【書籍】通貨の未来が変わる?『ビットコインのからくり』

編集部:この記事は、本の要約サイト「flier(フライヤー)」と共同で選書したIT・テクノロジー関連書籍の要約を紹介するものだ。コンテンツは後日、フライヤーで公開される内容の一部である。

タイトル 暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり
著者 吉本 佳生、西田 宗千佳
ページ数 272
出版社 講談社(ブルーバックス)
価格 972円(税込)
要約者の評点 総合:4.0(5点満点、下記3点の平均値)
革新性:4.5、明瞭性:4.0、応用性:3.0

要約者によるレビュー

ビットコイン(Bitcoin)と聞くとどのような印象をお持ちだろうか。マウントゴックス(Mt.Gox)という当時最大規模の取引所の破綻や、投機対象として不安定なもの、将来有望な暗号通貨というような、さまざまな印象があるだろう。本書はその名の通り、ビットコインを客観的に評価しようという野心的な書籍であると言える。

マウントゴックスの破綻のニュースは多くの方に影響を及ぼしたため、それ自体はネガティブなインパクトを持つだろう。しかし、だからといってビットコインそのものの信頼性が揺らいだ訳ではない点に注意が必要だ。

今回の騒動はあくまでもビットコインの取引所側の瑕疵が起因となり発生した問題であって、ビットコインの暗号が破られて多大な損失を出したものではない。一般的に通貨を取り巻くシステムは、国家の軍事力、法的拘束力、中央銀行、金融機関、決済システムなど、多くの要素から成り立っており、日本国通貨である「円」に関しても盤石なものではないのである。

本書はビットコインを中心に展開されるが、その内容は通貨制度、暗号の仕組み、中央銀行の歴史、ウェブ上およびリアルでの決済手段など、多様な要素で構成されている。本書を読めば複数の視点から客観的にビットコインを評価できるとともに、ビットコインなどの暗号通貨に今後の可能性を見出すことができることだろう。金融機関に関わる方やウェブサービスの運営者はもちろん、ニュースに惑わされずその本質を理解しようという一流のビジネスパーソンこそ、本書を読む価値が十分にある。

 

本書の要点

・ビットコインは中本哲史と名乗る人物が提唱した論文を元に世界の技術者が構築した、画期的な暗号通貨である。

・マウントゴックスの破綻によりビットコインが持つ暗号の強固さが損なわれた訳ではない。資産を預かる取引所としてのマウントゴックスの情報システムに問題があったのである。

・ビットコインにはそれを支える中央銀行もなく、武力もない。暗号が破られないという「知力」が基礎になっている通貨だと言える。

 

【必読ポイント】ビットコインは通貨の未来をどう変えるか?

「知力のビットコイン」VS.「武力の国家通貨」

国家通貨を支える中央銀行は、通貨の信用の糧になるのだろうか。現在の中央銀行は、国内でもっとも安全なはずの金融資産である国債を大量に購入することで、その対価である現金を発行する。しかしその信頼は、将来の税収で財政を黒字化し、それまでの借金を返済するというストーリーがあってこそだ。

つまり中央銀行が現金を発行しているからといって、価値の裏づけがある訳でもないから、ビットコインにも中央銀行が必要だ、という議論も不毛なものだ。

中央銀行には「発券銀行」「銀行の銀行」「政府の銀行」という3つの役割が存在している。歴史的にはイングランド銀行にせよフランスの王立銀行にせよ、役割の3番目の「政府の銀行」としての役割として、発足しているものである。当初の中央銀行の目的は戦争継続のための資金を国家に提供することだった。中央銀行はその後、「発券銀行」、「銀行の銀行」という順番で役割を拡大していくことになる。

国家通貨の信用は「法的強制力」と「中央銀行の信用」によって支えられる。特に「危機時」および「国際決済」での信用が不可欠となる。国が滅んでしまえば紙幣の価値がなくなるので、究極的には外国からの侵略を防ぐ「武力」が必要になるのである。

一方で、ビットコインには中央銀行もなく、武力もないので、暗号が破られないという「知力」が基礎になっていると言える。「ビットコインVS.国家通貨」という構図は「ペンVS.剣」に近いのだ。

通貨制度の未来

「ある程度以上の人たちに通貨として信用されていれば、通貨」となるので、すでにビットコインは通貨として機能していると解釈できる。ビットコインも含めて通貨制度の未来を予想すると次の4つのシナリオが考えられる。

① 様々な国家通貨が使われている中で、並行して暗号通貨も用いられる。
② 円の国際化によって国際決済はほとんど円によってなされる。(日本が過去に目指した姿だが、今では夢物語にも見える)
③ 世界全体での通貨統合を米ドル、金、その他通貨のいずれかで実現する。
④ 暗号通貨は生き残らず、様々な国家通貨が用いられる。

これ以外にも様々なシナリオが予想されるだろう。現実的には暗号通貨が市民権を得て①のシナリオになるか、暗号通貨が消滅し④のシナリオになるのかのどちらかかもしれない。

これからの通貨に関しては、可能性を示すことはできるが確実な予想は難しい。今後どうなっていくか、本書を題材に読者自身でも予想していただければと思う。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。