都市計画に携わる人びとに大きな影響を与えるものとして、例えばAmazonの新しい第2本社(HQ2と呼ばれる)を選ぶプロセスのようものは、それほど多くはない。同社は、5万人の雇用と50億ドルの投資を巨大な人参としてぶら下げて、北米の各都市から提案書を募った( Clickholeが親しみを込めて記事を書いている)。おそらく予想はできると思うが、Amazonは238件もの提案書を受け取り、今週はその中から20件のファイナリストを選んだ 。
Appleも今やゲームに参加したようだ。同社も今週、(少なくとも最初は)テクニカルサポートに特化した新しい「キャンパス」を建築することを発表した。まだ提案書の募集は発表していないものの、候補地の決定は「今年の後半に発表される」と同社は述べている。
市政関係者が提案書のとりまとめに忙しくしている一方で、都市思想家たちは、これらのいわゆる逆RFPに衝撃を受けている。ブルッキングス研究所で、有名なメトロポリタン政策プログラムを運営し、 NPRに対してAmazonのプロセスについて語ったAmy Liuは、「実際の日々の経済開発活動がどうあるべきかに対する、大きな混乱を招いている」と述べている。これは明らかに雇用創出ではないというのだ。
もっと不吉なことに、シアトルタイムズのスタッフコラムニスト、Danny Westneatは、AmazonのHQ2プロセスを獲得しようとする都市たちに対して「Amazonは繁栄爆弾を、あなたがたの街で爆発させようとしている」と警告している。
繁栄爆弾とは!たぶんハワイが警報を発することだろう。
しかし、これらの全ての批評家たちに欠けているのは、過去30年間に経済が劇的に変化したという視点だ。労働者や市民、都市、州、さらには国の政府ですら、誰もがより良い仕事とより良い収入を得るために競争を繰り広げている。中国が猛烈な勢いでAI人材を米国から本土に連れ帰ろうとしているのは、イリノイ州が従業員給与に対する課税戦略を狙って、Amazonに対する提案を行っていることと類似の戦略なのだ。
Amazonのプロセスへの各都市からの対応は、私が把握している限り以下のようなものだ:北米の238都市は、わずか数週間で、Amazonを自分たちの地域に呼ぶために提供できるものに関する、それぞれの提案書をまとめ上げることができた。ボストンはグリーンライン(鉄道)をSomervilleに延伸するまでに、数十年もの年月を費やしたが、Somervilleに対する誘致案をまとめるために必要だったのはわずか数週間だった。
これが私が好感を持ち始めた、政府の意思決定の速さだ。
こうした政府へのアプローチ方法は、いまや物事を成し遂げる唯一の方法になり始めている。YIMBY(Yes In My Back Yard:何かの開発(主に新しい住宅)を支持する)運動が過去2年間に学んだように、サンフランシスコの1棟のアパートの承認を得るために、何百時間もの議論が必要になる可能性があるのだ。しかし、都市が雇用や投資のために競争するときには、ほとんど即座に決定を下すことができるように見える。
批評家たちはしばしば、税収の点にのみ着目するが、一方これらの経済開発提案が、他の手段では陽の光を当てることができないような、インフラストラクチャプロジェクトのライフラインであるという事実には目を向けようとしない。
GEの新しい本社に対する、ボストンの入札を考えてみよう。もちろん、 ボストンは約2500万ドルに及ぶ固定資産税の優遇を提案した。しかしGEの動きはまた、様々なインフラ整備に資金を回すための動機となった。その中には Northern Avenue橋と新しい自転車専用車線も含まれる。この橋は、ボストンの中央商業地区にアクセスする車両や歩行者にとって大切な経路となっているが、何年もの間、資金を集めることができなかった。
理想的には、政府はこうした種類のインフラプロジェクトやコミュニティの改善について、議論し、投票し、資金を提供することも可能だ。しかし現実は、逆RFPプロセスのような、時間に迫られた外圧がなければ、都市や州がこれらのプロジェクトを進展させることは、ほとんど期待できないということである。米国流民主主義の中では、議論は文字通り永遠に収束しない可能性がある。
したがって、もしあなたが市長または経済計画担当者だったなら、こうした(逆RFP)プロセスをツールとして活用して、成果をあげることができるのだ。新たな雇用と税収の魅力を利用してインフラ支出を促進し、頑固な市議会を説き伏せて再開発を行う。その「繁栄爆弾」を使って、都市景観の古い部分をアップグレードし、都市を将来に向けて準備するのだ。より健康的で、より人間的な都市が、すぐそこに待っているかもしれない。
さて、これらの逆RFPには多くの批判があり、その中には良い点を突いているものもある。例えば、構築されるインフラストラクチャーや提供されるインセンティブが、最終的にはコミュニティ内の市民ではなく、企業にとって役立つものになるという意味で、それらは非民主的なものとなる可能性もあるというものだ。
しかしAmazonやその他のハイテク企業の場合、その技術従業員たちの流動性は高く、質の良い都会的な設備を備えた街を選ぶ傾向があるため、会社だけが便益を得るということは考えにくい。もしAmazonがやってきて「税金を減額し、大量輸送手段を削減せよ」と言ったなら、彼らは雇用したいと思っていた様々な人材を取り逃すことになるだろう。言い換えれば、ここには市場としての制約があり、Amazonの都市に対する目標は、都市の住人たちと多くの点で一致しているのだ。
また別の批判は、税制上のインセンティブそのものを巡るものだ。企業が場所を移動するために、政府が補助金を与えるべきかどうかは、意味のある問いかけである。特に企業と都市がお互いを活用している場合には。だがそうであったとしても、企業への補助金は特に目新しいものではなく、彼らが煽り立てるような問題でもない。
企業への補助金を、何年にも渡って監視している非営利団体のGood Jobs Firstは、およそ400社が5000万ドル以上の補助金を受け取っていることを示すデータを所有している。実際に、こうしたプログラムは何年も継続しており、中には非常に筋の悪い事例も見かけられるものの、経済開発補助金を効果的に活用した都市の成功事例も、沢山存在している。
最後に、「繁栄爆弾」の人びとがいる(別名反成長主義者としても知られている)。ビジネスを誘致する際に都市が直面する課題は、こうした人たちへの対処である。こうした人たちは新しい建築に反対し、新しい住宅に反対し、次世代の世界的都市への成長を契機を掴む代わりに、過去の「住民にやさしい」都市像に必死でしがみつこうとする。
そうした人たちに言いたいことは:では「すぐに投票しよう」だ。
これらのプロジェクトでは誰も不利益を被る必要はないし、ゼロサムである必要もない。しかし、都市はもはや、労働者や企業に場所の選択肢がなく、結果として最適ではない都市を受け入れる結果になるような行動を、この先取ることはできない。現実には、市場の働きにより、あまり野心を持たない都市は、21世紀に向けて大胆な開発を行うビジョンを持った都市の影に、隠れてしまうだろう。結局のところ、その選択肢は都市が握っているのだ。Amazonではない。
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(翻訳:sako)