何千マイルも離れた農場で大量生産され、ポリ袋に入れられたハーブの切れっ端の代わりに、小さなバジル農園がおさまった照明付きのコンテナが置いてあるスーパーを思い浮かべてみてほしい。
さまざまなセンサーが作物を観察し、水や肥料はオンラインシステムで管理されている。同心円上に植えられたバジルは、成長度合いに沿って真ん中から外側に向かって広がり、1番外側のものはお客さんが収穫できる状態にある。
このような未来は、もはや想像の世界ではなくなった。SF作家William Gibsonの言葉を言い換えれば、「未来の農場はすでにここにある。ただ行き渡っていないだけだ」ということだ。
3、4年前にこのアイディアを発表した頃は、正気ではないと思われていました
ベルリンに拠点を置き、40人超の社員を抱えるInfarmは、レタスなどの野菜やハーブ、さらにはフルーツまで育てられるような”屋内垂直農業”システムを開発している。コンセプト自体はそこまで新しいものではないかもしれない。日本では限られたスペースを使って多大な需要に応えるため、垂直農業が早くから発達してきた。しかし、他のスタートアップとInfarmの違いは、モジュラー型のアプローチと市場戦略にある。
これはどういうことかというと、同社はひとつひとつは小さくとも組み合わせることで無限大に広げられる農場を開発しており、設置場所も人里離れた倉庫ではなく、食料品店やレストラン、ショッピングモール、学校など消費者が作物と間近に触れ合え、収穫までできるような場所が想定されている。
「3、4年前にこのアイディアを発表した頃は、正気ではないと思われていました」と共同ファウンダーのErez Galonskaは話す。「Infarmは世界で初めてスーパーマーケットに垂直農場を設置しました。昨年のことで、ヨーロッパ最大のホールセラーであるMetro Groupに私たちのシステムを導入したのですが、今では他のスーパーマーケットからも同じことをしたいという要望をもらっています」
それぞれの農場ユニットで個別のエコシステムが成り立っており、作物が育つのに理想的な環境をつくりあげています
最近ではドイツ最大のスーパーマーケットチェーンEDEKAともパートナーシップを結んだInfarm。彼らのシステムに対する需要には消費者行動の変化が関係しており、「消費者はより新鮮で、より持続可能な商品を求めています」と共同ファウンダーのOsnat Michaeliは語った(3人いる共同ファウンダーのもう一人はErezの兄弟のGuy Galonska)。食品業界全体としても、サプライチェーンの非効率な部分を解消し、ゴミを減らすのに役立つようなテクノロジーが求められていると彼女は言う。
「私たちの食生活の影響で、一年中栽培できる作物への需要が生まれました。しかし、もちろん中にはある季節にしか育たないものや、地球の裏側でしかとれないものもあります。長期間の輸送に耐えられるような野菜は、新鮮さや栄養に欠けるばかりか、農薬や除草剤に覆われていることも多々あります」
それとは対照的に、Infarmのシステムでは化学農薬が使われておらず、賞味期限の長さや大量生産ができるかといったことよりも、味や色、栄養価を優先して作物を育てることができる。屋内に設置できることから季節性も関係なく、生産地と消費者の間にある距離も完全になくなる。これ以上に新鮮な作物はないだろう。
「私たちの農場の裏では、強力なハードウェアとソフトウェアから構成されたプラットフォームが各作業を正確に行っています」とMichaeliは説明する。「それぞれの農場ユニットで個別のエコシステムが成り立っており、作物が育つのに理想的な環境をつくりあげています。さらにInfarmでは、作物の味や色、栄養価を最大化するために、光のスペクトルや温度、酸性度、肥料をそれぞれの作物ごとに調整したレシピも開発しており、プロバンスのルッコラやメキシカンタラゴン、モロッカンミントまで栽培できます」
Infarmの垂直農業システムは、作物を「毎日、半永久的に収穫」できるように開発されてきた。ひまわりの花びらからヒントを得て、作物が植えられるトレーは苗の大きさや成長度合いによって中心から外周へ移動するようになっているほか、肥料の補充はカートリッジを取り替えるだけでよく、水やりも自動化されている。
さらに、それぞれの農場内に並べられたセンサーがデータを収集・記録するため、設置場所から離れた場所にいるInfarmの植物の専門家やテクノロジーチームは、遠隔で作物の状況を観察し、リアルタイムで設定を最適化したり、温度変化などの異常事態に対応したりできる。
「スマートなシステムのおかげで、いつ、どの作物を収穫すればいいのかがわかる上、実際の収穫はお客さんの手で行われます」とGalonskaは語る。「さらに機械学習技術によって、将来起こりそうな問題についても知ることができます」
新しいハーブや野菜を取り扱うときは、作物のタイプによって、専門家とエンジニアが、肥料や湿度、温度、光の強さやスペクトルなどから構成されるレシピ(もしくはアルゴリズム)を開発しており、個々のシステムのレシピは栽培されている作物によって変わってくる。
IoT、ビッグデータ、クラウドアナリティクスという組合せを考えると、Infarmのプロダクトは「FaaS:Farming-as-a-Service(サービスとしての農業)」のようだと言える。さらに、スペースの限りモジュラー型の農場を広げられるというプロダクトの性質は、ボタンひとつで容量を増やせるクラウドサービスにも少し似ている。
上記のような特徴を備えたInfarmのビジネスは、作物の種類という意味でも、収穫量という意味でもスケール化が可能だ。スーパーマーケットであれば、お客さんが近くで作物を見られるように数種類だけ店内で栽培し、店の奥に在庫をストックしておくということもできるし、大手のオンラインショップであれば、数百種類の作物を何千ユニットも同時に育てることもできる。
このビジネスチャンスに投資家が気づかないわけがない。
最近Infarmは、ベルリンのCherry Venturesがリードインベスターを務めたラウンドで400万ユーロを調達した。このラウンドには、他にも社会投資家のQuadiaやロンドンのLocalGlobe、Atlantic Food Labs、デザイン会社のIdeo、Demand Analytics、エンジェル投資家などが参加していた。
Cherry VenturesのファウンディングパートナーであるChristian Meermannは、他の垂直農業ビジネスと比べる中で、Infarmが開発したシステムの分散型の性質が特に目を引いたと話す。つまりInfarmは、大規模な農業施設を自ら準備することなく各地に農場を置き、クラウド技術を使って一箇所から全てを観察・管理できるネットワークを構築しようとしているのだと彼は言う。
さらにMeermannは、Infarmの機械学習テクノロジーも評価している。機械学習テクノロジーによって、それぞれの作物にピッタリのレシピを作れるため、収穫物の味が大幅に向上するだけでなく、普段見ることがないような作物も育てることができるのだ。
「Infarmを設立して間もない頃は、周りの人から”理想主義的な夢想家”だと思われていました。私たちが全員独学で必要な知識を身に付けていたため、多くの人は新しい農業ソリューションを開発するだけの専門性が私たちにはないと思っていたことも関係しているのでしょう」とMichaeliは付け加える。
「(今の)課題は、私たちに合ったパートナーを見つけることです。今のところはスーパーマーケットやオンラインショップ、ホールセラー、ホテルなど、Infarmの商品の品質や種類、そして固定価格を魅力に感じてくれそうな食品関連業界に注力しています。私たちのプロダクトを使えば、都市部の人たちに作物を育てる喜びを再び感じてもらうことができます」
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)