コロナ禍に有料会員の首を絞めるSNSサイト「InterNations」

倫理的に疑わしいソーシャルネットワークの話になると、引き合いに出されるのが多いのはFacebook(フェイスブック)だ。だが本記事で取り上げるのは、海外在住者向けのソーシャルネットワーキングコミュニティInterNations(インターネーションズ)である。運営会社はミュンヘンにある。今、そのユーザーたちが、コロナ禍の真っただ中に課金された1年分の利用料金を返金してもらえないことに気づいて激怒している。

インターネーションズは2007年から海外在住者向けのネットワーキングサービスを運営している。無料の「Basic(ベーシック)」会員は、サイトのコンテンツの一部を閲覧でき、(入場料を支払えば)コミュニティ主催のイベントへも参加できる。1年分の料金を前払いが必要な有料会員になると、無料または割引料金でネットワーキングイベント参加したり、サイトの追加機能を利用したりできる。

有料会員を「Albatross(アルバトロス)」と名付けているところを見ると、インターネーションズはどうやら主格決定論(名前が人生や能力に影響を及ぼすという考え方)の信奉者のようだ(アルバトロスには、なかなか抜け出せない厄介事というニュアンスがある。英語の「albatross around one’s neck」という表現に由来する)。ベーシック会員から有料のアルバトロス会員にアップグレードすると、退会が難しくなり、永久に自動更新されてしまう現状を連想させるネーミングだ。

数人の元会員がTechCrunchに話してくれた内容によると、今回のパンデミックの真っただ中に、有料会員の契約が何の予告もなく1年分自動更新されたという。また、無断で契約更新された会員が返金を要求すると、インターネーションズは断固拒否し、「前年にアップグレード料金を支払ったときに同意した契約に記載されている条項が適用されている」という回答が返ってきたそうだ。

会員とインターネーションズ従業員との間でやり取りされたメールをTechCrunchが確認したところ、同社は返金要求を繰り返し無視していることがわかった。

英国在住のある女性会員は、定期的な出張先であるロンドンとパリで開催される交流会に出席するためにこのサービスに登録したが、3月に英国でロックダウンが始まると自宅待機になった。彼女は、銀行の取引明細書を確認しているときに初めて、インターネーションズの有料会員契約が自動更新されたことに気づき、

同社に連絡して返金を求めた。彼女の自宅近辺で開催されるイベントは皆無だったし、個人的にも新型コロナウイルス感染症への感染を予防するために、しばらくの間は対面で会う交流会に参加できなくなったからだ。しかし、それでもインターネーションズは返金を断固として拒否し、

その代わりに、その年の有料会員権を2022年まで保留する提案をした。つまり、今回支払った料金で有料サービスを向こう2年間利用可能にするというのだ。

この女性会員はTechCrunchに次のように語った。「苦情を申し立てている会員の多くがインターネーションズによって不当な扱いを受けたと感じている。というのも、交流イベントの開催そのものがコミュニティのメンバーによってボランティアで行われていたからだ。イベント、散策、上映会などに参加するグループの編成作業はコミュニティのメンバーが行っており、その大半は無報酬で動いている」。

「だから、インターネーションズが自社のコミュニティの面倒も見ないなんて、会員を平手打ちにするようなものだと感じた」と彼女は続ける。

「私の地元のジムでは、2020年4月から会員資格が一時停止された。その際、会員の方から資格の一時停止を要求する必要はなかった。ジムからはメールでその旨の連絡があった。その後7月に退会できたが、一切質問されることもなく了承された。地元の小さなジムでもできるのだから、インターネーションズのような大企業がコロナ禍という大変な時期にメンバーの自動更新を停止できないわけがない」と彼女は言う。

「今は、世界中の人たちが、自分の健康、生活、親族のことを心配している。そんなときにソーシャルメディアの退会や一時停止のことなどいちいち覚えていられない」。

米国からシンガポールに移住してからインターネーションズに登録した別の男性会員の場合は、登録してあるクレジットカードが期限切れになり、インターネーションズが支払いを自動回収できなかったたため、支払いを求めるメールがコロナ禍の真っただ中に繰り返し送信されてきたという。

退会を申し出たところ、アカウントを削除するには2年目の料金を全額支払う必要があるという回答だったそうだ。彼は最終的に、やむなく約100ドル(約1万円)を支払って、アルバトロス会員からベーシック会員にダウングレードした後、アカウントを削除してもらった。

彼はこう語る。「私は当時(ちなみに今でも)有料会員だったが、パンデミックの最中に『会費免除月』のオファーを受けたことは一度もない。それどころか、クレジットカード情報を処理できなかった件について脅しまがいのメールが大量に送られてきた。私の健康状態や安否をほんのわずかでも気遣うような内容は一切書かれていなかった。彼らはただ、私のクレジットカード情報が欲しいだけだったんだ」。

ハノイに移住した後でインターネーションズに登録した女性ユーザーは、自らの体験を「ひどいものだった」とTechCrunchに語ってくれた。前述の会員たちと同じような経験をした彼女は、自身のブログで、新型コロナウイルスのパンデミックの最中に事前予告なく契約更新料を課金され、退会手続きを忘れていたことに気づいた、という経験について詳しく説明している。

彼女は次のように語っている。「PayPal(ペイパル)からの通知メールを見るまで、課金されていることに気づいていなかった。一体どうなっているの、という感じだった。リマインダーメールもなく、まともなビジネスの証しである、契約期限切れが近いことを知らせる請求書もない。そうしたものは一切送られていないことがわかった」。

彼女の場合、最終的には返金してもらうことができたのだが、それはペイパル経由で課金について苦情を申し立てたからこそ実現したもので、インターネーションズから直接返金してもらうことはできなかった。

消費者レビューサイトのTrustpilot(トラストパイロット)には、インターネーションズに対する同様の苦情があふれている。本記事の執筆時点でインターネーションズの「Bad(ひどい)」評価は81%にも達している。

ある消費者は「年間有料会員の登録は私のアカウントから削除され、返金は拒否された。1年後の今、新たな請求が未払いであるという脅迫めいたメールがまた送られてくるようになった」と書き込んでいる。

別の消費者によると「過去2年にわたって年間有料会員をキャンセルしているが、毎年確認するたびに、キャンセルされていない状態のままになっており、私がキャンセルした記録も残されていない。そして返金は拒否される」という。

激怒する別の消費者は次のように書き込んでいる。「インターネーションズは自動送信メールでメンバー会員料の支払期限が迫っていることを伝えてくる。数か月ログインしていないし、このコロナ禍の最中に有料会員費を支払う余裕などないので退会を申し出たが、一切受け付けてもらえない。この会社は退会という簡単な手続きを行えないようにしている。会員から金をむしり取ること以外何も考えていない守銭奴だ。情状酌量の余地はない。ただ退会処理をすればよいだけなのに、それをしてくれない」。

絶望した別の元会員はこう語る。「有料会員の期限が終了間近であることを知らせるリマインダーも送られてこない。一切の事前連絡なしに、クレジットカードから会員料を引き落とされた人もいる。登録してあるクレジットカードが期限切れになっていると、インターネーションズは嫌がらせのようにメールを送り続ける。脅迫まがいの行為だ」。

返金を要求している会員たちのメールを見せてもらったが、ドイツの法律を確認するようにと書かれているだけだ。どうやら、これが返金を阻む法的な障害となっているようだ。一部の海外在住者向けブログでも警告されているが、ドイツのサービス契約は入会よりも退会の方がはるかに難しくなる場合がある。

ハノイやシンガポールでグローバルなソーシャルネットワークに登録した人にとって、実は「登録」ボタンを押す前にドイツの契約法を理解しておく必要があった、などと言われてもピンとこなくて当然だ。

欧州の消費者権利グループBEUCによると、サービス契約の自動更新に関する事前通知をユーザーに自主的に送信することは、EU全体で義務付けられているわけではない。インターネーションズの場合も、有料会員契約の更新前にこうした通知がなかったことが、苦情の大半を占めている。

BEUCの広報担当は「EUの法律では、消費者に知らせる必要があるのは、最終価格と契約条件のみである」と説明し、この領域はEUレベルで統一されているわけではないため、消費者の権利は加盟国によって大きく異なると指摘する。

例えば、ベルギーの法律には、「消費者は、自身の承諾なしに契約を更新された場合、料金を支払うことなく契約を終了できる」という条項があるが、ドイツの法律には当然そのような条項はないという。ドイツ国内でも、この一方的な契約ルールの改正を求める声が高まっているようだ

返金と退会(およびダークパターン)に関するさまざまな苦情について、TechCrunchがインターネーションズ問い合わせてみたところ、同社の創業者兼共同CEOのMalte Zeeck(マルテ・ゼーク)氏は、「消費者法には違反していない」と答え、有料会員契約の更新については会員に「明確に通知」していると主張した。

ゼークはこう主張する。「インターネーションズは、他社と同様、標準的なサブスクリプションモデルに基づいて運営しており、いかなる点においても消費者保護法に違反していない。有料会員契約は自動更新されるが、その旨は各契約期間の初めに会員に明確に伝えている。また、各請求書、メンバーシップおよびアカウントの設定ページにも明記されている。この設定画面で、事前の予告なしに、いつでも退会できるようになっている」。

「メンバーシップの状態については、プロファイルの写真にアルバトロスのマークが付いているかどうかで、会員がいつでも目で見て確認できるようになっている。また、いつでもメンバーシップページにアクセスして、現在のメンバーシップの状態を確認することもできる」と同氏は続けた。

また、「パンデミックの最中に」対面式のイベントをキャンセルする必要があった点については認めた上で、この期間のサービスの不履行については、「会費免除月の追加」を提示し、「こうした状況に対応することに尽力し、会員たちがオンラインで会って共に時間を過ごせる方法を見つける」ことで埋め合わせるとしている。

ゼーク氏は次のように語る。「(パンデミックが始まってから)わずか数週間後には、世界中で500を超えるオンラインイベントを開催し、海外在住者やグローバルに活動する人たちがつながって体験を共有できるよう支援していた。その後もオンラインイベントの開催数は日々増加してきた。また、有料会員は引き続き、オンラインネットワーキングや情報に関するプレミアム機能を利用できている。現在、対面式イベントの制限が世界中で解除され始めているため、会員たちが再び直接会うことができる機会を数多く提供し始めたところだ」。

EUの消費者保護ルールには、契約条項は公正であるべきという要件が確かに埋め込まれている。この要件の目的は、正当な理由もなくサービスを一方的に変更するといった行為から消費者を保護することだ。しかし、インターネーションズは間違いなく、「パンデミックは、対面式のイベントをキャンセルし、代わりにオンラインネットワーキングを開催する正当な理由となる」と反論するだろう。怒ったユーザーたちが、その点を根拠に争ってもあまり慰めにはならないということだ。

パンデミックの最中に会員に対してこのように融通が利かない不親切な態度をとり続けることは、インターネーションズとその評判にとってマイナスとなるだろう。コロナウイルスの流行がすっかり落ち着いて海外に旅行できる場所が増えているこのタイミングで新規会員の獲得が以前よりはるかに難しくなるからだ。

パンデミックの最中に、仕事、健康、家族のことが心配で、年に一度しかできない退会手続きを行うのを忘れた人たちから労せずして使用料をかき集める行為は、法的には認められているとしても、長期的な顧客ロイヤルティーを確立するという観点からすればまったくの逆効果だ。

実際、こうした自動更新サブスクリプションで利益を上げる輩が数年前、eコマース業界に数多く出現したことがあるが、そのような怪しい戦術は長く続いた試しがない。

消費者をだまして定期的に料金を支払わせる方法は、長期的には決して優れたビジネス戦略とは言えない。今や悪い評判は数秒で世界中のソーシャルメディアに拡散することを考えるとなおさらだ(実際、激怒したインターネーションズ会員がツイッターでグループを組織し、ウェブサイトを立ち上げて否定的なレビューを拡散させ、同社のサービスをボイコットするよう呼びかけている)。

インターネーションズの自動更新で痛い目にあった会員の中で、来年もキャンセル手続きを忘れて同社の定期収入源になる者は、1人もいないだろう。自分の会社がコミュニティ精神に依存してサービスを提供しているにもかかわらず、会員をぞんざいに扱うのは、とっくの昔に時代遅れになったはずの悪質なビジネスモデルだと思う(インターネーションズによると、「オンラインイベントのおかげで人々とつながりを保つことができ、自主隔離の期間中もポジティブな気持ちを維持できた」という感謝の言葉を寄せる会員も多数いるという。しかし、満足している少数派の会員たちの声はオンラインに掲載されている怒りの声でかき消されてしまっている)。

一方、一部の評判のよろしくない大手ソーシャルネットワークプラットフォームと同じくらいユーザーの声にほとんど耳を傾けることなく運営しても何とも思わないニッチなソーシャルネットワークが存在するという事実は実に興味深い。インターネーションズのウェブサイトでは、なんと、欧州委員会の「オンライン紛争解決」基本方針に関する情報が問い合わせページに小さな文字で表示されていたりする。フェイスブックは注目すべきだろう。

今回怒っているユーザーたちについて、ゼーク氏は次のように述べるにとどまった。「一部の元会員の方との間で行き違いがあり、弊社の会員制サービスが提供している利点にご満足いただけなかった点については残念に思っています。弊社はユーザーからのフィードバックを真摯に受け止め、質の高い体験を提供するよう常に尽力しております。とはいえ、すべての会員様に完全な解決策を用意することは難しいと認識しております。中傷する人はいつでもいるものです」。

おそらく、ゼーク氏は、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏の終わることのない謝罪行脚を見習ったのだろう

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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