磁気ストレージといえば、主にテープやディスクのことだが、安くて安定性が良いので長期保存に適している。そこが、固体〔主にシリコントランジスタ〕ドライブや揮発性メモリと違う。それらは高速だが高価で、一時的保存に適している。でも新しい研究が、両者の良いとこ取りを可能にするかもしれない。
磁気ストレージの主な問題は、データを書き込む==磁化の向きを変えるためには、帯電したコイルをディスクやテープ上の目的の場所に物理的に移動しなければならないことだ。固体ストレージは、ファイルシステムが何ギガバイトものデータをどこにでも瞬間的に書き込むことができる。両者の違いは、誰かの住所を書く〔だけでよい〕ことと、実際にその場所へドライブすることの違いに似ている。
しかし、磁気ストレージに、アドレシングのできるセルがあったら、書き込みは速くなり、しかもその1や0の状態を永遠に維持するだろう。スイスのETH Zurichの研究者たちは、それをトライして成功した。ただし、たった一つのセルで。
コイルが磁気媒体に触れる方式の代わりに、直径500ナノメーターの小さなコバルトのドットがプラチナ製のワイヤの近くにある。ワイヤに電気が流れると、コバルトとは逆のスピンの漂遊電子が縁(エッジ)に集積し、最後にはドット全体の磁気の方向を逆転する。
チームはこれを2011年にデモしたが、今回新たなペーパーを発表して、それがきわめて速く起きることを示した。その観察には顕微鏡的なX線マシンで照射〜スキャンする方法を用いた(そのことがすごい!)。そしてビットの反転過程が1ナノ秒未満で起きることが分かった。
それだけでなく、彼らは毎秒200万回で反転を1兆回(!)繰り返し、効果が弱まる兆候や信頼性が劣化する傾向を見出さなかった。
彼らは、さらなる高速化と低電流化、そしてドットの形を変えることを目指している。彼らの知見では、円よりも矩形の方が速いと思われるからだ。でも彼らは、いちばん難しい部分を先延ばししているのではないか。それは、何十億個ものこれらを、大きな、アドレシング可能な配列に収めることだ。一つだけの0/1は役に立たないし、コインが一枚あればぼくにもできる。
最終的には、このような技術によって、瞬間的にライト(write)できるけど永続性があって、データの無傷な保存のために電力を要しないストレージが可能かもしれない。十分に安価であれば、RAMと長期保存の両方に使えるだろう。そこが、彼らの課題だ。
この研究の詳細は、Nature Nanotechnologyの最新号に載っている。