Apple(アップル)が2021年8月初めに発表した、児童への性的虐待コンテンツ素材(child sexual abuse material、CSAM)を検出する技術は、大きな反発を招いた。AppleがNeuralHashと呼ぶその技術はまだ、その10億あまりのユーザーに対して起動すらされていないが、すでにそのアルゴリズムは欠陥のある結果を出すと主張するセキュリティ研究者たちからの非難に直面している。
NeuralHashはユーザーのデバイスにある既知のCSAMを見つけるが、画像を所有したり、その画像のコンテンツを認知したりはしない。iCloudに保存されているユーザーの写真はエンド・ツー・エンドで暗号化されているため、Appleですらそのデータにアクセスできない。そのため、NeuralHashはそユーザーのデバイスにある既知のCSAMをスキャンし、Appleはこれをよりプライバシーフレンドリーだと主張している。それは他企業のようにすべてのユーザーファイルをスキャンするのではなく、写真だけを対象にスキャンするからだ。
Appleは、ユーザーのデバイス上で、NCMECといった児童保護団体から提供されたハッシュ(画像を一意に識別できる文字と数字の組み合わせ)が同じである画像を探すことでこれを行います。NeuralHashが30個以上の一致するハッシュを見つけた場合、その画像はAppleにフラグが立てられ、アカウント所有者が法執行機関に報告される前に、手動で審査される。Appleによると、誤検出の可能性は1兆個のアカウントで約1つだという。
しかしセキュリティのエキスパートやプライバシー保護活動家たちは、そのシステムは政府のようなリソースが極めて豊富なところでは乱用誤用される可能性があるという懸念を表明している。たとえば罪のない人が巻き込まれたり、システムが操作されて権威主義的な国が有害と認めるような素材を検出するかもしれない。Appleのスタッフに対し社内的に配布されたメモのリークによると、NCMECはそういう批判者のことを「少数派のキーキー声」と呼んでいる。
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米国時間8月17日夜、Asuhariet Ygvar(アスーハリエット・イグバー)氏は、NeuralHashのコードをPythonのスクリプトに落として、そのコードをGitHubに公開し、Appleのデバイスが手元にない人でもこの技術をテストできるようにした。イグバー氏はRedditのポストで、NeuralHashは難読化されたコードでiOS 14.3に「すでに存在している」が、その技術を再構築することができたため、2021年の後期にiOSとmacOSデバイスに展開される前にセキュリティの研究者はアルゴリズムをもっとよく理解できる、と述べている。
コードが公開され他の人が手を加えるようになり、NeuralHashのケースでは2つの完全に異なる画像が同じハッシュを生成する「ハッシュの衝突」という現象が初めて報告された。この「ハッシュの衝突」を発見したのは、Intel Labsの著名な研究員であるCory Cornelius(コーリー・コーネリアス)氏だ。その後、イグバー氏も衝突を確認している。
ハッシュの衝突は、セキュリティを暗号技術に依存しているシステムのお葬式の鐘になることもある。何年もの間に、MD5やSHA-1のようなパスワードハッシングアルゴリズムは衝突攻撃によって無効になり、その後現役の座を去った。
暗号技術のエキスパートでOpen Crypto Audit Projectを創ったKenneth White(ケネス・ホワイト)氏は、「iOSのNeuralHashのコードが見つかってから、最初の衝突が起きるまでの時間が、数カ月や数日ではなくて2時間だということを、理解してなかった人もいたようだね」とツイートしている。
Appleの広報担当者は公式のコメントを拒否したが、匿名かつオフレコで語ったところによると、Appleはハッシュの衝突を軽視し、保護策を講じることが重要と主張した。それは例えば法執行機関に報告する前に手作業で写真を調べることで虐待を防げる、と。さらにAppleによると、NeuralHashのコードを分解されたバージョンはジェネリック(総称的)なバージョンであり、2021年後期に展開する完全なバージョンではないという。
その技術に懸念を表明しているのは人権グループやセキュリティのエキスパートだけではない。ドイツの高名な国会議員が今週、AppleのCEOであるTim Cook(ティム・クック)氏に書簡を送り、同社は「危険な道」を歩んでいると述べて、Appleがそのシステムを実装しないことを強く要請した。
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画像クレジット:Getty Images
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(文:Zack Whittaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)