「リリース当時からnoteはクリエイターの本拠地を目指してやってきた。そのために重視しているのがクリエイターの“出口を増やす”こと。言い換えると活躍の場を増やし、クリエイターが創作活動を継続できるようにすることだ。課金機能もそのひとつであり、出版社との連携も同様。今後はいろいろなジャンルのパートナーと組んで、この出口をどんどん増やしていきたい」——ピースオブケイク代表取締役CEOの加藤貞顕氏は「note」の今後についてそう話す。
2014年のサービスリリースから4年。今では作家やブロガーなどいわゆるザ・クリエイターだけでなく、幅広い層の個人が自分の趣味や考え、作品を自由に発信する場所になった。それこそTechCrunchでも紹介している起業家や経営者が、会社のビジョンやナレッジを共有する際に活用していたりもする。
そのnoteをクリエイターがさらに活躍できる場にするべく、ピースオブケイクでは8月に日経新聞社とVC2社から4億円を調達。特に日経新聞とは業務提携を締結し、双方の資産や強みを活かした取り組みを始めることを明かしていた。
noteは日経新聞とタッグを組むことで具体的に何を目指しているのか。そしてその先にはどんなプラットフォームを見据えているのか。
今回は加藤氏とピースオブケイクCXO(Chief eXperience Officer)の深津貴之氏に、同社のこれまでと今後の展望を聞いた。
ニッチなクリエイターが活躍できるインターネット的な空間を
最初にすごく簡単にnoteの紹介をしておくと、noteは個人のクリエイターが文章や写真、イラスト、音楽、映像などの形式でコンテンツを投稿できるメディアプラットフォームだ。SNSのようにユーザー間でフォローしたりコメントを通じてコミュニケーションを楽しんだりできるほか、コンテンツを販売する機能も備える。
加藤氏はリリース時の取材で「個人にブログ感覚で利用して欲しい」という話をしているけれど、最初から個人の場所にしたい、そしていろんなジャンルのクリエイターが集まる場所にしたいと考えていたという。
今noteではニッチな領域で、自分の好きなことをひたすら書いている記事がよく読まれるのだそうだ。自分の大好きなものについて熱く語れば、ちゃんと仲間が見つかって、何だったら商売にも発展する。最初から明確に描けていたわけではないというが、そういった空間ができれば「インターネット的で面白いのでは」という構想はあった。それは加藤氏が出版業界を経験していたことも大きく影響している。
「出版は物理的なものを作っていて出せる数も決まっているので、なるべくメジャーなところから順番にやるしかない。でも本当はいろんな人の声を届けられた方がいいはず。ニッチに行けば行くほど読み手や仲間が見つかる、noteはそういう場所にしたいし、徐々にそうなってきている」(加藤氏)
そしてもっと根本的な部分において、加藤氏がリリース前から大切にしていた考えがある。それが冒頭で触れた「クリエイターの本拠地」を作ることだ。今はnoteで人気になったコンテンツが書籍として出版されるケースも増えているが、これは当初から想定していた形だという。
「書籍はずっと個人のメディアとしての出口だった。それが少しずつネットに変わって言っているのが今の状況。以前は本を出版する時に宣伝媒体としてネットを使っていたが、現在はむしろ人々が携帯を見ている時間の方が長くなってきている。だったらネットを本場所にして、ネットに連載して、何なら課金もして。それを後から書籍にするアプローチがこれから広がっていくいくのではないかと考えた。その意味で、noteをクリエイターの本拠地にしたいという思いが最初からあった」(加藤氏)
クリエイターを小さく抱え込むことだけはしたくない
2017年10月には深津氏がCXOとしてジョイン。徐々にnoteで活躍するクリエイターが増えて来たのと並行して、noteのユーザー体験を向上するための取り組みを重ねた。結果としてこの1年弱でユーザー数や投稿数、検索流入数など、各指標が3倍〜5倍に成長している。
この成長のギアをさらに上げることが8月の資金調達の大きな目的で、ピースオブケイクでは事業面のシナジーも踏まえて出資先を探していたという。実際にタッグを組むことになった日経新聞社は、深津氏が約3年前から電子版アプリのアドバイザリーを務めている企業。両社が組むことで面白いことができるというイメージは以前からあったそうだ。
「noteとしてダメな戦略がクリエイターを抱え込んで、小さなユートピアを作ること。noteとしてクリエイターのキャリアを考えるなら、逆にもっとサービスを拡張して中のクリエイターがどんどん外に積極的に出ていくようになることが必要だと考えていた」(深津氏)
この積極的に出ていく場というのは、加藤氏が話す所のクリエイターの出口と同義だ。「noteに書くと出版できる、noteに書くと別の出口が開けるというのがやりたいこと。日経さんと繋がったことで新たな活躍の場を提供できる」と2人は口を揃える。
一方の日経新聞にとっても、スマホネイティブなミレニアル世代を中心に普段からnoteに訪れているようなユーザーとの接点を増やしたいという考えがあったのだろう。お互いが相手のユーザーに対して新しい価値を提供できるのではないかということで話が進み、資本業務提携に至ったのだという。
日経新聞と組んで“note for ビジネス”を強化する
それでは具体的にnoteと日経新聞は今後どんなことに取り組んでいくのだろうか。加藤氏によると「まずは新聞に寄稿したり、一緒にイベントをやったり、セミナーをやったりといった人材輩出の部分がメインのパートナーシップ。その次にあり得るとしたらコンテンツ配信」だという。
「あくまでnote側の視点になるが、noteの中の才能をどうやって世の中に出していけるか。たとえばnoteで活躍している作家さんの発信や作品が日経BPさんで書籍化される。あるいはnoteで書いた論説が評価されて日経新聞や日経MJ、日経ビジネスなどで連載になる。そういったことを実現したい」(加藤氏)
もちろんその逆もある。たとえば日経新聞の記事をnoteに転載したり、もしくは新聞の記事をnoteに貼って記事に対する自分の意見を書けるようになったり。また日経に寄稿しているようなエコノミストや経済学者がnoteが書くことや、企業がIRニュースや会社の情報を発信するオウンドメディアとしてnoteを使うことも十分にありえる。
「これを機にビジネスパーソンとかがどんどん情報発信するようになれば、社会はもっと面白くなると思っている。今はまだ表に出てこない埋もれている情報がたくさんあって、そこを掘れば面白い人が絶対にいるはず」(加藤氏)
このようにクリエイターの出口を増やしつつ、並行してまだポテンシャルを発揮していない潜在的なクリエイターをnoteという場を用いて掘り起こす。この取り組みをあらゆるジャンルで展開していくことが今後のnoteの方針だ。
「『noteがビジネスに特化したものになるのでは』と心配される方もいるが決してそうではない。あくまでいろいろなジャンルがあり、その中のひとつがビジネス。そこの部分を今回日経さんとタッグを組むことでパワーアップしていく」(加藤氏)
「すごくざっくり言うと、noteは全方向。note for 小説家、note for 音楽家、note for 写真家などいろいろあるnoteのあり方の中の『note for ビジネス』について日経さんと組んでいくことになる」(深津氏)
たとえば今回の日経新聞とは少しスキームが異なるけれど、noteでは4月よりnote内で活躍するクリエイターを出版社に紹介するパブリッシング・パートナーシップを始めた。リリース時には3社だったパートナー数は8月10日時点で21社にまで増えている。
初めから終わりまでをサポートするプラットフォームへ
4年間かけて徐々に力をつけてきたnote。とはいえ理想の形からすると、まだ10〜20%ぐらいの完成度だという。
「例えば文章の場合、“文章を書く”のは全体の一部分でしかない。その前にはネタを考える工程があるし、公開した記事に対しても何かしらの反応が返ってくることもある。要は現時点でnoteを使っている時間は、note本来の守備範囲の10%くらい。手前にも後ろにもたくさんのプロセスがあるけれど、そこはまだタッチできていないところが多い」(深津氏)
noteでは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッションを掲げている。このミッションを達成するためには、深津氏の言葉を借りるとクリエイターを「初めから終わりまで」サポートする仕組みが必要だ。
noteで気になる記事を見つけて、自分も発信してみようと思ってもらうことが最初の1歩目。noteに来れば文章を書くためのエッセンスが学べ、それを元に書いた文章が書籍になったり、公演に繋がったり、仕事に繋がる。そしてその文章が「自分もnoteで書いてみたい」と思う次のクリエイターを連れてくる。
この一連の流れを作り上げることが、noteが目指している理想の形だ。「新聞や出版など旧来のメディアは業界全体でこれを実現していたけれど、ネット上にはまだその仕組みがない」というのが加藤氏の見解。noteを通じてコンテンツの流通、人材の育成、ノウハウの継承といった全ての要素をカバーしていきたいと話す。
「『僕はnoteで文章を学んだ』とか『初めて書いた小説はnoteにあげた』といった人がどんどん出てくるようなプラットフォームにしたい。そのためにはクリエイターにとって活躍の場がたくさん用意されているというのが理想。ビジネスだけでなく、いろいろな領域に広げていきたい」(加藤氏)
「ある意味、現代の“トキワ荘”のようなイメージに近い。noteのクリエイターネットワークが広がっていった結果、たとえばIT系のメディアがITに詳しい書き手を探していたらすぐに紹介できる、同様にデザイン系のメディアがデザインに詳しいクリエイターを探していてもすぐに紹介できる、そうやってクリエイターをどんどん輩出する起点を作るというのが大きなチャレンジだ」(深津氏)