アジア人向け婚活サービス「EastMeetEast」、海外起業の日本人チームが50万ドル調達してNYCに集結中

日本人起業家が海を渡って海外市場にチャレンジするケースが増えている。もともと戦後にホンダやソニーがやってきたことだから、今さら何を言うんだとフンガイする人もいるかもしれないけど、ここで言うのは製造業ではなく、輸入超過すぎて「ソフトウェア敗戦」と名付けたくなるようなIT分野のサービス業のことだ。北米やヨーロッパ、東南アジアに出て行く例もあるし、日本を拠点にガンガン攻めているLINEやゲームのgumiといった例もある。最近だと「言語非依存」で競えるシンプルゲームをリリースして米AppStoreのゲームカテゴリで1位を獲得したBrainWarsなんていうのもある。日本市場をテストベッドとして見て、日本で成功したモデルをタイムマシン経営で東南アジアに展開するという動きも見られる。

というように、スタートアップの世界は、ますますボーダーレスになってきているわけだが、いまちょっと変わったチーム構成とターゲット市場で日本人を中心としたスタートアップ「EAST MEET EAST」がニューヨークを拠点にして活動を本格化しつつある。

EAST MEET EASTが提供するのは、アジア系社会人向け婚活サービス「EastMeetEast」で、2013年11月にローンチして以来、ニューヨークを中心にユーザーを増やしている。この7月にはiPhoneアプリをリリースしたほか、ディー・エヌ・エー、システムソフト、エウレカベンチャーズなどから50万ドルの第三者割当増資を実施した。

バーチカルデーティング市場で「アジア向け」に注力

アジア人向け婚活サービスといっても、日本人には2つのことがピンと来ない。

1つは、そんなニッチなマーケットがあるの? ということ。もう1つは、婚活サービスって使われてるの? ということだろう。

共同創業者で代表取締役CEOの時岡真理子さんにSkypeで話を聞いたところ、「海外だとオンラインデーティングを使うのは一般的。Webの黎明期から存在する」という指摘が返ってきた。日本では「出会い系」というといかがわしいニュアンスを帯びることもあるが、Match.comやeHarmonyなどは創業がそれぞれ1995年、2000年と古く、社会的に認知され定着しているのだとか。

デーティングサイト市場では、さらに2つの潮流があって、それはこうした古いWeb1.0と異なる新世代のサービスとしてOkCupidやTinderなどが登場していること。もう1つは、バーチカルのデーティングサービスとして、ユダヤ人同士向けのJDate.com、キリスト教徒同士向けのChristianMingle.comなどがあることだ。この辺の感覚は日本人には分かりづらいが、現代米語や現代アメリカ文化を共有はしていていも、人種や文化によってグループが分かれ、恋愛対象も限定されるのは珍しいことではない。

こうしたバーチカルのデーティングサービスは色々あるが、「アジア人向けが実は今までほぼなかった」(時岡氏)のが現状だという。時岡氏自身、オックスフォード大学でMBAを取得し、その後はロンドン拠点のスタートアップ「Quipper」で共同創業者兼COOを勤めるなど、海外生活が長く、こうしたニーズを感じていたそうだ。既存のデーティングサービスだと、「アジア人はアジア人としてくくられてしまうので、日本人を探しているのにインド人を推薦されたりする」という。海外在住のアジア人で婚活をしている友人らも同様の問題を感じていたところから、サービスを着想したという。

こうした「ちょっと違うんだよね」感をすくい取って、EastMeetEastでは、人種、言語、移民ステータスなどの詳細をお見合いの釣書に近い形で表示して、ふさわしい相手を効率的に探せる仕組みを提供するという。米国在住アジア人といっても、何歳で渡米したかは結構重要らしく、0歳(つまり完全なアメリカ人)であるのか、10歳で渡米して2つの文化的背景を持っているのか、16歳で渡米して、英語はあくまでも第二言語であるのかなどで、違ってくる。共同創業者でCTOの江島健太郎氏は「アメリカ生まれのアジア人、アメリカ育ち、移民の3種類」があるといい、これらをマッチングアルゴリズムのパラメーターに使うという。

EastMeetEastは登録ユーザー数は非公開だが、定着率は3〜4割といい、ニーズは掴んでいるようだ。

サービスは今回の増資を皮切りに、大多数のユーザが集中するニューヨークから、アジア人率の高いロスアンゼルス、サンフランシスコなどを中心に米国全体へ展開するという。東京などと違い、人口の多いニューヨークでも800万都市、サンフランシスコに至っては70万人に過ぎず、「人口密度の低さがマーケティングコストに跳ね返る。意外とマーケティングコストが高い」(江島氏)といい、感覚的には日本で1000万円できるものが1億円にもなるという。アジア人同士が集まるコミュニティなどに顔を出してビラ配りをしたり、そうしたコミュニティのリーダーを巻き込んでイベントやったりと、徐々に泥臭いところからマーケティングしているという。

ビジネスモデルは有料課金。月額29.98ドルのほか、サイト上の自己アピールスペースを活用したり、バーチャルギフトを送るといった特典でのバーチャルコインによる課金も予定しているという。2015年末までに50万ユーザーを目指すという。カップルになることがゴールなので、実はデーティングサイトの1人当たりの課金は平均9カ月程度で終わってしまうもの。不倫相手を探すというアシュレイ・マディソンなんかと違うマネタイズの難しさだそうだ。一方、サービス立ち上げのマクロな追い風としてはアメリカへの移民人口はアジア系がヒスパニック系を上回っている上に、高学歴で高収入の「高級移民」が多いことがあり、ここは成長市場と見ているという。もう1つ、これも日本人には分かりづらい感覚だが、離婚経験者の婚活問題もデーティングサービス興隆の背景にあるという。「40代になって仕事が忙しく、合コンもないときにどうやって出会うのか。効率化された探し方が出てくるキッカケになっている」(時岡氏)。

現在北米市場をターゲットにしているが、うまく立ち上がれば、将来的には日本を含むアジア市場への展開も考えているという。

ところで、EastMeetEastのCTOである「江島健太郎」という名前に見覚えのある人も多いことだろう。ブロガー、そしてスーパーエンジニアとして、特にエンジニア界隈ではよく知られた人物だ。元は日本でオラクルに勤めていたが、独立系ソフトウェア企業の米子会社立ち上げのために渡米し、いくつか先進的なC向けサービスを手がけ、今回は4つの目のプロダクトとなるという。現在はラスベガス在住だが、EastMeetEastの活動本格化にあたってニューヨークへ移住予定という。CEOの時岡氏も近々ロンドンからニューヨークへ引っ越すそうだ。


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TechCrunch Japan

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