[筆者: Anshu Sharma](Storm Venturesのパートナー)
マルチテナンシーは、SaaSにおける最大の技術的突破口だった。こんな状況を考えてみよう: 顧客が10万あまりいると、Salesforceのような企業は、彼らのニーズに奉仕するために、10万あまりのサーバーとデータベースを必要とし、利益は消えてしまう。
マルチテナンシーは、高い粗利率を可能にするだけでなく、高度なソフトウェアを中小企業に低料金でサーブしても利益を上げられるようになる。それは単に新しいアーキテクチャであっただけでなく、エンタープライズソフトウェアの費用に関するわれわれの考え方を変えた。CPUやサーバーの数ではなく、ソフトウェアのユーザーと使い方が費用計算のベースになる。同様にサーバーレスコンピュートも、アプリケーションの作り方と、その消費と支払い方法の、両方における新しいやり方だ。
サーバーレスは、マルチテナンシーのメリットを、より高いレベルに上げる。サーバーレスコンピュートは、プラットホームが起動しそして停止するとき、専用のサーバーやVMが動いていなくてもよい、という計算モデルで、スケーリングが必要に応じて自動的に行われる。課金は、必要とした処理時間に対して行われる〔下図: AWS Lambdaのケース〕。
マルチテナンシーの一人勝ち — 他は全員敗者
SaaSの最初の10年は、SalesforceやNetSuiteのような企業が熱心なマルチテナンシー賛成派で、レガシーのベンダーたちはそれを弱体化と呼び、複数の顧客データの混在は危険だ、とけなした。
エンタープライズアプリケーションソフトのトップ企業だったSAPは独自のアーキテクチャを発明してそれをメガテナンシーと呼び、データベースベンダーのトップOracleは、マルチテナンシーに代わるものとして仮想化プライベートデータベースなどのイノベーションを売り込もうとした。今日では、これらの企業もAribaやConcur、NetSuiteなどの企業を数百億ドルを投じて買収し、勝者のアーキテクチャ、マルチテナンシーにコミットしている。
サーバーレスアーキテクチャ
サーバーレスアーキテクチャにより、まったく新しい種類のアプリケーションが生まれようとしている。とりわけこのアーキテクチャは、IoTやモバイルアプリ、リアルタイムビッグデータなどに大きなアドバンテージをもたらすだろう。
Amazon Lambdaは、この分野の明確なリーダーと見られる。またPubNub BlocksやAzure Functionsなども、同じアイデアがベースだ。数年後にはすべてのクラウドプラットホームが、何らかの形でサーバーレスアーキテクチャをサポートすることになるだろう。
マルチテナンシーへの移行の場合と同じく、既存のコードを簡単にサーバーレスにすることはできない。アプリケーションを根底から考えなおし、新しいフレームワークを使うためにリライトする必要がある。
不可能を可能にし、そして安価にする
マルチテナンシーにより中小企業が、CRMや会計経理、マーケティング、人事雇用などの分野で、エンタープライズ級のアプリケーションを、手頃な料金で利用できるようになる。それらのアプリケーションは今ならたとえば、Salesforce(CRM)、NetSuite(会計経理)、Marketo(マーケティング)、SmartRecruiters(人事雇用)などだ。
大量のデータを継続的にリアルタイムで処理して経営に生かすユースケースは、コストが膨大だから、とても手を出せない企業が多い。しかしサーバーレスのコンピューティングならファンクションを動かすわずかな時間に課金されるだけだから、それがずっと安上がりになる。
この新しいアーキテクチャとビジネスモデルによる新しいアプリケーションが、これからの10年でどんどん台頭してくるのが、私は待ち遠しい。SalesforceやNetSuiteぐらいのサイズの企業がこの新しいアーキテクチャを採用したら、一体どんなことが可能になるだろうか?
お断り: Anshu SharmaはPubNubの投資家で、元Salesforceの役員、そしてパブリッククラウドに対する絶対的な楽観主義者だ。彼の意見には、これらの立場による偏りがある。