アプリで集めたデータで「生物予報」という新たな社会インフラを、京大発の「バイオーム」が描く未来

地球温暖化が進行し、豪雨や猛暑などのリスクがさらに高まることが予想されている昨今、環境保全に向けて「自然環境のデジタル化」を進めているのが、京都大学発のスタートアップであるバイオームだ。同社は開発した「いきものコレクションアプリ『Biome(バイオーム)』」で取得したデータを基に、分布状況など生物の今後を予測する天気予報ならぬ「生物予報」として、新たな社会インフラになる狙いもあるという。生物予報で害虫被害などに対して事前に対策を打てるようにしていく考えだ。

代表の藤木庄五郎氏は、学生時代に熱帯のボルネオ島で2年以上キャンプ生活をしながら、原生林の調査を行ってきた。現地で取得したデータから生物多様性を定量化するアルゴリズムの開発に成功し、その成果から2017年3月に京都大学大学院博士号(農学)を取得。同年5月にバイオームを立ち上げた。

藤木氏は環境保全活動などによって利益を生む仕組みを作ることができれば、環境課題の解決を促進できると考えている。その仕組み作りの第一歩となるのが、同社が開発したアプリとなる。藤木氏に話を聞いた。

いきものコレクションアプリ「バイオーム」

バイオームアプリは、スマホから写真を投稿すれば、独自の名前判定AIにより、日本国内に生息するほぼすべての動植物(約9万2800種)を判別できる。AndroidiOSに対応し、無料でダウンロード可能だ。

正式リリースから2年以上が経った2021年6月時点で、延べ約27万ダウンロード、アプリ内の投稿数は142万件を超えた。8000件を超える投稿しているユーザーもいるという。

アプリは、画像を基にディープラーニングで学習させた見た目の情報で生き物の名前を判定しているが、もう1つ仕組みがある。投稿画像の位置情報と日時といったメタ情報も学習させている点だ。

「例えば、蝶は世界で約2万種いますが『東京の代々木公園で4月に撮影できる蝶』といった場合、10種類程度に絞り込むことができます。位置情報と日時を組み合わせていることが、私たちの特徴的な技術になります」と藤木氏は説明する。

国内にいる動植物約9万2800種の教師画像を個々の種ごとに大量に用意しなくてもとも、位置情報や日時のメタ情報を組み込むことで、精度の高い判定を行えるようにしている。

さらに、ユーザーがアプリで投稿するたび、生き物が「いつ、どこで、どのような」活動をしているかなど、これまで取得しづらかったリアルタイムデータが集まるのだ。

「バイオームはただ名前判定を行うアプリではありません。位置情報と日時で、分布状況などの情報も扱います。これらのデータを私たちが解析し、必要な人に適切なカタチで届け、保全活動などに紐づけていくことが、重要な役割でもあります」と藤木氏は語った。

データの提供先は産学官で多くの事例があるが、環境省との連携も進んでいる。温暖化による生き物への影響を調査するため、アプリを活用。2020年11月、温暖化の影響で生息分布が北へ移動しているような生き物や、開花時期が早まった植物などを、全国のユーザーに投稿してもらうキャンペーンを実施した。バイオームが集まったデータを解析し、同省に提供している。2021年夏からも同様のキャンペーンを実施する予定だ。

新たな「社会インフラ」を目指して

「今後は環境保全がさまざまな領域で重要な課題となっていきます」と藤木氏はみる。国内でもSDGsに取り組む動きが注目され、国内外でESG投資が増えている現状もある。

ただ、これまで生物多様性などの統一された評価方法はほとんど確立されておらず、行政や企業、団体などが手探りで環境保全に取り組んでいるというのが現状だという。

「生物分布データ」の不足が、原因の1つだと藤木氏は考えている。データが不足していれば、具体的な環境保護に関する活動やビジネスも曖昧なものになってしまう。

この問題に対し、アプリによって自然環境や生物多様性についてのデータを集めていくことで、バイオームは自然環境のデジタル化を進めていく。その上で、バイオームがビジネスプラットフォームを構築。生物多様性・環境の保全活動や、サステナブルなビジネスモデルの創出などのサポートをしていく考えだ。

さらにアプリを使って生物に関するビッグデータを蓄積していくことで、藤木氏は「生物の現状をリアルタイムで把握することはもちろん、生物の将来予想となる『生物予報』を可能にしていきたいと考えています」と話した。

藤木氏によると、生物予報は「ある地域で害虫がこの1週間で増加するため、農家は対策を講じてください」といったことも可能になるという。実現すれば、農家はもちろん、食品生産業界や化粧品業界など、農家から原材料調達している企業にとっても、生物予報は有益なものになる。

「生き物の現状がわかり、予測ができることはとても重要です。天気予報のような『生物予報』というサービスが、これからの社会インフラとして役立つはず。この仕組みを確実に作り上げることで、生物多様性、あるいは環境保全に関するビジネスを行う上で、なくてはならない社会インフラになっていきたいと考えています」と藤木氏は展望を語った。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:バイオームアプリ日本生物多様性SDGs

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TechCrunch Japan

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