ウクライナ出身のVC、故郷の難民のために支援金を募って送金

「今まであなたが会った中で最も幸運な人の1人だ」とニューヨークのオフィスで語るのはAlex Iskold(アレックス・イスコルド)氏だ。イスコルド氏はベンチャー企業2048 Venturesの共同創業者でマネージングパートナー。それ以前は、ニューヨーク市のプログラムのマネージングディレクターとしてTechstarsに5年間勤務し、100社以上のスタートアップに投資や支援を行った。

また、イスコルド氏は膨大な人脈を培ってきた。その人脈を2年ぶりに活用する。活用するのは今回が2回目で、1回目はパンデミック時に仲間のVCであるMinda Brusse(ミンダ・ブリュッス)氏とともに友人や知人に呼びかけて困っている家族に資金を提供した。ニューヨークタイムズ紙が表現したように、一種のヒューマンブロックチェーンを形成した。イスコルド氏によると、この活動は最終的におよそ1000世帯に300万ドル(約3億5000万円)を届けたという。

そして今、同氏は「1K Project」と名付けたこの活動を復活させ、国外に逃れたウクライナ難民、そしてウクライナ国内に取り残され、突然職を失い、もはや家と呼べる場所もない家族に必要な支援を提供しようとしている。

「1K Projectを再開することになるとは思ってもいませんでした。しかしロシアのウクライナ侵攻が何を意味するのかを理解するやいなや、電話をかけ始めました」と同氏はいう。

1カ月前には想像もつかなかったのに、すでに200万人超が避難し、1000億ドル(約11兆7000億円)超の被害が出ているこの戦争に、多くの人と同様、イスコルド氏も恐怖を感じている。しかし、それは個人的なことでもある。同氏はウクライナ人だ。人生の最初の19年間をウクライナで過ごし、今でも多くのいとこや友人、知人がウクライナにいる。実際、3番目のいとことその家族は、ロシア軍がウクライナに侵攻してすぐに出国した。その一方で、その他の人はウクライナ国内にとどまっている。というのも、家族の中に出国が禁じられている18〜60歳の息子や夫がいるためだ。

イスコルド氏のネットワークは、サポートの呼びかけにすばやく反応した。11日前、ウクライナの人々に支援金を届けるために1K Projectを復活させるとツイートして以来、開発者からデータアナリストまで30人のボランティアによるネットワークが活動を開始し、スポンサーと支援を受ける側が連絡を取り合うまでの道のりをスムーズにするために動き出した。

「私たちが構築した最も強力なものは、スポンサーと家族の迅速な申請を可能にする分散型ネットワークです。関心のある人は応募用紙を私たちのサイトで見つけることができます。スポンサーには軽い審査、支援を受ける家族の側にはより厳しい審査があります。しかし、スポンサーと家族が承認されると、両者はマッチングされ、スポンサーは(唯一の送金サービスである)Wise.comを通じて家族に資金を提供する方法をテキストまたは電子メールで指示されます」とイスコルド氏は説明する。

1000ドル(約11万7000円)単位の寄付は、税金の控除対象ではない。もっと多額の寄付をして税控除を受けたい人のために、財政スポンサーとして「OpenCollective.com」という団体を利用しているとイスコルド氏は説明した(例えば5世帯以上に寄付する場合、1K ProjectはOpenCollectiveへの寄付の方法を案内する。そしてOpenCollectiveを通じて1K Projectが各世帯に寄付を配分する)。

より多くのボランティア、そして寄付者が必要だ。1K Projectは「3人以上の子どもを持つ家庭を支援することに重点を置いている」とイスコルド氏は説明する。ここには紛争地域にいる女性、子どもを連れて避難している女性も含まれ、すでに対応しきれないほどの需要がある。「私たちにはランキングアルゴリズムがあり、間もなく1200世帯に資金を提供する予定です」と同氏はいう。「しかし、1万2000もの応募があり、全員に資金を提供することはできません。十分な資金がないのです」。

資金がどのように使われているかについては「実に多くの使用例があります」とイスコルド氏は話す。同氏はウクライナの銀行システムが完全な混乱の中でも機能し続けていることを評価している。

資金を使ってより安全な地域に移住した家族もいれば、すでにウクライナ国外にいて、子どものための食料を購入するのにこの資金を使う家族もいる、と同氏は説明する。

どのケースも家族は非常に困難な状況にあるという。「ある日はソファに座っていたのに、翌日には爆撃で家が完全に吹き飛ばされ、住むところもなく、Tシャツ1枚でそこから脱出する方法を考えなければならない、というような家族の話をたくさん聞いてきました」。

そうした話はイスコルド氏を苦しめる。「お礼のメッセージをもらって、いつも泣いているんです」。さらに悪いことに、同氏の広範にわたる熱心なネットワークにできることは限られていることを同氏は知っている。「軍用の弾薬や医療品など、私たちが支援できない問題が山積しているのです」。

そんな中、同氏は自身が知っている人のことを心配している。特に、彼らが追跡困難な状態に陥るときは心配だ。「(スマートフォンに)緑の点が表示されるときとされないときがありますよね?」。

その一方で、イスコルド氏は自分にできることを行い、少しずつ前進しているようだ。1K Projectを新たに立ち上げてから、人々は100万ドル(約1億1700万円)を800超の世帯に寄付した。すべてを一瞬で置き去りにした「難民にとって非常に役立つ」サポートだ。

しかし、そのニーズはさらに膨らみそうだ。「ウクライナ国内で避難生活を送る家族が運良く難民センターに入れた場合、多くのものが提供されます。難民センターに入れない家族は、食べ物や助けが必要なのです」とイスコルド氏は話した。

画像クレジット:Beata Zawrzel/Anadolu Agency / Getty Images

原文へ

(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。