【気になるIT書籍】「ルールを変える思考法」 川上量生著

編集部:TechCrunch Japanでは新たに、本の要約サイト「flier(フライヤー)」と共同で選書したIT・テクノロジー関連書籍の要約を紹介するコーナーを設けることとした。コンテンツは後日、フライヤーで公開される内容の一部である。

タイトル ルールを変える思考法
著者 川上量生
ページ数 236
出版社 KADOKAWA(角川EPUB選書)
価格 1470円(税込)

本書の推奨ポイント

ゲーム好きに朗報がある。本書の著者、ドワンゴ代表の川上氏によれば、ゲーマーには仕事ができる人が多いらしい。

背景にあるのは、ゲームで培うことができる思考力は、ビジネスでも通じることが多いという考えである。「ゲーム」と言っても、スマホやテレビで遊ぶゲームだけではない。もっと広義の意味での「ゲーム」、すなわちトランプなどのカードゲームや、モノポリーなどのボードゲーム、缶けりや鬼ごっこなども含まれる。川上氏はコンピューターゲームよりも、非電源型のゲームを好んでいたようだ。

ゲームを通じて身に付けることができる思考力とは、一体どのような能力なのか。川上氏はそれを「自分が有利なルールを考え、実現する能力」であると語る。それは幼少期に鬼ごっこに少し変わったルール(自分が有利になると思うルール)を加えることで、自分を勝者に導いた経験に似ている。こうした「ルールを変える思考法」はゲームだけでなく、現実のビジネスにも役立つものなのである。

ドワンゴは、『ニコニコ動画』という大人気サイトを運営しているが、このサイトの存在意義を一言で語るのは難しい。しかし川上氏が本書で述べるように、ビジネスもニコニコ動画も一種のゲームであると認識すれば、このサイトを運営する意味に気づくことができるだろう。本書ではニコニコ動画がどのような経緯で生まれ、なぜ成功したのか、「ルールを変える思考法」に基づきその実情が語られている。

本書の重要ポイント

  • ゲームと同様にビジネスにおいても、勝つためには緻密な「ルールの検証」が欠かせない。古くからの業界慣習など、時代が移り変わったことによって本来「変えた方がいいルール」を見つけ出すことができれば、そこにチャンスがある。
  • 勝つためには、「最終的にどうなるか」というイメージをはじめに持つことと、「自分の武器になるものはなんなのか」を考えることが重要である。
  • サービスの独自性は、「きちんと説明できないのだけれども、正しいと自分が思うこと」という感性のレベルまでいけば、競合と争う可能性はかなり減る。それは、人間が理解できるかできないかのギリギリのところに存在し、ヒット作はそうした感性の領域から生まれるものである。

本書の必読ポイント
自分の武器になるものを探し、はっきりと打ち出せ

ビジネスにおいても、川上氏の戦い方はゲームと似ている。その戦い方とは、「最終的にどうなるか」というイメージをはじめに持つようにして、そこから逆算するようにそこまでのプロセスを考えていくことだ。最初に立てたイメージは、時間の経過・環境の変化とともに現実との誤差が生まれてきても、大枠ではそれほど変わるものではない。

ただ、ニコニコ動画に関してだけは、少し違ったという。ニコニコ動画は、結果的に「動画」で勝負することになったものの、最初の段階では「生放送のサービスをやりたい」と考えてスタートした企画だった。というのも、動画共有の分野には既に『YouTube』がサービスを確立しており、そこで勝負しても仕方がないという感覚があったためだ。

このとき川上氏が将来的なビジネス展開をどう考えていたかというと、「長期的な競争で、YouTubeに勝てるか」、あるいは「差別化」できるかということだった。そこで川上氏が目を付けたのは、①外資系の会社は日本でのゲリラ戦の対策には弱いのではないか、②海外の事業者と日本のコンテンツホルダーは最終的に分かり合えないのではないか、という2つの仮説である。この仮説が正しければ、ドワンゴは日本でゲリラ戦を展開しながら、日本のコンテンツホルダーに味方だと思ってもらえるサービスをつくることが有効である。そうすれば、長期的にYouTubeに対抗できる勢力を生み出せるのではないかと考えたのだ。

ゲームもビジネスも同じで、何かのアクションを起こすのであれば、「自分の武器になるものはなんなのか」を考え、それを明確に打ち出していかなければならないのだ。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。