12月に行っている。前述の名前はgifs.comを運営する兄弟と同じ名前である。

同スタートアップのシードラウンドに参加した投資家にはGiant Ventures、8VC、Supernode、Twitterの共同創設者Biz Stone(ビズ・ストーン)氏、ItalicのCEOのJeremy Cai(ジェレミー・カイ)氏、Allbirds共同創設者兼CEOのJoey Zwillinger(ジョーイ・ズウィリンガー)氏、Casperの共同創設者Neil Parikh(ニール・パリク)氏とLuke Sherwin(ルーク・シャーウィン)氏、MSCHFで戦略・成長部門ヘッドを務めるDaniel Greenberg(ダニエル・グリーンバーグ)氏、Deel Alex BouazizのCEO、Hellosaurus James RubenのCEO、Beek Pamela ValdesのCEO、FacebookのPayments GatewayチームでPMを務めるLuis Vargas(ルイス・バルガス)氏、Block Renovationsの共同創設者Koda Wang(コーダ・ワン)氏、Nebula GenomicsのCEOの Kamal Obbad(カマル・オブバッド)氏、Warby Parker and Harryの共同創設者および上級幹部からDave Gilboa(デイブ・ギルボア)氏、Neil Blumenthal(ニール・ブルメンタール)氏、Jeff Raider(ジェフ・レイダー)氏などのほか、フィンテックエンジェル投資家が名を連ねている。

一部の投資家は同社について公に称賛しており、また日常的な行動に対して顧客に報酬を与えるMyCard製品の登場をほのめかしている。

「同社は、毎日必然的に行っているクレジットカードのスワイプのようなありふれた日常の行動から、人々に喜びを与えるものを作り出しています。私たちはMillionsに投資しましたが、それは同社が人々の生活をときめかせるからです。また、使いにくい航空会社やホテルのポイントを貯める従来型のポイントモデルには疲労感があり、刷新の機が熟していると考えています」とAllbirdsの共同創設者兼CEOのJoey Zwillinger(ジョーイ・ズウィリンガー)氏は語っている。

「Millionsは比類のない魅力的な顧客体験を通して非常にロイヤルな参加者を獲得しています。100万ドルのギブアウェイはこの先の展望の氷山の一角にすぎません。彼らは私が知っている中で最も強力な創設者に数えられ、まさに奇跡的な成功を手にした起業家たちです」とItalicのCEOであるJeremy Cai(ジェレミー・カイ)氏はいう。

MSCHFで戦略・成長部門ヘッドを務めるDaniel Greenberg(ダニエル・グリーンバーグ)氏は「私がMillionsに投資したのはそのトレンドがはっきりしているからです。人はお金を勝ち取ることを好みますし、ここで何かが起きつつあるのは明らかです。Millionsは驚きの方法でお金を提供することに献身的であり、それに関わることができてうれしく思います」と語っている。

しかしMillionsは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと政府の支援不足による不況のため、人々がお金を切望している時に登場している。パンデミックは階級格差を悪化させ、人々(ローマ教皇を含めて)は資本主義が崩壊したのではないかと疑った。GameStopの熱狂の背後にある「金持ちを食う」という思想を煽り、さらにこうした状況は、ドブリック氏の行為Lexy Kadey(レクシー・ケイディ)氏によるTikTokの「Venmo Challenges」(店員やファストフード店の従業員に数百ドル、時には千ドルのチップを渡し、彼らが喜びを露わにする様子をフィルムに収めている)のような他の活動にも暗い影を落としている。

Millionsの共同創設者は、今が困難な時期であるという事実を認めつつも、それこそが同製品が理に適っている理由だと主張している。

「パンデミックや格差の『1%対99%』など、今世界で起きていることを考えてみると、人々が求めているものは希望と資金なのです」と彼らは説明する。「この2つの要素を持つ製品を組み合わせることができれば、人々に楽しみや感動、希望を与えることができますし【略】これは本当にすばらしいことだと思っています」。

【注記】多くの懸賞と同様、勝つための「チャンス」を求めてプレーするものである。だがこの場合、1万ドル(約100万円)が1名への賞金として保証されている。Millionsのウェブサイトにはデジタルプロモーション会社のRealtime Mediaがゲームの運営に関わっていると記載されている。ただしプログラムを保証する保険プロバイダーは実際にはHCCとなっている。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Millions資金調達

画像クレジット:Millions/MyCard, Inc.

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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