「東南アジアのStripe」日本人創業者の長谷川氏が率いるOmiseがシリーズBで1750万ドルを調達

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バンコクを拠点とし、Stripeに似た決済事業を展開するOmiseがシリーズBで1750万ドルを調達した。この資金を活用し、東南アジアでの事業を更に拡大する方針だ。

同社の決済ゲートウェイシステムを使えば、オンラインでのクレジットカード決済を簡単に導入することができる。東南アジアの主要6ヵ国ではそれぞれ異なる決済システムを導入する必要があり、オンラインのクレジットカード決済を導入するのは困難だった。それを解決するのがOmiseの決済システムなのだ。現状のところ、Omiseのサービスはタイと日本で利用可能だが(Omise CEOは日本人の長谷川 潤氏だ)、来月にはインドネシア、シンガポール、マレーシアにも事業を拡大する予定であり、同国でクローズド・テストを行っている最中だ。それに加えて、ベトナム、フィリピン、ミャンマー、ラオス、カンボジアへの事業拡大も視野に入れている。

今回のラウンドは東南アジアのフィンテック企業としては最大級の規模となる。日本のSBI Investmentがリード投資家を務め、他にもインドネシアのSinar Mas Digital Ventures(SMDV)、タイのAscend Money(通信会社Trueの子会社)、そして既存投資家のGolden Gate Venturesもラウンドに参加した。Omiseはこれまでに、2015年5月のシリーズAで調達した260万ドル、当時設立直後だったシンガポールのGolden Gate Venturesから去年10月に受け取った出資金(金額非公開)を合わせ、合計2500万ドル以上の資金調達を完了している。

Omise(日本語のように「おみせ」と発音する)は2014年に長谷川氏とタイ人のEzra “Donnie” Harinsut現COOによって設立された。二人は旅行中のホームステイ先で知り合った仲だという。

Omiseは東南アジアのEコマース企業のポテンシャルを引き出す役割をもつ。東南アジアのEコマースはリテール全体の5%にも満たないのが現状であるが、6億人以上の人口をもち、裕福な中間層が増え続けるこの地域のEコマースには大きな可能性が秘められている。Rocket Internet傘下のLazada(別名「Amazonのクローン」)をAlibabaが10億ドルかけて買収したのはそれが理由でもある。また、Googleが発表したレポートによれば、今後10年間の東南アジアの「オンライン・エコノミー」は毎年2000億ドルの規模となるだろうと予想されている。その東南アジアのオンラインショップで利用される決済サービスとしての地位を築くのがOmiseの目標なのだ。

ライバルは大勢いる。昨年に700万ドルを調達し、Facebookと共同してソーシャル・コマースを試験中の2C2Pなどがその例だ。Stripeも東南アジアで事業を展開している。ただ、完全なローカリゼーションというよりも、Atlasプロジェクトを通して海外からアメリカ国内へのEコマースを拡大するというのがStripeのアプローチのようだ。

東南アジアではオンライン決済の60%が現金決済であり、現地企業は現金決済にフォーカスしている。その一方で、Omiseが扱うのはデジタル決済のみだ。その理由としてHarinsutは、東南アジアにもキャッシュレスな未来がやってくるからだと話す。そして、完了までに何日もかかり、手動での操作も必要な現状の決算手段よりも速くて簡単なソリューションを目指しているのだ。

彼はTechCrunchとのインタビューで、「私たちは顧客から小売店への支払いだけでなく、小売店から業者への支払いにもフォーカスしています。現状では、(業者への支払いが完了するまでに)1日かかりますが、私たちが目指すのは即日送金です。すべてを自動化して、書類を作成して銀行に持っていくという手間も省きます。そのプロセスでは人間の手が一切必要ありません。そうすることで、ヒューマンエラー、時間、コストを減らすことを目指しています」と語った。

OmiseにとってEコマースは最も明らなビジネスチャンスだ。しかし、今後は大企業向けのビジネスにも注力していきたいと長谷川氏は語る。Omiseが日本で事業を展開しているのはそれが理由でもある。日本企業が東南アジアに進出するケースがとても多いからだ。

「Eコマース向けの事業は成長しています。しかし、私たちの収益の大半は大企業向けのビジネスから生まれています」と彼は話す。「小さなスタートアップ向けのビジネスはまだ発展途上です。サステイナブルなビジネスを構築するために、航空会社や保険会社、通信会社などの大企業向けの事業にフォーカスしています。それにはBDO-on-demandなどの会員制サービス、Eリテール、Eガバメントなども含まれます。そこが今のターゲット・セグメントなのです」。

Omiseは決算資料を公開していないが(頼んでみたもののダメだった)、Harinsutによれば来年には損益分岐点に達しそうだとのことだ。しかし問題はサステイナブルな水準まで利益を上げられるかどうかだと彼は語る。Omiseの収益は取引ごとに受け取る3.65%の手数料だ。100万タイバーツ(約303万円)未満の送金には約1ドルの料金がかかる。大口の顧客向けにはフレキシブルな料金パッケージも用意されている。

Omiseにとって東南アジアが最重要マーケットであることには間違いないが、将来的にはオーストラリア、ニュージーランド、韓国、香港などへの事業拡大も視野に入れている。

長谷川氏は「インド市場にもとても興味があります」と語る。「とても大きな市場ですし、今でもEコマースと金融機関には大きなギャップが存在しています。私たちが進出するスペースも残されているでしょう」。

このところOmiseは人員の増強にも力を入れている。June Seah(Visa APAC出身)とMichael Bradley(Visa子会社のCyberSource出身)がOmiseの顧問に就任したのだ。Bradleyは併せて同社の最高コマーシャル責任者(CCO)にも就任している。この2名に加えて、同じくVisa CyberSource出身のSanjeev Kumarが最高プロダクト責任者(CPO)に、Groupon APACのLuke Chengが最高財務責任者(CFO)にそれぞれ就任している。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

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TechCrunch Japan

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