編集部注:本稿の著者Albert Wenger(アルバート・ウェンガー)氏はUnion Square Venturesのマネージング・パートナー。
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デジタルテクノロジーは過去に類を見ない広がりと規模で市場構造を破壊してきた。今、また1つイノベーションの波が訪れている、それは世界経済の脱炭素化だ。
各国政府は未だに気候変動危機と正面から戦うために必要な信念に欠けているが、全体的方向性ははっきりしている。欧州における炭素の価格は、1トンあたり10ドル(約1100円)以下から50ドル(約5500円)以上へと高騰している。Shell(シェル石油)はオランダ裁判所で厳しい審判を下された。2021年初めにテキサス州で起きた大規模停電は、既存のエネルギー供給が高度工業国においてさえ脆弱であることを露見させた。脱炭素化を現実にするためには、信頼できるクリーンな発電技術の開発、配備への投資が緊急の課題である。
先見の明のある投資家はこれを理解している。Bloomberg(ブルームバーグ)によると、2020年に低炭素テクノロジーへの国際投資は5000億ドル(約55兆350億円)に達した。再生可能エネルギーがそのうち3000億ドル(約33兆210億円)を占め、運輸の電化(1400億ドル、約15兆4110億円)と暖房(500億ドル、約5兆5040億円)が続いている。
しかし、まだゴールにはほど遠い。International Energy Agency(国際エネルギー機関)によると、2021年の全世界CO2排出量は、2020年水準を15億トン上回る見込みだ。そして全世界エネルギー消費の80%は 未だに石炭、石油、ガスからなっている。
我々が飛躍的革新の可能性を持つ新技術を支援し続けなくてはならない理由はそこにある。中でも期待されているのが核融合だ。核融合は恒星を光らせる原動力となるプロセスであり、人類にとって最もクリーンなエネルギー源になる可能性を有している。我々はすでに、核融合エネルギーを間接的に利用している、ソーラーエネルギーとして。核融合炉ができれば、天候に左右されない「常時稼働」バージョンを手に入れることができる。
しかし、まだその方法もわからない核融合になぜ投資するのか。第1に、これは二者択一の提案ではない。再生可能エネルギー設備を築くのと同時に新たなエネルギー生産方法に投資することができる。なぜなら後者は、少なくとも開発の初期段階では、比較的少額の費用しか必要としないからだ。米国政府の最新計画では、今後10年間に自動車輸送の電化に1740億ドル(約19億1530億円)を投入する予定なので、核融合発電所の建設に20億円投資することは実行可能と思われる。
第2に、我々は今これまで以上の電気が必要になりつつある。無炭素エネルギー源の国際需要は2050年までに3倍になると予測されている。都市化の増加、産業プロセスの電化、生物多様性の損失、新興市場におけるエネルギー消費の増加などによる。
第3に、必要な支援技術の飛躍的な発展がある。核融合の磁場封じ込め方式に使用される超電導磁石は価格が大きく低下し、慣性封じ込め核融合のためのレーザーははるかに強力になり、材料科学の躍進によってナノ構造ターゲットが利用できるようになることで、低エネルギー中性子燃料 PB11などのまったく新しい核融合のアプローチが可能になる。
幸い、多数の世界レベルのチームが起業家精神を発揮して核融合の開発、製造に取り組んでいる。現在世界で少なくとも25のスタートアップが核融合を目標に掲げ、広範囲のテクノロジーを駆使して問題にアプローチしている。Crunchbaseによると、2020年に全世界で民間核融合企業に投資された金額は約10億ドル(約1100億円)に上る。
成功した核融合の利点は無限に近い。クリーンエネルギー生成市場には1兆ドル(約110兆円)規模の可能性がある。Materials Research Societyは、増加する世界エネルギー需要を満たすために2030年から2050年までに26 TV(テラワット=10億キロワット)の一次エネルギー容量が必要になると推計している。1 TWの発電能力があれば3000億ドルの収益を生み、2030~2050年の市場シェアの15%は年間収益1兆ドルに相当する。
ここでは枠を捉えるシュートがたくさん必要であり、Susan Danziger(スーザン・ダンジガー)氏と私がすでに3社の核融合スタートアップに個人投資しているのはそのためだ(米国のZap EnergyとAvalanche、およびドイツのMarvel Fusion)
しかし私たちを動機付けている主な理由は経済的利点の可能性ではない。人類の歴史の軌跡に消えることのない違いを残すチャンスがあるからだ。過去数十年間に起業家や投資家が蓄積してきた巨大な富のごくわずかな部分をここる投資することで、核融合が成功する可能性は飛躍的に高まる。それは、ベンチャー資金と政府からさらに多くの出資を得られることにつながる。
今こそ、一致団結して脱炭素化に向かう時だ。そして核融合の画期的可能性への投資はその取り組みの一部になるべきだ。
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カテゴリー:EnviroTech
タグ:コラム、脱炭素、気候変動、核融合
画像クレジット:KATERYNA KON/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images
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(文:Albert Wenger、翻訳:Nob Takahashi / facebook )