サッカーなどのチームスポーツを記録し編集、配信できるAIカメラのVeoが約25.5億円を調達

スポーツの放送や配信は世界中で人気があって収益性が高く、放送局や広告主、視聴者にとって魅力があるため、お気に入りのチームやアスリートを見る(そしてスポンサードする)機会を確保するために巨額の金銭が動いている。

そして当然のことながらスポーツのコンテンツには一般に多額の費用がかかるため、制作と配信はさらに難しい。しかし米国時間1月6日、自律的なAIベースのカメラでチームが試合を録画、編集、配信できるようにして従来のモデルを打破しようとするスタートアップが、スポーツチームや試合のロングテールをターゲットにしたビジネスを構築するための資金調達について発表した。

Veoはコペンハーゲンのスタートアップで、ビデオカメラとクラウドベースのサブスクリプションサービスを開発している。このカメラとサービスを使って、録画した後に自動で試合のハイライトを選び出し、プラットフォーム上でそのビデオコンテンツを公開できる。このVeoがシリーズBで2000万ユーロ(約25億5000万円)を調達した。

このラウンドはデンマークのChr. Augustinus Fabrikkerが主導し、米国のCourtside VC、フランスのVentech、デンマークのSEED Capitalが参加した。VeoのCEOで共同創業者のHenrik Teisbæk(ヘンリック・タイスベック)氏はインタビューで同社の評価額を公表していないと語ったが、資金調達に近い情報筋によれば評価額は1億ドル(約104億円)を超えているという。

タイスベック氏は、調達した資金で事業を2つのレベルで引き続き拡張する計画だと述べた。その1つ目として、Veoはマイアミにオフィスを構え米国の事業を拡大していく。

もう1つの計画は、テクノロジーのさらなる充実だ。Veoは世界中で最も人気のあるチームスポーツであるサッカーの試合の録画と解析に合わせたコンピュータビジョンソフトウェアの最適化を始めており、同社のカメラ(販売価格800ドル、約8万3000円)と付随する必須のサブスクリプション(年間1200ドル、約12万5000円)を購入する顧客が、視聴者向けとトレーニングや選手の選考といった実用目的の両方で映像を使えるようにする。ポイントは、カメラをチーム自身がセットアップして使える点だ。いったん設置すれば、広角でサッカーのフィールドの大部分(あるいはプレイしている場所ならどこでも)を録画し、これをもとに後からズームや編集をすることができる。

画像クレジット:Veo Technologies

現在、Veoはコンピュータビジョンのアルゴリズムを構築して、ラグビーやバスケットボール、ホッケーなど多くのチームスポーツに提案の幅を広げようとしている。生成されるビデオクリップや試合に関する分析の種類も増やしている。

2021年は新型コロナウイルス(COVID-19)の影響でスポーツに関する多くの活動が停滞するだろう。たとえば英国はまたロックダウンされ、プロリーグのチームスポーツは障がい者チームを除いて停止している。このような状況にも関わらず、Veoは成長を見せている。

同社のサービスは現在、プロのスポーツチームからアマチュアの子供のクラブまで世界中のおよそ5000チームに利用されている。2018年の事業開始以来、20万試合を録画し解析した。この20万試合の多くは2020年に米国で実施されたものだ。

参考までに紹介すると、TechCrunchは2019年にVeoが600万ドル(約6億2000万円)を調達したと報じたが、この時点では1000チームに利用され2万5000試合を録画したと発表されていたので、顧客数は5倍に増えたことになる。

2020年、新型コロナウイルス感染拡大はまさにスポーツのフィールドを変えた。文字通りの意味でも、比喩的な意味でも。観客、アスリート、サポートするスタッフも例外なく感染拡大に注意を払わなくてはならない。

試合数だけでなく観戦にも変化があった。2020年にNBAはシーズンの試合を最後まで実施するために大変な苦労をしてフロリダ州オーランドにバブルと呼ばれる大規模な隔離施設を用意した。ファンは観客席にはいなかったが、試合とファンはバーチャルのイベントに移行した。

NBAのこうした取り組みにはいうまでもなく大変な費用がかかり、規模の小さいリーグでは到底できない。この困難な状況が、Veoにとっては興味深いユースケースにつながっている。

感染拡大前のVeoは、順調なときでさえカメラを買ったり試合を撮影するビデオグラファーを雇ったりする費用を捻出するのが難しいスポーツ組織のロングテールにサービスを提供しようと、ひっそりとビジネスを構築していた。同社のサービスはスポーツイベントを楽しむのに重要な部分であるだけでなく、チームの育成にも役立つ。

タイスベック氏は「サッカーは録画して放送されるものという認識がありますが、(たとえば)英国で録画して放送されるのはプレミアリーグだけです。そこから1つか2つ下のリーグでは何も録画されていません」と語る。Veoが登場する前のサッカーの試合について「足場に上って撮影する人や、ハイライトを切り出す時間とお金が必要でした。これはあまりにも困難です。しかしビデオは才能を伸ばすための絶好のツールです。子供たちは見て学びます。そしてスカウトされることを目指して大学にビデオを送ることもできます」とも述べる。

こうしたユースケースが感染拡大とともに増えたと同氏はいう。「コロナ禍のルールで保護者は外出して子供の試合を見ることができないため、ビデオが試合を見るツールになっています」。

「我々はShopifyでありAmazonではない」

Veoのこれまでのビジネスモデルはタイスベック氏のいう「ロングテールのセオリー」によるものだった。スポーツに関して同氏は「1試合の視聴者は多くなくても、何百万もの試合が実施されています」と語る。しかし多くの高校生スポーツが在校生の枠を超え、卒業生のサポーターやファン、そして企業や近隣の人々といった地元のファンを魅了していることを考えれば、ロングテールのオーディエンスは想像より多いかもしれない。

Veoはロングテールを狙っているので、ターゲットユーザーは必然的に幅広いアマチュアやセミプロのクラブ、そしてそれに関連する人々ということになるが、実はビッグネームにも浸透している。

Veoのカメラはプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ、イタリアのセリエA、フランスのリーグ・アンのほか、米国MLSのインテル・マイアミ、オースティンFC、アトランタ・ユナイテッドFC、FCシンシナティといったサッカークラブでも使われている。タイスベック氏は、メインの配信に使われるのではなくてもトレーニングを支援したり各組織に付随するアカデミーでも利用されていると述べた。

同氏は、長期的な計画として蓄積されたコンテンツでメディア帝国を築きたいわけではなく、顧客が望み通りに使えるコンテンツを作れるようにしたいのだという。同氏はこれを「ShopifyでありAmazon(アマゾン)ではない」と表現した。

「次のESPNを作ろうとしているのではなく、我々のテクノロジーを通じてクラブがこれまでのしがらみから解放されるようにサポートしているのです。クラブが試合やプレイを今ここにいるオーディエンスのために録画して配信できるようにしたいと思っています」(タイスベック氏)。

同氏は勝機をこのように見ているのかもしれないが、すでにもっと大きな成功を思い描いている投資家もいる。

Courtside VCのパートナーであるVasu Kulkarni(バス・クルカルニ)氏は、コスト効率の良い方法でスポーツを記録し解析するスマートなテクノロジーを開発するVeoのような企業を支援したいと述べている。Courtside VCは(その名が示すように)さまざまなスポーツ関連企業の支援に力を入れており、スポーツ情報サイトのThe Athletic、Microsoft(マイクロソフト)に買収されたゲームストリーミングサービスのBeamなど多くの企業に投資している。

クルカルニ氏は、そのような会社を見つけるのに4年近くを費やしたという。

「ロングテールで記録されるスポーツコンテンツの価値をずっと信じてきました」と同氏は語る。たまたま同氏自身が学生時代にスポーツのトレーニングを追跡して記録するKrossoverという企業を立ち上げていた。Krossoverは最終的に、Veoの競合であるHudlに買収された(Hudlリリース)。

「NBAファイナルがVeoで録画されることはないでしょう。それはリスクが大きすぎます。しかしマスメディアが人を雇って制作しライブ配信するほどではない分野では、コンピュータビジョンとAIが低コストで録画や配信をすることになるでしょう」(クルカルニ氏)。

経済性が重要であるとクルカルニ氏はいう。カメラは1000ドル(約10万4000円)未満で、「保護者がBest Buyで100ドル(約1万400円)で買ったビデオカメラ」よりも明らかに良いものが制作できなくてはならない。

クルカルニ氏は、長期的にはクラブがコンテンツをもっと幅広いオーディエンスに届けるにはどうすればいいかを検討するタイミングが間違いなくあるだろうと考えている。特にハイライトの活用やアマチュアのベストゲームのコンテンツで、そこに映っているプレイヤーの誰かが世界中に知られる一流アスリートになる前のものだ。学生時代のMichael Jordan(マイケル・ジョーダン)のプレイを見られたらどれほど興奮するか考えてみよう。同氏は「AIによってベストプレイを10〜15個を選んでつなぎ合わせ、ハイライト動画を作ることをができるだろう」という。そのようなハイライト動画は、選手の保護者にとどまらずもっと幅広いスポーツファンの市場を発見することにつながるかもしれない。

スポーツをもっと見たいと感じる人々の市場が大きくなって、このようなコンテンツが市場に提供されるようになるだろう。家で過ごしながらビデオを見る時間が増えて、オーディエンスは増える傾向にある。タイスベック氏は「スポーツを記録したビデオが増えれば、スポーツはプレイヤーにとってもファンにとってもより良いものになる」と述べた。

関連記事:サッカーの試合をAIカメラで全場面録画するVeoが米進出を狙う

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Veo資金調達スポーツコンピュータビジョン

画像クレジット:Veo Technologies

原文へ

(翻訳:Kaori Koyama)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。