イヤホン型ウェアラブルデバイス「BONX」を手掛ける国内スタートアップのBONXは5月10日、アドウェイズ、慶応イノベーションイニシアティブ(KII)、リオンおよび個人投資家を引受先とした総額2億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。BONXはこれまでに総額5億円の資金を調達したことになる。
今回の調達を契機に世界展開へ向けた包括的なマーケティングを進めるほか、調達先企業との技術シナジーの向上を目指す。また採用についても強化する予定だ。今回の発表に先駆けて、4月には米国法人のBONX North Americaを設立。北米市場での製品販売も開始している。
耐久性・安定性が向上した第2世代モデルを2016年末にリリース
最近ではウェアラブルデバイスの中でも、特に耳に付けて使用するものを「ヒアラブルデバイス」などと呼ぶこともあるが、BONXもそんなヒアラブルデバイスの一種。デバイスを片耳にセットし、Bluetooth接続したスマートフォンで専用アプリを起動すれば、最大10人の仲間内で会話ができる。
スマートフォン同士の通信は、3G/LTE経由でBONXの専用サーバにアクセスして行っている。最近ではグループ通話(厳密にはVoIP)可能なメッセージングアプリなどは増えているが、ユーザーが話しているときだけ音声を拾うことでバッテリー消費や通信量を削減するほか、発話検知技術(人の音か他の音かを判断する技術)により、リアルタイムに近い処理速度でのやりとりが可能だという。
BONX代表取締役の宮坂貴大氏は大のスノーボード好き。ウェアラブルカメラを手がけるGoProのCEO・Nick Woodmanがサーファーの経験からプロダクトの潜在的ニーズに気付いたように、スノーボードを通じで「アウトドアスポーツにおいて会話をしたい」というニーズを背景にしてBONXを開発した。
2016年12月には、第2世代モデルの「BONX Grip」をリリース(価格は同社ECサイトにて1万5800円。EC限定で割引価格になるセット販売も実施)。BONX Gripでは、(1)IPX5で生活防水に対応し、汗や湿気などによる故障の低下、(2)素材変更による長時間の着け心地向上、(3)内部基盤の見直し——の3点を行った。シルエットこそ旧製品とほとんど同じだが、内部基盤から見直した結果、耐久性や動作の安定性が格段に向上したという。
TechCrunch Japanで初めてBONXを紹介したのは2015年10月のこと。それから約1年半で海外進出を本格化した背景について、宮坂氏は次のように語る。「海外の雪山でも、この2年で電波の通じる場所が一気に増えました。SNS投稿のニーズが増し、(スキー場などが)宣伝の観点からも電波環境を整備しているようです。海外利用者について、これから増えると期待しています」。宮坂氏も自ら海外の雪山に行き、スノーボーディングしつつBONXのテストをしているそうだ。
アウトドア以外にも、店舗のインカムや工事現場のトランシーバーのリプレイスも狙う。これらの特定小電力無線は、混線したり、フロアをまたいだ通信ができなかったりとフラストレーションがたまる。だがBONXであれば、スマートフォンの電波が届く限り、途切れることないコミュニケーションが可能だ。
老舗補聴器メーカーとも事業シナジーを模索
今回BONXに出資したリオン。TechCrunchでその名前が挙がるのは初めてかもしれないが、同社は1944年の設立。東証一部に上場する国内最大手補聴器メーカーだ。「リオンは、補聴器技術において最高峰の技術力とノウハウを持っています。今回の調達前から、ハードウェアの技術面で支援いただいていました」(宮坂氏)。ある意味では“ヒアラブルデバイスの超先行企業”である同社との事業シナジーについても今後模索していくという。またKIIを通じて、慶應義塾大学の研究室(非公開)と発話検知に関する共同研究も実施中だという。
人材面では、CFOやエンジニア(主にソフトウェアやバックエンド)、海外事業担当などの求人を進める。「当初、ステルスで事業を展開していた時には『スケートパークから一番近いスタートアップ』という告知をしていました。そのため、スケボーや自転車、サバゲー、釣りなどのアクティブな趣味を持つ人が多いです。アウトドアスポーツに興味がある人やBONXのストーリーに共感してくれる人がいたら嬉しい」(宮坂氏)