アップルが、現在公開ベータテスト中の次期オペレーティングシステムであるiOS 14は「Facebook(フェイスブック)の広告ネットワークを頼りにしているパブリッシャーに多大な影響を及ぼす」とFacebookは主張している。
Facebookは米国時間8月27日、アップルがWWCDで発表したプライバシー規約の大幅な変更が与える影響について、Audience NetworkとFacebook for Businessのブログ記事で概要を説明した。具体的には、ターゲット広告に使用するIDFA(広告識別子)をアプリ開発者に公開したいか否かを、アップルからユーザーに明示的に問うというものだ。
これに対してFacebookは、同社のアプリでは当該データは収集していないがパブリッシャーが自社サイトやアプリでターゲット広告を行う際にFacebookデータが利用できるFacebook Audience Network(オーディエンスネットワーク)(未訳記事)に与える影響は大きいと指摘している。
「iOS 14上のすべての広告ネットワークと同じく、Audience Networkにおいても広告主の正確なターゲティングと広告キャンペーンの効果測定の能力に影響がおよび、その煽りを受けたパブリッシャーは自身の能力を効果的に収益化する力を低下させます」とFacebookは話している。「結果として、私たちの最善の努力にもかかわらず、アップルの変更によりiOS 14におけるAudience Networkの利点は損なわれ、iOS 14上での展開は難しくなります」。
事実、ターゲティングとパーソナライズを禁止したテストの結果、モバイルアプリのインストールキャンペーンによるパブリッシャーの収益は50%減少することが判明しており、「iOS 14でのオーディエンスネットワークの場合はさらに深刻」だと警告している。
その深刻さがどれほどのものなのか、私はアドテク業界のいくつかの企業や投資家に話を聞いてみた。調査会社のApp Annieの分析部門ゼネラルマネージャーを務めるRon Thomas(ロン・トーマス)氏は、これを「IDFAが完全に消滅し、このIDFA後の世界のアトリビューション(メディアごとのコンバージョン貢献度を計測すること)が変化することへの最大手パブリッシャーからの謝辞」と表現している。
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モバイル広告のアトリビューション企業であるAppsFlyerの社長兼ゼネラルマネージャーのBrian Quinn(ブライアン・クイン)氏は、Facebookの発表は「市場への明解なメッセージ」だと話す。
「主要な収入源としてのFacebook Audience Networkを失う可能性は、中小のパブリッシャーや開発者のコミュニティーを世界的な規模で破壊する恐れがあります。これは反対に、日常生活をナビゲートしてくれるアプリの価値を認め、利用している世界中のユーザーに影響を与えます」とクイン氏は私に電子メールで伝えた。「ユーザーに合った広告を提示する能力と、そしてアトリビューションを通じて効率性を提供することは、パブリッシャーと開発者がアプリとユーザーが好む質の高いコンテンツを軸に事業を継続させるためには不可欠なのです」。
さらに同氏は「ユーザーには自身のデータの管理能力を与えつつ、プライバシーを重視したアトリビューション・ソリューションを通して開発者に透明性を提供することは可能です」と提案した。
それに対して、この問題だけを切り取るFacebookのやり方に懐疑的な人たちもいる。例えば、著名なガジェット評論家であるWalt Mossberg(ウォルト・モスバーグ)氏はTwitter投稿で、今後「Facebookやプライバシー窃盗産業である有害なアドテク業界のリーダーたちからの、この問題への不平」をもっと聞くようになると指摘。さらにiOSの変更はすべて、パブリッシャーを虐めるためではなく「消費者に明確な選択肢を与える」ためのものだと話した。
New York TimesやCondé Nast(コンデナスト)などのパブリッシャーを代表する事業者団体であるDigital Content Next(デジタル・コンテント・ネクスト)のJason Kint(ジェイソン・キント)氏は、Facebookは「パブリッシャーの利益を代弁するメッセンジャーを装っている」とTwitterで非難し、同社はAudience Networkのパブリッシャーを利用して、広範なデータ収集業務から目を逸らさせようとしていると指摘した。
「Facebookのデータ収集の大半は同社のサービスの中で行われ、最終的には本体を肥やしている」とキント氏はツイートしていた。同時に同氏とその団体は、アップルがエコシステムを支配する懸念(Wall Street Journal記事)も示している。
Facebookは今回に限らず、この数週間で何度もアップルを批判している。今月の初め、Facebookは有料オンラインイベントの開催を可能にする発表を行ったが、アップルが30%の手数料を免除しないと不満を漏らしている。いずれの場合も、Facebookの口調はずっと穏やかだった。しかし、決まり文句の羅列である企業PRとなると、あからさまなアップルへの敵意が顕著に感じられる。
報道関係に送られた電子メールで、ベンチャー投資企業NFXのJames Currier(ジェームズ・カリアー)氏は、この衝突は歴史の繰り返しの兆候だと示唆した。
2009年、Facebookプラットフォームがスタートした当初、誰もがFacebook上でアプリを制作して、大人気を獲得して、何百万人ものフォロワーを集めることができました。しかし、Facebookは徐々にすべての人気チャンネルを閉鎖してゆき、そこに広告サーバーを挟み込みました。つまり、アプリ開発者はトラフィックを確保するために金を払わなければならなくなったのです。Facebookは、アプリ開発者から徴収できる限りの金を抜き取りました。同じようにFacebookも、iOSプラットフォームのオープン当初、iOSアプリとして大量のユーザーを獲得していました。現在、アップルは、自身の利益のために、徐々に酸素を抜こうとしています。これはジャングルの掟です。このネットワーク効果は、誰が権力を握っているかをじつに明確に示しています。iOSです。
マーケティングとメディアに特化したベンチャー投資企業であるMathCapitalのEric Franchi(エリック・フランチー)氏はプライバシーと広告トラッキングを取り巻く状況の変化について「Facebook、アップル、Audience Networkのパブリッシャーだけでなく、スタートアップにも新たなチャンスをもたらす」と指摘する。ちなみにそのスタートアップには同氏が支援するzeotopとID5も含まれる。
「Facebookの主張は、マーケティングエコシステムがひと握りのオペレーティングシステムとプラットフォームに依存していること、デジタルマーケティングを成立させるためのユーザー識別が重要であることを強調しています」とフランチー氏はコメントしている。「我々は、今こそ、新しい形の同意主導型識別ソリューション構築のチャンスだと考えています」と同氏は続けた。
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(翻訳:金井哲夫)