アドテックは衰退し信用経済の時代が到来する

著者紹介:Richard Jones(リチャード・ジョーンズ)氏は、クロスチャネルでのカスタマーエンゲージメントソリューションを提供するCheetah Digital(チーター・デジタル)のCMO。ゼロパーティデータの専門家として、消費者の注目、エンゲージメント、およびロイヤルティの獲得と引き換えに、ライフサイクル全体で消費者と価値交換ができるようにブランドを支援している。

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2020年は、多くの人が待ち望んでいた社会運動が実行に移された年となった。6月、活動家たちは「Stop Hate for Profit(利益のためのヘイトをやめろ)」キャンペーンを開始し、Facebookのようなソーシャルメディア企業に、自社のプラットフォーム上で発生しているヘイト行為の責任を取るように要請した。

その狙いは、対象のソーシャルプラットフォームでの広告を停止することによって、ソーシャルメディア企業の目を覚まさせることだった。The North Face(ザ・ノース・フェイス)、Patagonia(パタゴニア)、Verizon(ベライゾン)といったブランドを含む1200以上の企業や非営利団体がこの運動に参加した。私は自社のチーターデジタルを率いて、Starbucks(スターバックス)やVF Corp(VFコーポレーション)などのクライアントとともに、この運動に参加した。

Stop Hate for Profitは、ソーシャルメディアが転機を迎えていることを浮き彫りにした。Twitter(ツイッター)とSnapchat(スナップチャット)はヘイトスピーチに異を唱えることを選び、政治的広告を禁止し、偽情報に対して警告を発することを決めた。しかし、残念ながらFacebookはまだそれほど積極的ではなく、その場しのぎの対応を取るのがせいぜいだ。

多くの人が、この運動はすぐに廃れると考えていたが、実際には始まったばかりである。米国は今、ほぼ間違いなく、両陣営の対立が史上最も激しい選挙を行っている。この状況を考えると、ソーシャルメディア上のヘイトをめぐる問題がすぐに解消されることはないだろう。マーケティング担当者にとって、Stop Hate for Profitは単なる社会運動ではない。この運動はアドテック全体に関わる問題を浮き彫りにするものだ。

ソーシャルメディアのボイコットやデータ保護により、私たちが知るアドテックは今、衰退への道をたどっている。

ソーシャルメディアの苦境

Forrester(フォレスター)は5月、「It’s OK to Break Up with Social Media(ソーシャルメディアと決別してもいい)」と題したレポートを発表した。このレポートには、消費者がソーシャルメディアに飽き飽きしていることを示す統計が含まれている。回答者の70%が、ソーシャルメディアプラットフォームとそのデータを信用していないと答えているのだ。ソーシャルメディアで読む情報が信頼できると信じている消費者は14%にすぎない。米国でインターネットを使用している成人の37%が、ソーシャルメディアは有益というよりも有害だと考えている。

マーケティング担当者は、「ソーシャルメディアは、消費者にマーケティング目的でリーチするために作られたものではない」という事実に立ち返らなければならない。ソーシャルメディアが流行し始めた頃、ブランドは急いでそれを導入し、消費者との対話に利用し始めた。多くのブランドが気付いたことは、これらのチャネルがポジティブなブランド認知を築くためではなく、顧客からの苦情に対応するためのプラットフォームになった、ということである。さらに、マーケティング担当者がよく利用するソーシャルプラットフォームは、顧客にリーチするマーケティング担当者に課金するようになった。

残念なことに、表示されるコンテンツを定義するアルゴリズムにより、ユーザーは自分の意見と異なる意見を目にする機会が減り、なによりも社会のさらなる分断化が助長されている。例えば、Qアノンのコンテンツを見始めるとすぐに、アルゴリズムによって、Qアノンに関するコンテンツばかりがフィードされるようになる。ユーザーは、ソーシャルプラットフォームに多くの時間を費やし、広告収入を増加させるのと同時に、現実を把握する力を失っているかもしれないのだ。マーケティング担当者は、ソーシャルメディアの状況が度を越していること、そして次の段階に進むのが正しいということを認めなければならない。

プライバシー問題

さてここで、自分が簡単な手術を必要としている患者であると想像してほしい。おそらく、Uberに乗って専門家のところに相談に行くだろう。次に、手術を受けに行き、手術は成功する。そして、すぐに回復して自宅に戻る。すべてが順調だ。しかし、Facebookを開いてスクロールし始めた途端、状況は一変する。突然、医療ミス専門の弁護士の広告がポップアップ表示される。しかし、あなたは手術のことを誰にも話していないし、もちろん手術についてソーシャルメディアに何かを投稿したこともない。

自宅で休養し回復したいだけなのに、広告攻めにされるのだ。それでは、このような広告はどのようにして、あなたの目に触れるようになったのだろう。デジタルフットプリントを残した結果、そのデータが誰かに売られて、押しつけがましい広告を見せられているのである。この話は、私たちを取り巻く世界でアドテックが助長してきたデータ乱用の現実を如実に表していると思う。プライバシーは完全に侵害されており、消費者はそれに気付いていないのだ。

ここ数年、データプライバシーはマーケティング担当者にとって注目のトピックとなってきた。今年に入って、米国ではカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)が施行され、法的強制力を持つようになった。この法律は、データの管理権限を消費者に戻すものである。6月にApple(アップル)は、アプリやパブリッシャーが位置データを追跡し、広告ターゲティングに利用するのを困難にするアップデートを発表した。8月初めには、Meredith(メレディス)とKroger(クローガー)が 、クッキーの廃止を目指して、広告活動のためにファーストパーティ販売データを提供するパートナーシップを発表した。データ保護のブームが今後もしばらく続くことは間違いない。

マーケティングが向かう先

私は、マーケティングの未来は信用経済にあると確信している。Stop Hate for Profitキャンペーン、プライバシーの侵害、消費者の態度や行動の変化は、マーケティング担当者が第三者のデータに依存する時代が終わったことを示している。現在、経済に対する影響力が最も強いのはデータではなく信用である。今年初めにeConsultancy(イーコンサルタンシー)と共同で調査を行ったところ、米国の消費者の39%がクッキーデータに基づいて表示される個人広告を好まないことがわかった。人々は、ウェブをクリックしているうちに追跡されたり、ターゲットにされたりしたくないと考えている。アドテックの屋台骨は崩壊しつつあり、マーケティング担当者はそれに適応しなければならない。

従来のマーケティング方法では、信用経済の時代を生き残ることはできない。今は、新しいチャネルに目を向け、古いチャネルを再考すべきときだ。表示されるコンテンツを自分でコントロールできるチャネルに立ち返らなければならない。ソーシャルプラットフォームの広告活動は、オウンドチャネルに消費者を誘導し、そこで消費者の許可に基づいてデータを獲得して、消費者と直接つながれるようにすることにフォーカスすべきだ。注目すべきチャネルとして、メールについて考えてみよう。

心配は無用だ。メールはなかなか使えるチャネルである。前述のイーコンサルタンシーのレポートによると、4人のうち3人近くの消費者が、過去12か月の間にブランドや小売業者から配信されたメールがきっかけで買い物をしており、販売を促進するという点においては、メールのほうがソーシャルメディア広告より格段に優れていることが判明している。同様に、2020年にロイヤルティプログラムへの参加を増やしたいと考えている米国消費者の数は、参加を減らしたいと考えている消費者の数の9倍にのぼる。私たちは自分のデータを確実に所有し、ロイヤルティプログラムが自分の消費者データの宝庫になるようにしなければならない。フォレスターのEmily Collins(エミリー・コリンズ)氏は、そのことを、単なる報酬プログラムではなく、真のロイヤルティ戦略によって実現できる理由をわかりやすく説明している

マーケティング担当者は、消費者と直接的なつながりを構築することを目標とすべきだ。信頼を築くということは、データとエンゲージメントに応じて価値を交換することであり、第三者からデータとエンゲージメントを購入することではない。フォレスターの主席アナリストであるFatemah Khatibloo(ファテマ・カティブルー)氏は次のように述べている。「ゼロパーティデータとは、顧客が意図的かつ積極的にブランドと共有するデータのことだ。データには、購入意思、個人的背景、個人がブランドにどのように自分の存在を認めてもらいたいか、といった情報が含まれている」。このゼロパーティデータは信用経済の基盤となるものである。プライバシーとパーソナライゼーションの舵取りにゼロパーティデータがどのように役立つかについては、ファテマ・カティブルー氏のアドバイスをチェックするとよいだろう

責任ある行動を

信用経済とは、実のところ、マーケティング担当者として自分が何を売り込みたいのかを自問することである。消費者との関係をどのように考えているだろうか。消費者の気持ちに配慮しているだろうか。どのような関係を望んでいるだろうか。プライバシーは、消費者との関係を構築するための要素だ。最も重要なのは説明責任である。広告費を投入する対象について、説明責任を果たす必要があるのだ。今こそ、ヘイトを支持すること、最悪な状態の社会を擁護すること、分裂をあおることを止めるときだ。責任を持ち、社会問題に関心を持ち、信頼に基づいて顧客との有意義な関係を築いていこう。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:コラム 広告業界

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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