HPは「より多様で公正かつ包摂的な」テック業界を目指すための一連の意欲的な目標を発表した。
もちろん、ダイバーシティ(多様性)を実現したいと強く主張しているのはHPだけではない。前TechCrunchレポーターのMegan Rose Dickey(メーガン・ローズ・ディッキー)が詳細に報告しているとおり、ダイバーシティとインクルージョン(包摂性)という考え方がテック企業の取り組むべき課題として上がるようになってから数年が経過している。
HPのダイバーシティ担当最高責任者Lesley Slaton Brown(レズリー・スレートン・ブラウン)氏によると、インクルージョンは、1939年の創業以来、同社が重点的に取り組んできた課題であるという。現在、HPの全世界の従業員数は約5万人にのぼり、管理職の31%、技術職の22%が女性だ。この数字は、ほとんどの業界の平均を上回っている。
この割合をさらに高めるため、HPは、経営幹部(局長クラス以上)の完全な男女平等、30%を超える技術系とエンジニアリング部門の女性社員の割合、社内の少数人種 / 民族の割合を労働市場における割合と同等以上にすることという3つの目標を発表した。スレートン・ブラウン氏によると、同社は2030年までにこれらの目標を達成する決意だという。
スレートン・ブラウン氏に、これらの目標と、その達成計画、および説明責任の履行計画について、詳細を聞いた。
【編集部注】このインタビューはわかりやすくするために編集されている。
TC:貴社がこの目標を掲げるようになったきっかけと、社内の(性別、人種、民族などに関する)平等性を高めるためにこれまでに実施してきた取り組みについてお聞かせください。
スレートン・ブラウン氏:インクルージョンとダイバーシティは当社が創業時から重点的に取り組んできた課題です。今、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大と隔離生活、およびGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏の殺害事件が米国全体に及ぼした影響により、人種的平等と既存の体系的かつ構造的差別に対する対応が一層強化されました。
これをきっかけに、当社では「人種平等と社会正義に関するタスクフォース(Racial Equality and Social Justice Task Force)」を立ち上げることができました。その目的の1つは、とりわけHP社内の黒人やアフリカ系米国人のレプリゼンテーションを高めることです。また、当社と協力関係およびパートナー関係にある黒人およびアフリカ系米国人のサプライヤーやベンダーに、より多くのチャンスを与えるために必要なことについても考えています。最終的には、どうすれば国内外のコミュニティに影響を与えることができるか、という点に尽きます。具体的には、無意識の偏見をなくすためのトレーニングを提供するための政策と法律、および市政機関との交渉などです。これらすべての活動が始まり、1年が経過した今、大きな前進が見られていると思います。
また当社は、Human Rights Initiativeも立ち上げ、平等と人権の保護を進めています。気候変動対策と人権保護の実現に向けて、本当に真剣に取り組んでいます。
TC:貴社は、管理職と技術職におけるバランスの是正、例えば女性比率を向上させるためにさまざまな対策を講じてきたように思います。それは人種間格差の是正だけに限定されません。こうしたさまざまな目標の具体的な内容と、ダイバーシティとインクルージョンを高めるためにこれまでに貴社が実施した内容についてお聞かせください。
スレートン・ブラウン氏:当社は、PC・プリンター部門として2015年にHP Co.から独立したとき、何よりもまず、取締役会のダイバーシティを実現することを強く意識していました。現在、当社の取締役会の構成を見ると、約45%が女性、35%が少数民族、取締役会だけでマイノリティーが60%を占めています。当社の取締役会のダイバーシティはテック業界の中でも最も高くなっています。取締役会の構成(高いダイバーシティ)が重要なのは、それによって企業のビジョンを推進し、企業戦略を導くことができるからです。
これは、私が当時この役職に就いたときに最初に行ったことの1つです。目的は、我々が行うすべての活動の中にダイバーシティ、平等性、インクルージョンを埋め込むことでした。
TC:貴社はどのようにして説明責任を果たしていますか。
スレートン・ブラウン氏:一般社員から取締役会まで、我々の業務内容について真摯にお答えできるようにしています。我々がまとめたダッシュボードやマトリックスは取締役会に回され「実施内容、監視方法、最終的にもたらされたインパクト」が伝えられます。これが我々が今構築している仕組みです。私はこれをインフラと考えています。つまり、取締役会から経営幹部チームまで誰もが説得力のある説明をする用意ができている状態です。
この目標を設定したら、アクション、プログラムを推進し、インフラとエコシステムを介して実行に移し、目標を達成します。これには、米国女性エンジニア学会(Society of Women Engineers)、米国黒人エンジニア協会(Society of Black Engineers)、米国アジア人エンジニア協会(Society of Asian Engineers)などの組織と連携することも含まれます。連携するだけでなく、そうした組織を構築したり組織に投資したりして、パートナー関係を構築し、パイプラインを確保します。
TC:社内のレプリゼンテーションを労働市場のレプリゼンテーションと同等以上にするというのは、具体的にどのような意味でしょうか。
スレートン・ブラウン氏:確かに混乱を招く表現だったかもしれません。これは、全米の人口動態に一致させるという意味ではなく、テック業界の労働市場の人口動態に一致させるという意味です。例えば、当社の管理職におけるアフリカ系米国人の割合は約4%です。当社の目標は、これを2025年までに6%以上にすることです。
TC:これらの管理職や技術職に応募する女性やマイノリティーの数が少ないために目標の割合に届かなった場合はどうしますか。例えば、資格のある白人男性を排除しますか。
スレートン・ブラウン氏:我々は人権は平等という立場に立っています。また、男女間、人種間の平等と社会正義活動を推進することにも重点を置いています。具体的には、パイプラインの多様性や人材プールを確保する方法を探っています。
私は人材の不足など存在しないと考えています。問題は人材を確保する方法にあります。従来は、スタンフォードやMITなどの一流大学から人材を確保してきました。でも、頭の良い人たちや優れた人材はどこにでもいるのです。経済的に苦しいため、コミュニティカレッジに進んでから一流校に転入する学生もいます。このように、いわゆる歴史的黒人大学(HBCU)以外の選択肢もあります。
例えば、HPでは、HBCUに質の高いプログラムを開設して、従来なら特定の職種に応募する機会さえなかった学生たちにその機会を与え、それだけでなく、HPの拠点を実際に訪れてインターンとして働く予定の部署を見学できるようにもしています。当社の目標は、もちろん、業績に基づいてインターンを正規社員に変換する(昇格させる)際に、100%の変換率を達成することです。つまり、これは学生から社員になるまでのすべてのプロセスを支援する包括的なアプローチです。
女性や少数民族に関するこうした目標を立てると、白人男性は放って置かれている印象を受けるかもしれません。ですが、テック業界では白人男性は多数派なのです。HPで行っているのは、インクルージョンと相互信頼に基づく力強い文化の構築です。ですから、白人男性も雇用していますし、有能な女性、少数民族、さらには、退役軍人や身体障害者も採用しています。
要は、採用活動の幅を広げ、学生の選択肢として当社をアピールし(これは当社の目標、つまりレプリゼンテーションの低いグループの選択先となること)、そして入社した人たちを歓迎することです。つまり、学生たちを引き付け、雇用し、保持し(会社に留まってもらい)、教育や育成に投資し、昇格を支援します。これが、当社の取り組みです。
TC:人権のために貴社が行っている取り組みには、他にどのようなものがありますか。
スレートン・ブラウン氏:今回の発表は、全従業員とその能力向上を強化する方法に関することであり、物事を実行する際には、その方法も内容と同じくらい重要であることを示すものです。それは人権を尊重し、人権を最優先するということです。当社がサプライチェーンで働く人たちに約束しているのは、当社のベンダーが現代版の奴隷制度、つまり、学位や教育のある人たちを取り込む一方で、法外な手数料を課しパスポートを取り上げるようなシステムに労働者を放り込むようなやり方に加担しないようにすることです。
当社は、環境を作り、可視性を実現し、回復力のあるサプライチェーンを作ることで、そのような現代版の奴隷制度に加担しない、人権を尊重する企業でありたいと思っています。そして、当社の製造サプライヤーにもその目的に貢献して欲しいと思っています。
TC:報道向け資料には、HPは、管理職における男女平等の実現にコミットした最初のFortune 100社テック企業であると記載されています。貴社が先例を作り、他社がそれに続くようになることを願っています。
スレートン・ブラウン氏:そうですね。これは本当に大きな目標ですし、我々が実行している戦略とベストプラクティスの中には、試しに女性を採用するといったものではなく、新しい標準の確立を目指しているものもあります。
当社の目標とビジョンは、世界で最も持続可能性のある公正なテック企業になることです。ですから、口だけではなく、実行に移す必要があります。私はこのHPの文化が好きです。議論を尽くして、実際にアクションを起こし、2030年までに持続可能性のある公正な企業になるという目標を達成したいと思います。
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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:HP、ダイバーシティ、インクルージョン、インタビュー
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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)