【TC Tokyo 2021レポート】「自分の成長が止まることへの危機感」「巨大市場でド本命の事業を」―スマートバンク・堀井氏と令和トラベル・篠塚氏に聞く連続起業家

【TC Tokyo 2021レポート】「自分の成長が止まることへの危機感」「巨大市場でド本命の事業を」―スマートバンク・堀井氏と令和トラベル・篠塚氏に聞く「連続起業家」

12月2、3日にオンラインで開催された「TechCrunch Tokyo 2021」。そこで行われた「日本でも増える連続起業家」をテーマにしたセッションのレポートをお伝えする。登壇者は、日本を代表する連続起業家(シリアルアントレプレナー)であるスマートバンク代表取締役の堀井翔太氏と、令和トラベル代表取締役社長の篠塚孝哉氏。TechCrunch Japan編集部の安井克至が進行を務めた。このセッションでは日本を代表する連続起業家である2人に、再び起業を行うというのはどういった気持ちや目的からなのか、さらに2回目では以前の経験がどう活きたのかを聞いた。

堀井翔太氏(スマートバンク 代表取締役)

堀井氏はVOYAGE GROUPへ入社したのち、最年少で子会社社長へと就任。その後、日本初のフリマアプリである「FRIL」を運営するFablicを創業している。さらに2016年には同社を楽天に売却後、2018年まで代表取締役CEOを務めた。2019年にはVisaプリペイドカードと家計簿アプリがセットになった新しい支出管理サービス「B/43」(ビーヨンサン。iOS版)を開発・運営するスマートバンクを設立している。

堀井翔太氏(スマートバンク代表取締役)

堀井翔太氏(スマートバンク代表取締役)

【TC Tokyo 2021レポート】「自分の成長が止まることへの危機感」「巨大市場でド本命の事業を」―スマートバンク・堀井氏と令和トラベル・篠塚氏に聞く「連続起業家」

篠塚孝哉氏(令和トラベル 代表取締役社長)

篠塚氏は、2011年にLoco Partnersを創業し2013年に宿泊予約サービス「Relux」をスタート。2017年春にはKDDIグループにM&Aにて経営参画し、最年少(当時)となる子会社社長に就任。2020年にLoco Partnersの社長を退任した後、2021年4月に海外旅行のDTA(デジタルトラベルエージェンシー。オンラインのみの旅行代理店)として令和トラベルを創業。第一種旅行業免許(観光庁長官登録旅行業:第2123号)を取得した。旅行体験のアップデートを目指し、海外旅行予約アプリNEWT(ニュート)のティザーサイトを公開。優先登録の受付も開始した。

篠塚孝哉氏(令和トラベル代表取締役社長)

篠塚孝哉氏(令和トラベル代表取締役社長)

 

同世代がまだまだ活躍しており、自分自身の成長が止まってしまうことに危機感

まず2回目の起業を行った理由を堀井氏に伺うと、Fablicを起業し楽天傘下でのCEOを退任後、1カ月ほど休みを取っていたが、特にすることがなく飽きてしまったという。そんな中で、同世代の人間がまだまだ活躍しているという現状に触発されたほか、自分自身の成長が止まってしまうことへの危機感が強くなり、再び起業を行おうと思ったそうだ。

また何より、Fablicという、ユーザーや取り扱い規模の大きなサービスを経験したことから、もう1度ゼロから作り上げてみたいという気持ちが強くなったことが大きかったとしている。

さらに巨大なマーケットで「ド本命の事業をやってみたい」

国内旅行を事業とするLoco Partnersを起業した篠塚氏は、M&AによりKDDI子会社での社長を経て退任。その1年後ほどに海外旅行事業に取り組みたいと思い令和トラベルを創業した。ミッションとして「あたらしい旅行を、デザインする。」またビジョンとして「令和時代を代表する、デジタルエージェンシーを創る。」掲げている。

同氏は創業の理由として、「2回目の起業をするからには、もっと巨大なマーケットでチャレンジしたい」と考えたという。海国内旅行対象のオンライン旅行事業は4000億円ほどのマーケットだが、海外旅行市場はさらに巨大な4兆4000億円(コロナ禍前)規模のマーケットとなっており、ここで「ド本命の事業をやってみたい」ということで始めたそうだ。【TC Tokyo 2021レポート】「自分の成長が止まることへの危機感」「巨大市場でド本命の事業を」―スマートバンク・堀井氏と令和トラベル・篠塚氏に聞く「連続起業家」

またコロナ禍により、ホテルや航空会社の稼働率が低くなっており、ピーク時では仕入れが難しかった施設からも仕入れ可能で「ある種のボーナスタイム」であること、国内競合企業が財務体質を大幅に悪化させており、現在であれば財務優位が作れること、後発の新規参入者であるため身軽にすべてを実現できることを挙げた。海外旅行自由化以来の、1度あるかないかの参入チャンスであると捉えて起業したという。【TC Tokyo 2021レポート】「自分の成長が止まることへの危機感」「巨大市場でド本命の事業を」―スマートバンク・堀井氏と令和トラベル・篠塚氏に聞く「連続起業家」

「ヒト・モノ・カネ・管理の4区分について、社長の仕事において何に時間を使うべきなのか」を考えていた

一口に「連続起業」とはいっても、業種が変わった堀井氏と同業種である篠塚氏では考えが違うのではないか。また両名に2回目だからこそわかった・大変だったことについても尋ねていた。

篠塚氏は、過去に積み重ねてきた「信頼残高」をフルに使えた点が非常に有利だと感じたそうだ。具体的には、Relux運営時代のクライアント・株主・社員・会員に提供してきたものの実績が、資金調達や人材採用の面で影響したという。

また「ヒト・モノ・カネ・管理の4区分について、社長の仕事において何に時間を使うべきなのか」を考えていたことが役に立ったとも述べた。篠塚氏によると、多くの成長するユニコーンはモノに集中にしているものの、創業期は「ヒト・カネ・管理」に時間がかかるそうだ。そこで最初のうちに負荷をかけることにして、ヒトは人事のヘッドとしてCHRO(Chief Human Resource Officer)を採用しよう、カネは最初から22億円を資金調達しようと決めて実行したという。管理についても、この半年間として一気に投資して体制を構築してきたそうだ。これらにより結果としてモノに集中する時間を作れるとみているとした。

創業1年目から資金調達面でブーストできたが、異業種での起業ならではの苦労も

堀井氏は、サービスを作る原点として「課題を見つけて、その課題を解決するプロダクトを作る」ことを会社と個人のポリシーとしており、その内容が違っただけという認識だという。特に異業種だからどうこうといった感覚はないとしていた。

また信頼残高が使える点が大きかったという。プロダクトをまだリリースしていない時期でも、以前の実績から大きな金額を集めることが可能だった。1度目の際はそうした実績がなかったためヒトと資金調達に苦労したが、2回目は創業1年目から資金調達面でブーストできたことが大きいと語った。

またヒト・モノ集め、プロダクト作成のプロセスは、1回目と2回目の創業で踏襲できたものの、異業種であるため解決する課題が変わり、事業に対するアプローチや戦略が違うことから、その点は苦労したという。金融関連の免許を取得するために1年程度かかるなど金融関連の法律・規制に従う必要があり、どうしてもまったく知識がないものが出てきたそうだ。【TC Tokyo 2021レポート】「自分の成長が止まることへの危機感」「巨大市場でド本命の事業を」―スマートバンク・堀井氏と令和トラベル・篠塚氏に聞く「連続起業家」

連続起業と信頼残高

堀井氏と篠塚氏の両者とも、連続起業においては、信頼残高を積み重ねておくことが重要だと口にしている。いわゆる「チート」「ハック」のようなものはないという。「サービスを伸ばした」「M&Aなどの形で投資家にリターンを返した」「社員にもリターンが出た」など、結果による実績の積み上げでしか貯められないものだという点も共通だ。両名とも「起業家は、結果でお返しするしかない」「とにかく数字を出す」としていた。

もし、そうした信頼残高のない人が連続起業を行う場合のアドバイスとしては、堀井氏は、その本人の得意なやり方のうち、(他の人のなど)うまくいっている成功体験を試してほしいと語った。篠塚氏は、1回目の失敗を恥じることなく、何を学んだのかを確認すること、また大きく始めるのは難しいため小さな実績を積み上げていくしかないと指摘した。その積み上げを貯めて、次につなげることを繰り返すことを勧めていた。

また新たな起業を行うことあるのか

最後に「また新たな起業を行うことあるのか」と問うと、両名とも現在の会社を大きく成長させることしか考えていないと答えた。とはいえ、堀井氏は、将来現役でいたいと考えており、もし今後現在手がけている会社をリタイアしたらまた何かしたいと語った。篠塚氏は、他社との協力など今の会社・事業を伸ばすため何らかの新事業を行う機会があればぜひやりたいとしていた。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。