なぜシリコンバレーだったのか? 居心地の良い日本を飛び出した起業家の本音

4月9日から4月10日にかけて開催された「新経済サミット2014」の2日目、最後から2番目のセッションではシリコンバレーで活躍する4人の経営者が登壇。エバーノート日本法人会長の外村仁氏、ソースネクスト代表取締役社長の松田憲幸氏、WHILL共同創業者兼CEOの杉江理氏、Treasure Data CEO兼共同創業者の芳川裕誠氏が「シリコンバレーの日本人」と題して、彼の地でビジネスを展開する魅力や苦労について語り合った。モデレーターはWiL 共同創業者CEOの伊佐山元氏が務めた。

なぜシリコンバレーに行ったのか?

松田:シリコンバレーは人口300万人も住んでないのに、100兆円規模の経済がある。ITの会社としてはシリコンバレーに行かないわけにはない。これまでもいい製品を見つけて日本で売るために短期出張はしてた。でも短期だとミーティングがそれほどできない。それを2週間、1カ月と伸ばすとどんどんいいアライアンスができた。これは住んだらすごいことになると思ってシリコンバレーに来た。

外村:元々はAppleにいた。辞める前に休職してヨーロッパまで行って、そのまま2年くらい滞在していた。起業をしたいわけじゃなかったけどたまたまシリコンバレーで友達の会社を手伝った。来てみると何のリスクもない。まわりには非常にわくわくする人が多い。日本だと気を使うし、本来的なじゃないことにエネルギーを使いがちだけど、シリコンバレーは飽きない。刺激が終わらない場所だと思う。

杉江:非常にシンプルな答え。それは「ユーザーが多い」から。電動の車に関しては市場が15倍違う。日本は2万台、米国は30万台。実際に行きたくなって、自社の電動車いすを分解してハンドキャリーで持っていった。いろいろな人にフィードバックをもらった。あるユーザーには最初はボロボロに言われたが、実際に公園を走らせたら、その人は感動していた。「いままで『May I help you?』ばかり言われてたのに、『Cool!』って言われた」ということだった。シリコンバレーはアーリーアダプターが多くて、新しいもの好きが多い。新しいものを開発するサイクルができやすい。

一番の苦労話は?

杉江:苦労したのは採用。日本とはまったく違った。全員が全員、自信があって「ベストフィットだ」と言ってくる。すごい経験を持っているとみんなが言う。とんでもない例でいうと1人、「スティーブ・ジョブズの知り合いだ」と言う人がいた。アドバイザーになってもらった。でもよく調べたらLInkedInの写真がおかしい。もっと調べたら、インド人のクリケット選手だということがわかった。どういうことか問いただしたら、「それは親戚だ」と言ってきた。詐欺まがいの感じだった。そうやって騙されることもある。

松田:誰をトップにすればいいか悩んだ。英語のできる優秀な人を据えようと思ったが、結局は自分で行った。なぜなら日本の方は10年以上働いている社員が20人以上いて、むしろ日本を任せる方が合理的だと思った。心配していたけど、米国でのディールはいろいろ決まるし、日本国内は自分たちで考えて動くようになった。業績も伸びて、利益も5倍くらいになった。すべてよかった。

芳川:やっぱり会社を始めようと思ってから、実際に始めるところまでの間にうじうじ悩む。ガイ・カワサキの名言に、「何か始めるときに一番大変なのは何かを始めるところ」というものがある。1回始めてみれば心配している余裕はないし、もうやるしかない。

シリコンバレーに来るべき理由

外村:日本でうまくやるうちに、みんな先回り心配症候群になっている。その方がうまく出世できるから。そして考えた挙句なにもできなくなっていく。私もそうだった。会社を始めるときにいろいろ悩んで、半年くらい後にやってみたら、「何もマイナスはないな」と思った。やる前から心配する人が多すぎる。

最近の人はそうじゃないけど、いまの40代くらいまでの人は「答えを出す訓練」だけやってきている。失敗した時の対応を学んでいない。そういうメンタリティーが染み込んでいるから踏み出せない。

会社を創業したのは10年前、日本人の起業家が全然いなかったので、シリコンバレーの日本人起業家ネットワークを作った。結論は、「何を言っても変わらない」ということ。だから今は力をシフトして、学生相手に啓蒙している。ここ数年素晴らしいのは20代、学生がシリコンバレーに来ていること。

この前はAppleが好きな高校生が1人で来て、ホテルのチェックインの仕方がわからないと連絡があったのでやってあげた。やっぱり来たら変わる。大企業の人は、自分が行ってもいいけど、とんがった人を送り込んでほしい。チャンスを与えるといいと思う。

シリコンバレーには青空も空気も刺激的な人もいる。僕ら日本人はお利口すぎて空気を読んでしまうので、シリコンバレーみたいにマジョリティがオープンでイノベーティブな人たちだと、ちゃんとそこに感化される。波に飲まれて吸収してしまえばいい。

「大事なことって、たいてい面倒くさい」

伊佐山:ここにいる人たちは「シリコンバレーの日本人」ではなく、結局のところ「居心地のいい場所を飛び出した日本人」だ。では、どうすればどうなれるか。三木谷さんの言うように「考えてから動くのではなく、動いてから考えればいい」ということだ。

それがこれからの日本人に求められているメンタリティではないだろうか。ただしビザの手続きなど面倒なこともある。家族も大変。でも「大事なことって、たいてい面倒くさい」と、偉大なクリエイター(宮﨑駿氏)は言っている。

だから行動に移すしかない。「生き残るのは、変化に適応した者のみ」。これはダーウィンの理論だが、強いものではなく、環境に適応した人が生き残る。そして行動を起こすなら目線を高く持ってほしい。若い人も年配の人も大きな夢を見るべき、ジョブズは常々「宇宙に衝撃を与える」と言っていた。

「あとで振り返って、あのときやっておけばな…と後悔する人生はもったいない」と王貞治さんは言っています。だから私自身も「迷わず、やる!」これをモットーに生きています。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。

なぜシリコンバレーだったのか? 居心地の良い日本を飛び出した起業家の本音

4月9日から4月10日にかけて開催された「新経済サミット2014」の2日目、最後から2番目のセッションではシリコンバレーで活躍する4人の経営者が登壇。エバーノート日本法人会長の外村仁氏、ソースネクスト代表取締役社長の松田憲幸氏、WHILL共同創業者兼CEOの杉江理氏、Treasure Data CEO兼共同創業者の芳川裕誠氏が「シリコンバレーの日本人」と題して、彼の地でビジネスを展開する魅力や苦労について語り合った。モデレーターはWiL 共同創業者CEOの伊佐山元氏が務めた。

なぜシリコンバレーに行ったのか?

松田:シリコンバレーは人口300万人も住んでないのに、100兆円規模の経済がある。ITの会社としてはシリコンバレーに行かないわけにはない。これまでもいい製品を見つけて日本で売るために短期出張はしてた。でも短期だとミーティングがそれほどできない。それを2週間、1カ月と伸ばすとどんどんいいアライアンスができた。これは住んだらすごいことになると思ってシリコンバレーに来た。

外村:元々はAppleにいた。辞める前に休職してヨーロッパまで行って、そのまま2年くらい滞在していた。起業をしたいわけじゃなかったけどたまたまシリコンバレーで友達の会社を手伝った。来てみると何のリスクもない。まわりには非常にわくわくする人が多い。日本だと気を使うし、本来的なじゃないことにエネルギーを使いがちだけど、シリコンバレーは飽きない。刺激が終わらない場所だと思う。

杉江:非常にシンプルな答え。それは「ユーザーが多い」から。電動の車に関しては市場が15倍違う。日本は2万台、米国は30万台。実際に行きたくなって、自社の電動車いすを分解してハンドキャリーで持っていった。いろいろな人にフィードバックをもらった。あるユーザーには最初はボロボロに言われたが、実際に公園を走らせたら、その人は感動していた。「いままで『May I help you?』ばかり言われてたのに、『Cool!』って言われた」ということだった。シリコンバレーはアーリーアダプターが多くて、新しいもの好きが多い。新しいものを開発するサイクルができやすい。

一番の苦労話は?

杉江:苦労したのは採用。日本とはまったく違った。全員が全員、自信があって「ベストフィットだ」と言ってくる。すごい経験を持っているとみんなが言う。とんでもない例でいうと1人、「スティーブ・ジョブズの知り合いだ」と言う人がいた。アドバイザーになってもらった。でもよく調べたらLInkedInの写真がおかしい。もっと調べたら、インド人のクリケット選手だということがわかった。どういうことか問いただしたら、「それは親戚だ」と言ってきた。詐欺まがいの感じだった。そうやって騙されることもある。

松田:誰をトップにすればいいか悩んだ。英語のできる優秀な人を据えようと思ったが、結局は自分で行った。なぜなら日本の方は10年以上働いている社員が20人以上いて、むしろ日本を任せる方が合理的だと思った。心配していたけど、米国でのディールはいろいろ決まるし、日本国内は自分たちで考えて動くようになった。業績も伸びて、利益も5倍くらいになった。すべてよかった。

芳川:やっぱり会社を始めようと思ってから、実際に始めるところまでの間にうじうじ悩む。ガイ・カワサキの名言に、「何か始めるときに一番大変なのは何かを始めるところ」というものがある。1回始めてみれば心配している余裕はないし、もうやるしかない。

シリコンバレーに来るべき理由

外村:日本でうまくやるうちに、みんな先回り心配症候群になっている。その方がうまく出世できるから。そして考えた挙句なにもできなくなっていく。私もそうだった。会社を始めるときにいろいろ悩んで、半年くらい後にやってみたら、「何もマイナスはないな」と思った。やる前から心配する人が多すぎる。

最近の人はそうじゃないけど、いまの40代くらいまでの人は「答えを出す訓練」だけやってきている。失敗した時の対応を学んでいない。そういうメンタリティーが染み込んでいるから踏み出せない。

会社を創業したのは10年前、日本人の起業家が全然いなかったので、シリコンバレーの日本人起業家ネットワークを作った。結論は、「何を言っても変わらない」ということ。だから今は力をシフトして、学生相手に啓蒙している。ここ数年素晴らしいのは20代、学生がシリコンバレーに来ていること。

この前はAppleが好きな高校生が1人で来て、ホテルのチェックインの仕方がわからないと連絡があったのでやってあげた。やっぱり来たら変わる。大企業の人は、自分が行ってもいいけど、とんがった人を送り込んでほしい。チャンスを与えるといいと思う。

シリコンバレーには青空も空気も刺激的な人もいる。僕ら日本人はお利口すぎて空気を読んでしまうので、シリコンバレーみたいにマジョリティがオープンでイノベーティブな人たちだと、ちゃんとそこに感化される。波に飲まれて吸収してしまえばいい。

「大事なことって、たいてい面倒くさい」

伊佐山:ここにいる人たちは「シリコンバレーの日本人」ではなく、結局のところ「居心地のいい場所を飛び出した日本人」だ。では、どうすればどうなれるか。三木谷さんの言うように「考えてから動くのではなく、動いてから考えればいい」ということだ。

それがこれからの日本人に求められているメンタリティではないだろうか。ただしビザの手続きなど面倒なこともある。家族も大変。でも「大事なことって、たいてい面倒くさい」と、偉大なクリエイター(宮﨑駿氏)は言っている。

だから行動に移すしかない。「生き残るのは、変化に適応した者のみ」。これはダーウィンの理論だが、強いものではなく、環境に適応した人が生き残る。そして行動を起こすなら目線を高く持ってほしい。若い人も年配の人も大きな夢を見るべき、ジョブズは常々「宇宙に衝撃を与える」と言っていた。

「あとで振り返って、あのときやっておけばな…と後悔する人生はもったいない」と王貞治さんは言っています。だから私自身も「迷わず、やる!」これをモットーに生きています。


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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。