よりよい死に方の話し合いに火を灯すスタートアップLantern

アメリカは何につけても書類の国だ。人生の終わりには、それが頂点に達する。ケアに関しては事前指示書が医療従事者にあまねく伝達され、厳格に従うことが要求される。遺産は、該当する不動産法に基づき分割、相続しなければならない。そしてもちろん、葬儀のための物資の調達、火葬やその他の埋葬法にも実に複雑な手続きがあり、それぞれ費用も、決めるべきことも異なる。

死ぬ間際は、どう死ぬべきかを考える上で最悪のタイミングだ。まさに元気でぴんぴんしてるときこそ、最良のタイミングとなる。

ニューヨーク市を拠点とするLantern(ランタン)は、そうした話し合いを早くから始めることで、とくに悲嘆に暮れるときに、利用者に大きな安心感を持たせることを目指している。

同社が提供するのは、基本的には死後の備えを開始するための「ハウツー」プラットフォームだ。細かい事柄の大半を事前に決めておけるよう、チェックリストと管理機能がある。内容によっては、同社が詳細事項を処理することもあるが、不動産相続のような場合は、TechCrunchでも何度も紹介している(未訳記事)Trust & Will(トラスト・アンド・ウィル)などのパートナー業者の協力を仰ぐ。

現在、Lanternには2つのプランがある。簡単な無料プランと、終末計画の進展を常時確認して、家族や友人やその他の意志決定に加わるべき人たちと協力できる年27ドル(約2800円)のプランだ。また、追加料金を支払うことでオプションが選べるサービスの準備も進めている。

先月、同社は、Draper Associatesが主導し他の数社が参加したシードラウンドで140万ドル(約1億4500万円)を調達した。それ以前には、2048 Ventures、Amplifyその他の企業から89万ドル(約9200万円)のプレシードラウンド投資を受けている。それにより今日までの総調達額は、230万ドル(約2億3900万円)となる。Lanternは公益法人として組織され、2018年9月に創設。その1年後に初めてサービスをローンチした。

創設者のLiz Eddy(リズ・エディー)氏とAlyssa Ruderman(アリッサ・ルーダーマン)氏にとってLanternは、目の前に立ちはだかる大きな問題に、慈愛と共感に満ちた方法で取り組むチャンスだった。「最初の会社は15歳のときに立ち上げました」とCEOのエディー氏は語る。その会社は、高校生のための、後に大学生にも対象が広げられたが、デートDVと家庭内暴力に関する教育に焦点を当てていた。「私は、新しいことを始めるときのペースや変化に心を奪われましたが、人々が避けたがる問題を話題にして、もっと普通に楽な気持ちで話し合えるようにすることも大好きになりました」と彼女は話す。

Lanternの共同創設者リズ・エディー氏とアリッサ・ルーダーマン氏(写真クレジット:Lantern)

後に彼女は、地元の自殺予防非営利団体Crisis Text Line(クライシス・テキスト・ライン)に参加した。人の心を癒し、立ち直りのプロセスに向かわせる訓練を積んだ心の悩み専門のカウンセラーによる、ショートメッセージを利用したネットワークだ。この団体で、彼女は6年以上活動していた。

Lanternの最高執行責任者であるルーダーマン氏は、この直近の2年間、極度な貧困をなくすことを目的とした非営利団体Global Citizen(グローバル・シチズン)で活動していた。2人は、スタートアップ・アクセラレーターGrand Central Tech(グランド・セントラル・テック)で出会い、Lanternの創設準備を行った。

よりよい終末計画を立てるというアイデアは、個人的な経験から生まれたものだった。「小学生のときに父を亡くしました」とエディー氏。「その喪失感と悲しみが、家族の金銭的、情緒的、物質的、法的なあらゆる側面に重大な影響を与えることを、初めて知ったのです」

現在、人の死にまつわる手続きの多くはオフランで行われている。また、今あるオンラインサービスのほとんどが、遺産相続計画や棺の選択や購入といった、終末計画の個人的な要素に集中している。エディー氏とルーダーマン氏は、早い時期に話し合いを始めることと、より優れた製品で、より総合的な体験をもたらす点が好機になると見ている。

同社のサービスの事前計画部分は、昨年、ちょうどパンデミックが広がり始めた時期にローンチされた。エディー氏は「長い間縁遠くなっていた形で、人々が自身の運命を受け入れ始めた時期だったので、ある意味とても面白いローンチとなりました」と話す。今のところ、ユーザーは25歳から35歳の年齢層で、その多くが人生の大きな節目を経験したことから計画を立てるようになった人たちだ。家族の死は、とてもわかりやすい引き金になるが、子どもが生まれたり、会社の創設もきかっけになるとエディー氏は言う。

エディー氏が繰り返し強調することに、遺書を書くことと、終末の計画を事前に立てることとは別物だという点がある。「死ぬときに一文無しであったとしても、お金以外のことで、愛する人や家族や、すべての関係者が背負わされる問題は山ほどあります」と彼女は言う。

製品面でも、典型的なSaaSスタートアップと比べて微妙な違いがある。ひとつは、しつこくない程度に、定期的にユーザーと関わり合いを持つという部分だ。一度きりで、終わればそれまでの結婚式などとは異なり、書類や指示は、本人の生活環境に変化が生じるごとに、修正や更新を行う必要がある。

さらに、死を語るこの製品の最大の挑戦は、ユーザーとの関係を冷淡な、言うなればシリコンバレー的な形にしないことだ。「完全に仮想化された製品であっても、それを通じて確実に人とのつながりが感じられるようにする」のが最優先事項だとエディー氏は言う。「私たちは親身になれる言葉や画像を多く用いています。すべてのイラストは、死別の経験を持つイラストレーターが、亡くなった方を追悼する気持ちを込めて描いています」

長寿関連スタートアップは、一部のベンチャー投資家が好むテーマに留まるが、人の最期への対処は、早かれ遅かれ、すべての人が必ず直面する問題だ。Lanternは、普通なら考えたくもない恐ろしい問題に、少しだけ光を当ててくれることだろう。

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画像クレジット:Marharyta Fatieieva / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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