「自分たち自身が創業期からエグジットまでを経験しているので、各フェーズごとに起こりうる問題や事象、必要なノウハウに関しての知見がある。(それらを活用して)スタートアップの成長を一気通貫で支援していきたい」
そう話すのはスタートアップ支援事業を展開するWARC共同創業者の山本彰彦氏と石倉壱彦氏だ。
2人の共通点は監査法人を経てスタートアップにジョインし、CFOや役員としてエグジットを経験していること。そこで得た知見やネットワークをフル活用してスタートアップの成長を支えるべく、2017年にWARCを立ち上げた。
そのWARCは1月4日、山本氏と石倉氏を含む複数の個人から約2億円を調達したことを明らかにした。創業者を除く個人投資家の名前は明かされていないものの、2人と同じくスタートアップでCFO経験のあるメンバーなど複数名のエンジェル投資家が第三者割当増資を引き受けているという。
これまでは表立ったリリースなどを行わず“ひっそり”と事業を運営してきたWARC。今回の資金調達を機に事業を本格始動する計画だ。
CXOや役員経験者が集まった専門家集団
WARCを一言で紹介すると「CFOを中心としたCXOや役員経験者を始め、専門的なスキルや経験を持つ人材が集まったプロフェッショナル集団」といったところだろうか。彼ら彼女らの知見を活かしたコンサルティングや人材紹介など、クライアントの成長フェーズに合わせたサービスをトータルで提供している。
創業者の2人はともにKPMGあずさ監査法人の出身だ。山本氏は同社を経て社員数名のイグニスにCFOとして、石倉氏はアカツキに経営管理部長としてジョイン。財務領域をメインに、初期からIPOに至るまで会社の成長を支えてきた。
石倉氏に関してはIPOだけでなく、3ミニッツのCFOとしてグリーへのバイアウトも経験。事業家としての立場に加えて個人投資家としても活動するなど、様々な視点からスタートアップに携わっている。
この2人を筆頭に、WARCには各領域で経験を積んできた人材が集結。転職エージェントでベンチャー領域特化チームの責任者やHR系スタートアップのCOOを務めていた取締役の加藤健太氏、コンサルティングファームなどを経てリクルートホールディングスで人材紹介事業の立ち上げに携わった取締役の芝隼人氏、サイバーエージェントでの人事マネージャーを経てコンサルティングファームで人事部門向のコンサルタントを務めていた執行役員の篠原さくら氏らが中心メンバーだ。
成長段階に合わせて4つの軸で企業をサポート
さて、そのようなメンバーが集まって一体どのような事業を展開しているのだろうか。現在のWARCの事業内容は「コンサルティングサービス」「M&Aアドバイザリーサービス」「タレントエージェンシー」「投資」の4つだ。
経営課題の解決や財務戦略、採用戦略などコーポレート領域を中心に、戦略の策定からハンズオンによる実行までを支援。M&Aについても初期構想からクロージング後までをサポートする。
加えて石倉氏が「抱えている課題に合わせて、ヒトモノカネあらゆる側面から企業をアクセラレートする」と話すように、人手が不足しているのであれば適切な人材を紹介し、成長のために資金が必要なのであれば自ら投資も行う。12月に日本経済新聞社との資本業務提携を発表したケップルなど、すでに6社へ投資している。
コンサルティングであればコンサルティングファーム、M&Aであれば仲介業者や会計事務所といったように各領域ごとでは複数のプレイヤーが存在するが、企業の成長フェーズに合わせて必要なサポートを一気通貫で提供している事業者は多くない。
メンバー自身の“生の経験や知見”を基に、シード期のスタートアップから大企業までを領域横断で支援するのがWARCのスタイルであり、それこそが最大の特徴と言えるだろう。
スタートアップ領域でチャレンジする人を増やしたい
WARCがこれらの事業を通じて目指すのはスタートアップの成長を加速させることだけではない。そもそも山本氏と石倉氏がこの事業を立ち上げた背景には「スタートアップ界隈でチャレンジする人を増やしたい」という思いがあった。
「(個人投資家として)多くのスタートアップを見るようになって、CFOなど起業家を支えるビジネスサイドの人材がいる会社は成長スピードが全く違うことを痛感した。若手の会計士やコンサルタントなどスタートアップに興味がある人材は増えてきているように思うが、まだまだ圧倒的に足りていない」(石倉氏)
2人の話ではカルチャーが合わない、能力を発揮できない、給料が下がるといったことをリスクに感じ、スタートアップへ進むことを躊躇している人材が少なくないそう。スタートアップ界隈に馴染みがないと、自分の能力を活かしやすいステージや今後伸びていく面白いマーケットを見分けるのも簡単ではない。
「個人的にはどんな人でもフィールドやポジションを変えると活躍できる場所があるはずだと思っていて、自分にとってはそれがスタートアップだった。特にアーリーステージのスタートアップは事業面の優先度が高く、(監査法人などナレッジファーム出身者が)お金の使い方など財務面で工夫できる場面も多い。十分に活躍できる能力があるのに、それを知らないため『まだ無理なのでは』と思い留まってしまっている人も多い」(山本氏)
会社名ドリブンではなく、経営者のビジョンや志に惹かれて企業を選ぶ人が珍しくない時代だからこそ「人と人の志をどんどんマッチングして、チャレンジを後押しする」(石倉氏)ことがWARCの目標だ。
他社に人材を紹介するだけでなく自社でも積極的に専門家の採用を実施。WARCの一員としてハンズオンでクライアントをサポートする経験を重ねることで、企業の成長を支えると同時にCFOとして活躍できるような人材を社内で育成し、送り出していきたいという意向もある。
2019年にはHR Techサービスのリリースも予定
現時点ではWARCの事業はある種“アナログ”な側面が強いけれど、企業と人のマッチング領域においてはテクノロジーを活用したHR Techサービスも提供していく予定だ。
山本氏いわく「HR領域で散らばっている情報を整理するという意味で、HRにおけるGoogleのようなイメージ」で、企業単位だけでなく、個人の働く選択肢を増やすプロダクトを目指すという。
HR Techはここ数年で盛り上がっている領域のひとつで、SNS要素やスワイプ形式、チャットUIなどスマホにフォーカスしたユーザー体験を取り入れたものや、データやAIの活用をウリにしたものなど続々と新サービスが生まれている。
たとえばHR Techナビが公開しているHR Tech業界のカオスマップに掲載されているものだけでもけっこうな数になるが、「レガシーなまま取り残されている領域で、もっと進化できる余地はある」というのが山本氏の見解だ。
WARCでは今のところ2019年春頃のサービスリリースを予定しているそうなので、こちらについてはまたその際にでも紹介したい。