アクセラレーターとフィンテックが鍵を握る南米のスタートアップ界

【編集部注】執筆者のNathan Lustigは起業家で、チリのサンティアゴに拠点を置くシードステージ投資ファンドMagma Partnersのマネージングパートナーでもある。

南米のスタートアップは、クリエイティブなプロダクトを生み出し、現地だけでなく世界中の問題を解決しようとしている。しかし、外から南米のスタートアップシーンを見ている投資家の中には、同地域の魅力に気づきながらも手が出しづらいと感じている人もいるようだ。実際に、南米でのアーリステージ投資にはいくつかの課題があるが、そのハードルを越えるだけの価値があると感じられるような例を私はいくつも見てきた。

私が初めてチリのサンティアゴを訪れたのは、Start-Up Chileのパイロットプログラムに参加した2010年のことだ。当時チリではスタートアップに関する議論がほとんど行われておらず、スタートアップが何かを知っている人もほぼいないような状態だった。その後アメリカに戻って9か月くらいの間に、共同設立した会社が買収されたため、私は新興市場に眠るチャンスを求め、チリに戻ることを決めた。

それから数年の間、アントレプレナーシップに関する授業を行ったり、地元の起業家のメンターとして活動するうちに、気づけば私自身が南米企業に投資するようになっていた。これまでに30社以上のアーリーステージ企業へ投資してきた私は、南米のアーリーステージ投資の環境が現在これまでで1番良い状態にあると考えている。以下がその理由だ。

先陣を切ったVCのおかげで投資家の不安感が和らいでいる

アルゼンチンのNXTP LabsやブラジルのVox Capitalのように、南米で早くから活動を開始したVCのおかげで、他の投資家の参考になるような前例ができた。もともと南米の人々には、リスクを嫌い失敗をとがめる傾向があったが、彼らは誰よりも早く南米にスタートアップカルチャーを芽吹かせようとしたのだ。

しかし数多くの困難が、そんな先駆者的VCを待ち受けていた。まず彼らは、現地の起業家が南米とシリコンバレーは別物だと理解できるように、教育を施さなければいけなかった。VCの数にしても、企業の評価額にしても両地域の間には大きな隔たりがある。しかし彼らの経験が、最近増加傾向にあるアーリーステージ投資を考えているファンドや企業への良い教訓となっているのだ。

また、南米のスタートアップエコシステムが成長するにつれて、アーリーステージ投資のフローが大きく改善され、不安感もかなり和らいできているため、投資の数自体も増えている。2011〜2015年の南米の投資傾向についてまとめた、Latin American Venture Capital Association(LAVCA)のレポートによれば、VCが5年間で集めた資金の総額は23億ドルにおよぶという。

さらに過去数年の間に、以前VCから投資を受けたファウンダーが、エンジェル投資家やファンドのリミテッドパートナーとして、他の企業に投資するケースも見られている。コロンビア系アメリカ人で、起業家から投資家に転身したAndrés Barretoもそんなファウンダーの1人だ。GroovesharkやPulsoSocialなど、いくつものスタートアップを立ち上げた彼は、2012年にSocialatom Venturesを設立して投資活動をスタートさせた。コロンビアに拠点を置き、Firstrock Capitalと呼ばれる2つめのファンドの資金調達を最近終えた同社は、アーリステージ企業への投資を行うと共に、彼らの成長を促すような手助けをしている。

現在も積極的な活動を行っているSocialatom Venturesは、最近では南米でプロダクトを開発しながらアメリカ市場を狙うアーリーステージ企業への投資に力を入れている(注:私がマネージングパートナーを務めるMagma Partnersは、これまでに2度、Socialatom Venturesと共同出資を行ったことがある)。

南米に投資を呼び込むアクセラレーター

増加を続けるアクセラレーターや、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、サンティアゴ(チリ)、メデジン(コロンビア)といった南米の主要スタートアップハブで日々経験を積んでいる起業家の影響は、南米の投資エコシステム全体におよんでいると言って間違いないだろう。

南米のスタートアップシーンに入りこむなら今がチャンスだ。

2014年の調査では、アクセラレーターが存在するだけで、その地域のシード・アーリーステージ投資の数が増えることがわかっている。確かに私もこの”波及効果”を南米で目の当たりにしてきた。Start-Up ChileWayraをはじめとする、アーリステージ企業向けアクセラレータープログラムの数が増えるにつれて、南米のスタートアップ界自体が注目を集めるようになってきている。つまり、このようなプログラムの存在が、外部の投資家に南米の魅力を伝えているのだ。

投資活動を盛り上げるフィンテックスタートアップ

通常スタートアップは業界を問わず経済全体に影響をおよぼすが、南米でもっとも大きな変化が起きているのが銀行業界だ。というのも、南米では銀行口座を持っていない人の数がまだ多く、フィンテック企業にとってはそれが大きなチャンスになっているのだ。

Finnovistaによれば、南米のフィンテックスタートアップの数は最近1000社を突破した。フィンテック企業が南米、そしてグローバル市場でスケールする上で、既存企業との戦略的パートナーシップや政府からの認証、そして初期の活動を支える資金は欠かすことができないが、投資家は彼らの活動を支えている。

LAVCAの調査では、南米で2015年の資金調達額がもっとも大きかった分野はフィンテックだということがわかった。2015年の時点で、同分野はITセクター全体の投資額の30%を占めており、2016年前期を見てみるとこの数は40%に伸びている。

世界中でアクセラレータープログラムを運営しているStartupbootcampは、最近南米への進出を発表し、メキシコではFinnovistaと共同でフィンテックに特化したプログラムをローンチした。Finnovistaは、過去4年間にフィンテックスタートアップがどのように南米の金融サービスを変えてきたかを目撃しつつも、彼らは自分たちの力だけではスケールできないと考えているのだ。当該プログラムでは、メキシコをはじめ世界中から選ばれたフィンテックスタートアップに対し、資金面や運営面でのサポートを提供している。

ここ数年南米を飛び回り、優秀な起業家と世界中の投資家をつなぎ合わせてきたSeedstarsも、今年は南米のフィンテック市場に注目している。現地でのイベントを勝ち抜いた、コロンビアのクラウドファクタリング(売掛債権買取)企業Mesfixと、ブラジルのフィナンシャルプランニングサービスQueroQuitarは、ファイナリストとしてSeedstars Summitでプレゼンテーションを行う予定だ。

500 Startupsも南米でのシードステージ投資に力を入れており、International Finance Corporation(IFC)と共同で設立した1000万ドルファンドでは、今年中に現地のアーリーステージ企業120社へ出資しようとしている。

Googleも負けてはいない。南米のスタートアップ十数社がGoogleのLaunchpad Acceleratorに参加し、同社のネットワークやリソースを使いながら、自分たちの可能性を最大限発揮しようとしている。MicrosoftはブラジルでBR Startupsファンドを立ち上げ、アーリーステージとレーターステージのギャップを埋めることを目標に、これまで70社への投資を行った。決済サービス大手のVisaも、独自のアクセラレータープログラムをローンチし、ブラジルのフィンテックスタートアップに資金とノウハウを提供している。

少し前まではVCが他の地域に注目していたため、南米のスタートアップはアーリーステージでの資金調達に苦しんでいた。しかし同地域に対する見方が変わり、スタートアップエコシステムの成長を促そうとする動きが南米全体の民間・公的組織の間で広まっていった結果、資金調達のチャンスやスタートアップの数は継続的に増えている。さらに、ブラジルのNubankアルゼンチンのIguanaFixをはじめとする、スタートアップのサクセスストーリーが増えるに連れて、業界全体が勢いづいてきている。南米のスタートアップシーンに入りこむなら今がチャンスだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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