「強力なAI」誕生へのカウントダウン

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。
みなさん、お元気でお過ごしだろうか。週末はゆっくりと休んでリラックスできただろうか。

今回は楽しい話題だ。もちろん、後の方にはいつものようにベンチャーキャピタルのラウンドやメモなどが並んでいる。だがその前に、AIについて話そう。

先週私は、機械知能をもう少し確かなものにするために活動している2つの企業と話をする機会があった。1つはハードウェア、もう1つはソフトウェアを扱う企業だ。

まずハードウェアの方は、IonQ(イオンキュー)のPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏に話を聞いた。IonQは、最近SPACで上場した量子コンピューティング企業だ。チャップマン氏と私は、償還やその他のSPAC絡みの瑣末な問題を掘り下げる代わりに、大部分の時間をSFと「強力なAI」の本当の意味について費やした。

簡単に言えば「強力なAI」とは今のAlexa(アレクサ)の動作原理とは異なるものだ。チャップマン氏によれば、Alexaは、エンジニアがクエリに対して可能な限り多くの応答をコード化することで動作している。このやり方はある程度は拡大できる。しかし、強力なAIは自分でコードを書くことができなければならないとチャップマン氏は語り、これは人間の手で書かれた質問と回答の組み合わせとは根本的に異なるという。

このためには量子トピックがふさわしいとチャップマン氏はいう。なぜなら、量子コンピューティングは強力なAIが必要とする種類のコード生成に非常に優れているからだ。そして重要なのは、無数の確率を同時に解析し、その中から選択することも得意なことだ。

量子コンピューターは実用化の初期段階にあり、IonQ(閉じ込めたイオンを使用していることから名付けられた)のような企業が、この新しいコンピューターの時代の到来を先導しているのだ。量子コンピューティングが主流になれば、単なるMLモデルではない大規模なAIにもっと近づくことができるはずだ。

さて、ソフトウェアの方は、Intrinio(イントリニオ)のCEOであるRachel Carpenter(レイチェル・カーペンター)氏と電話で話した。彼女の会社は、APIから利用可能な巨大なファイナンシャルデータセットを構築した。金融オタクとしては、ワクワクする話だ。Intrinioが気になるかどうかは、読者がこれまでSECの書類を読むのにどれだけの時間を費やしてきたかによって決まるだろう。

だが、このスタートアップは、Thea(シーア)という名のAIサービスも開発している。これは、ニューラルネットワークを、テキストを理解できる独自の自然言語処理マシンに織り込むことで機能するAIサービスだ。膨大な量の財務報告書を解析したいと考えている者にとっては、これはすばらしい製品アイデアだ。

カーペンター氏と話していて印象的だったのは、Theaは最初、広いインターネット上でトレーニングを受けていたということだ。つまり単なる金融言語解析ツールではなく、それ以上のことができるということだ。

CEOによれば、現在同社はTheaの焦点を金融のニッチに置いているという。しかし、Intrinioが部分的にでもオープンソースのサービスを使用して複雑なものを立ち上げることができるなら、今後数年のうちにTheaのようなインテリジェントシステムがより多く市場に登場する可能性がある。それを商用化されつつある量子コンピューティング技術と融合させると、もしかしたら、いつの日か、実際の人工知能に近づけるのかもしれないと思えてくる。

そう、私たちは生まれるのが50年ほど早すぎたのだ。

VCあれこれ

予想通り、第3四半期のベンチャーキャピタルの状況は、まったくもって正気の沙汰ではなかった。びっくり仰天。前代未聞。好きなように呼んで欲しい。

そしてこれまでのところ、第4四半期もまったく同じ状況のように見える。たとえば:

  • フォーブスのAlex Konrad(アレックス・コンラッド)氏によれば、Notion(ノーション)が評価額100億ドル(約1兆1200億円)で2億7500万ドル(約308億6000万円)の資金調達ラウンドを行ったとのことだ(アレックスの最近の活躍は目覚ましい)。これは事実上のフリーキャピタルなのだ。それはなぜか?Notionは自社の2.75%の株式を2億5000万ドル(約280億5000万円)以上で売却したばかりだ。希薄化の観点から資本効率を考えれば、それは……安い。特に、収益の大きさを心配して実際には数字を公表していないスタートアップにとっては。Notionは今回のラウンドの前でも、前回のラウンドの大部分をまだ銀行に残したままだった。つまり同社は、少なくとも300億ドル(約3兆4000億円)のエグジットを果たすことに賭けるために、多額の資金を用意していた投資家たちから、2億5000万ドル(約280億5000万円)を調達したのだ。この先どうなるかを見守りたい。
  • そして先週、Modern Treasury(モダン・トレジャリー)は8500万ドル(約95億4000万円)のシリーズC調達を行った。ここでは、この「ペイメントオペレーション」フィンテック企業の価値が20億ドル(約2244億円)以上と評価されている。同社は2021年の初めにシリーズB調達を行ったが、PitchBookのデータによるとその際の評価額はおおよそ3億ドル(約337億円)だった。それは、とてもとても短い期間での価値創造だ!しかし、この数カ月間に見てきたことを考えると、かなり納得できるものでもある。

つまり、2021年の第2、第3四半期に比べて、第4四半期が減速しているようには見えないということだ。もし2022年が2021年のベンチャーキャピタルの総額を上回ることがないとすれば、このような投資が再び見られるのは何年後になるだろうか。

あとどれくらい生きている必要があるのやら。

ではまた。

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。