著者紹介:本稿を執筆したBertrand Piccard氏は、Solar Impulse Foundationの創始者であり、 ソーラー駆動の飛行機で歴史上初の世界一周飛行を成し遂げた人物だ。
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5年前、私は航空史上初となる太陽光エネルギーのみを動力とした世界一周飛行を終えて、Solar Impulse 2をアブダビに着陸させた。
エネルギーとテクノロジーの歴史的なマイルストーンでもあった。 Solar Impulseは実験用飛行機で、重量は自家用車と同程度であり1万7248個の太陽電池を使用していた。それは空飛ぶ実験室のようなもので、創成期のテクノロジーが満載で、再生可能エネルギーを作り出し、保管し、必要なときに最も効率のよいやり方で使用できた。
再びテクノロジーを利用するときが来た。私たちの誰もが影響を受ける気候変動の危機に対処するためだ。気候変動に関するアクションにとって最も重要な10年間、そして地球温暖化を1.5℃に制限するおそらく最後のチャンスを、私たちは迎えている。クリーンな技術が唯一の受け入れ可能な規範であることを、ここで確実にしておく必要がある。こうしたテクノロジーはすでに存在するし、今この重大な時期に、収益を上げるやり方で実装することができる。
ここで説明する4つのイノベーションは私たちの太陽光発電飛行機が生み出したもので、市場は今すぐこれらを利用し始めればよい。手遅れにならずに済むようにだ。
操縦室の断熱から住宅の断熱へ
建築セクターは世界中で最も大きなエネルギー消費者のひとつだ。冷暖房を二酸化炭素排出量の多い燃料に依存していることに次いで、断熱性能の低さとそれにまつわるエネルギー損失が主な理由に挙げられる。
Solar Impulseのコックピットの内側の断熱は、飛行機が非常に高い高度を飛行するために決定的に重要だった。オフィシャルパートナーのCovestroが超軽量の断熱素材を開発してくれた。コックピットの断熱性能は当時の標準よりも10%も向上した。断熱フォームの孔の大きさを40%小さく、マイクロメーターでなければ計測できないほどのサイズにまでしたからだ。密度は40kg/立法メートルと非常に低く、おかげでコックピットは超軽量になった。
この他にも多くのテクノロジーが存在する。市場のあらゆる参加者が自ら進んで、極めて効率の高い建物断熱を標準的な作業手順に組み込むことを、ここで確実にしておく必要がある。
電気航空機の推進からクリーン・モビリティの推進へ
Solar Impulseは最初にして最高の電気航空機だった。4 万3000キロメートルを一度も燃料不足を起こさず飛行した。4つの電気モーターの効率は記録的な97%、標準的な熱エンジンの27%という残念な数字に比べはるかに高い。これはつまり、使用したエネルギーのわずか3%しか失われなかったのに比べ、燃焼による推進では73%が失われたということだ。現在、電気自動車の売り上げが上昇している。国際エネルギー機関によれば、Solar Impulseが2016年に着陸したとき、路上を走行する電気自動車の数はおよそ120万台だった。この数字は現在では500万台を越えている。
しかしながら、このような加速で十分とはまったく言えない。電源ソケットが給油ポンプに取って代わるには今もってほど遠い。運輸セクターは依然として世界中のエネルギーに関連する二酸化炭素排出の4分の1を占めている。電化をもっと迅速に引き起こして、排気管からの二酸化炭素の排量を削減しなければならない。それには、政府が明確な税制上のインセンティブを与え、ディーゼル車とガソリンエンジンを禁止し、大規模なインフラストラクチャー投資を行うことで、電気自動車の採用を押し上げる必要がある。2021年は私たちがゼロエミッション車へと向かう一方通行に入り、熱エンジンを行き止まりに追いやる年であるべきだ。
航空機マイクログリッドはオフグリッドコミュニティにも使える
何日間か昼も夜もなく飛行し、理論上の無限の飛行能力に達すると、Solar Impulseは日中に集めて貯蔵しておき夜間のエンジン駆動に使用していたエネルギーに依存していた。
Si2で小規模ながら利用可能になったものが、将来にわたって有効な、完全に再生可能エネルギーだけの発電システムへの道を開くはずだ。それまでの間は、Si2で使われたようなマイクログリッドが地方のコミュニティのオフグリッドシステムに役立てたり、あるいはエネルギーアイランドによってディーゼルなどの二酸化炭素を多く排出する燃料を今日からでも廃止できたりする。
大規模には、スマートグリッドを模索している。すべての「愚かなグリッド」がスマートグリッドに置き換えられたら、たとえば街は、エネルギーの生産、保管、配送、消費を管理できるようになり、エネルギー需要のビークを下げることで、二酸化炭素の排出量は劇的に減少するだろう。
空中と陸上のエネルギー効率
Solar Impulseの理念は、エネルギーを増産しようとせず、エネルギーを削減することだった。だからこそ、比較的少量の太陽光エネルギーを収集しただけで昼夜の飛行に十分だったのだ。したがって、航空機のあらゆるパラメーター、たとえば翼長、空力、スピード、飛行プロファイルとエネルギーシステムなどは、エネルギー損失を最小化するように設計されていた。
残念ながら、今日のエネルギー使用の大半にある非効率を見ても、このアプローチは未だに際立っている。国際エネルギー機関(IEA)は2000年から2017年にかけてエネルギー効率が推定13%向上したことを明らかにしたが、これは十分とは言えない。投資家を勇気づけるには、政治家の勇気ある行動が必要だ。そのための最も優れた方法のひとつは、エネルギー効率の厳格な基準を導入することだ。
たとえば、カリフォルニア州は建物とコンシューマーエレクトロニクスや家電製品などの機器について、エネルギー効率の基準を定めており、これによって消費者は公共料金の支払額を100ドル(約1万500円)以上節約したと推定されている。環境にも家計にもやさしい対策だ。
Si2は未来だったが、今こそ現在を定義する
こうしたさまざまなイノベーションを使用して制作した当時は、Solar Impulseは先駆的で未来的だった。今、これらは現在を定義するものであって、これらを規範としなければならない。上述のテクノロジーに続く何百ものクリーン技術ソリューションが存在し、お金を生む方法で環境を保護している。そのような技術の多くが「Solar Impulse 高エネルギー効率ソリューションラベル」を保有している。
Si2テクノロジーと同じように、こうした技術がメインストリーム市場に参入することを、ここで確実にしておかなければならない。その規模拡大が迅速であるほど、パリ協定の目標達成と持続可能な経済成長の実現に向けて、より迅速に経済を軌道修正できるだろう。
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カテゴリー:EnviroTech
タグ:再生可能エネルギー 環境問題 コラム
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(文:Bertrand Piccard、翻訳:Dragonfly)