2017年の流行語大賞にはWeb関連の言葉としてAIスピーカーやユーチューバー、インスタ映えといったキーワードがノミネートされた。仮にもう少し範囲を絞り、国内のスタートアップ界隈限定で流行語を決めるとすると、「ライブコマース」は少なくともノミネートはされるのではないだろうか。
スマートフォンでライブ配信をしながら、その最中にモノを売るライブコマース、は中国で先行して注目を集め今年に入って日本でも話題となった。
11月16日・17日に開催されたTechCrunch Tokyo 2017でも、ライブコマースに取り組む3社によるパネルディスカッションを開催。TechCrunch Japan副編集長の岩本有平がモデレーターを務める中、メルカリ執行役員の伊豫健夫氏、Candee代表取締役副社長CCOの新井拓郎氏、BASE代表取締役CEOの鶴岡裕太氏がそれぞれの戦略や今後の展望を語った。
3社がライブコマースを始めた理由と狙い
3社の中でライブコマース用の独立したプラットフォーム「Live Shop!」を提供しているのがCandee、既存のプロダクトにライブコマース機能を組み込む形で提供しているのがメルカリ(メルカリチャンネル)とBASE(BASEライブ)だ。
国内でもいち早くライブコマース市場に参入したCandeeは6月に「ライブ配信× コマース× インタラクティブ」をテーマとしたLive Shop!をリリース。インフルエンサーやモデルが自身のチャンネルを解説し、ライブ配信を行う。
同社は「ソーシャルビデオ革命を起こすこと」を目標に掲げていて、スマホファーストかつソーシャル性とインタラクティブ性を兼ね備えるライブストリーミングに注目。この領域では女性向けのプラットフォームが少ないことから、ファッションなどの分野にまずは集中する形でスタートしている。新井氏によるとライブコマースにしたのは、広告以外のマネタイズ手段を作る目的もあったという。
メルカリの場合はライブフリマ機能という形で7月にメルカリチャンネルをリリース。直接的なきっかけは中国の上海で実際にライブコマースを目にしたこと。「C2Cの売買がリアルタイムで進む様子を見て驚いた。これを自分たちがやらなければ誰がやるのかという話で盛り上がりリリースに至った」(伊豫氏)
当初はインフルエンサーや芸能人が中心で始まり、8月から個人ユーザーにも解放。農家の人が野菜を売ったり、家族が古着を売ったりなど幅広い領域で利用が進み、1日800名ほどが配信を行うほどに成長している(11月のTechCrunch Tokyo開催時点)。
BASEもメルカリ同様にライブコマース機能を9月にリリース。BASEでは自分のブランドや商品を作る店舗が多く、商品のブランディングが課題のひとつ。商品ページのテキスト情報だけでは十分に伝わらない魅力を届ける手段として、ライブ機能を始めた。11月時点で1日あたりの配信数は100本弱、売れる商品だと1時間の配信で売り上げが100万円弱になっている。
メルカリやBASEで共通していたのは、商品の背景にあるストーリーを伝える手段としてライブ配信に注目していること。視聴者とのコミュニケーションも含めて、商品の魅力を深ぼって紹介できるのがライブならではの利点だという。
積極的にライブ参加する視聴者ほど、購入率が高い
参入の背景はそれぞれ違えど、やはり気になるのは実際に売れているのか、手応えを感じているのかどうかということ。その点について新井氏は「ぶっちゃけ日本でも売れるのか?またどうやったら売れるのか?ビジネスモデルの検証を最初にやった」という。
具体的にはユーザーボリュームは追いかけず、商品が売れるかどうかのコンバージョンやどのような演者の評判がいいのかを分析した。「結果として見えてきたのが、ライブに参加するほど購入率があがるということ」(新井氏)
Live Shop!ではライブ中にハートやコメントをした場合にライブ参加としてカウント。実際に商品を購入した人は、その他の人に比べて2倍のライブ参加率だったそうだ。それがわかったため、次のフェーズでは「どうやればライブに参加してもらえるか」に着目して映像の作り方や機能面の研究をしているという。
売れる人と売れない人の二分化が進む
メルカリチャンネルの場合はLive Shop!とはある意味真逆。伊豫氏いわく「インフルエンサーじゃない一般の人が配信しても売れるのか?」ということを検証してきた。
「売れる人と売れない人の差が広がり、二分化が進んでいる状態。売れる人はメルカリの中でインフルエンサーとなってフォロワーがつき、ずっと売れ続ける。1番の成功例はテレビでも紹介された農家の方。収入が20~30倍になり『人生が変わった』という声もいただいている」(伊豫氏)
その一方で全く売れない事例もたくさんあるそう。ライブ配信で商品の魅力を説明することは簡単なことではない。多くの場合はスペックを語るくらいしかできず、この点が今後伸ばしていく上でのポイントだという。
売れるユーザーと売れないユーザーの二分化現象はBASEでも同様だ。鶴岡氏は「本当に好きでその商品を作っている・売っている人と、お金儲けが先行している人で結果が大きく変わってくる」と話す。
「ユーザーからの質問に対する回答ひとつですぐにわかる。たとえばある漆職人の方の場合は『どこの漆なんですか?』という質問に対して、日本の漆の状況や特殊な作りなど永遠と語り続けるほど。好奇心があってものづくりが好きな人のライブは、インフルエンサーかどうかに限らず盛り上がる傾向にある」(鶴岡氏)
このようなチャンネルは固定のファンがつき「人で売れる」ようになるというのは、3社とも共通しているとのこと。商品を売り始めた瞬間に商品が売れて「バグが起きたのかと思った」(新井氏)こともあるそうだ。
少なくとも現段階においては、“誰が発信しているのか”ということが重要なポイントになっているのは間違いない。ただ新井氏が「猛烈に売れる人は、100人もいないのではないか」と話すように、ライブコマースで物を売ることのできる人数には限りがある。
「現時点でのマーケットサイズは小さいが、マーケットポテンシャルは大きい。人の育成や発掘にも力を入れていく」(新井氏)
ライブ配信を重ねていくうちにスキルをあげ、売り上げを伸ばしていく人は各社にいるそう。伊豫氏は「1日目と2日目の配信で結果は全然違う。配信者が育つのは間違いない」とメルカリチャンネルの事例を紹介。鶴岡氏も「最初は恥ずかしくて顔を出さない人が多いが(慣れていくにしたがって)徐々にみんな顔出しをするようになる」と話す。
ライブコマースの本質は「コミュニティ」にあり
3人は今後国内のライブコマース市場がどのようになっていくと考えているのだろうか。パネルディスカッションの最後にそれぞれが見解を述べた。
「地方のショップオーナーが『今お客さんがいないので1時間だけライブECします』とライブ配信をして商品を売っていたことに未来を感じた。これが来年なのか10年後なのかは別として、今後スタンダードになっていくと思う。ポテンシャルは十分にある」(鶴岡氏)
「中国の事例含め、(2時間で約3億円売れたケースなど)最大瞬間風速にスポットライトが当たっているが、実際にはコミュニティビジネスに近い。永続性、継続性を持ってファンとのコミュニティを育てていくことが重要。その上でスモールサイズのコミュニティをたくさん作るのか、ミドルサイズを狙っていくのか。自分たちはミドルとある程度大きなコミュニティを作りながらブランドを育てていく」(新井氏)
「重要なのは『在庫』と『人』。(この2つをつなぐ)スムーズな仕組みが作れれば日本でもポテンシャルはある。ライブコマースによって物と人の組み合わせのバラエティが豊かになり、新しい流通や市場が生まれている。インターネットとコミュニティの掛け合わせがライブコマースだと考えていて、メルカリでも可能性を狭めずにこの市場を捉えていきたい」(伊豫氏)
セッションが終了してまだ約1ヶ月ほどだが、その間にも大きな動きがあった。Candeeではセッション中に少し話のあった、ライブコマースとD2C(Direct to Consumer)を掛け合わせたプライベートブランドを11月16日に発表。新たな商品展開に取り組み始めるとともに、12月には24.5億円の資金調達を実施した。
メルカリも12月より伊藤久右衛門やインプローブスといった一部の法人にメルカリチャンネルの提供を開始。C2Cという枠組みを取り払って、コンテンツの拡充に向けて動き出している。