ザッカーバーグ夫妻、疾病撲滅に30億ドルを投ずると発表―世界的研究者をリーダーにバイオハブを建設

2016-09-22-czs-zuckerberg

今日(米国時間9/21)、チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ(CZI)はチャン・ザッカーバーグ・サイエンス(CZS)と呼ばれる新しいプロジェクトを発表した。人類の疾病を予防し治療するため、向こう10年間に30億ドル(約3000億円)が投ぜられる。カリフォルニア大学サンフランシスコ校で開催されたカンファレンスに登壇したプリシラ・チャンは「世界のトップクラスの科学者を結集したサイエンス・コミュニティーを築き、疾病対策の根本的な進化をもたらすためにこの資金が利用される」と述べた。

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30億ドルのうち、6億ドルはバイオハブ(Biohub)に投資される。この新施設ではスタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、サンフランシスコ校のトップクラスの研究者のチームにより疾病に対処する新しいテクノロジーが開発される。

「私たちは、病気の治療を目標として基礎科学に投資する。私自身、小児科医として何度も家族にとってもっとも辛い瞬間を経験してきた」とチャンは述べた。子供たちの病気がガンであることを告げられたときの家族の反応を語りながらチャンはステージ上で涙を浮かべた。チャン・ザッカーバーグ・サイエンスの目的はこうした悲しい体験を追放することだという。

マーク・ザッカーバーグもステージに登場し、世界が直面する健康上のもっとも核心となる問題を指摘し、新プロジェクトがこれにどのように取り組むかを説明したた。

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死因の大半は心臓疾患、感染症、神経系疾患、ガンだという。新プロジェクトはこうした主要な疾病に努力を集中する。

プロジェクトのロードマップの主要な部分は次の3分野だ。

  1. 科学者、技術者のチームを結成する
  2. 疾病を治療する新しいテクノロジーとツールを開発する
  3. 資金集めを加速させる

ザッカーバーグは「アメリカでは病気にかかった人々を治療するための支出に比べて、そもそも人々が病気にならないように研究するための支出はわずか50分の1しかない」と述べた。「われわれはもっとうまくできる!」とザッカーバーグは断言した。ザッカーバーグによれば、こうした現状を変えるためには根本的に考え方を改める必要がある。疾病撲滅に役立つツールの開発には莫大なりソースを必要とするため、大学や研究機関における現在の予算配分方式とは異なった長期的な思考が必要だという。ザッカーバーグは450億ドルといわれる資産の一部をこのプロジェクトで世界の人々に還元しようと考えている。

チャン・ザッカーバーグ・サイエンスの新しい責任者に任命されたロックフェラー大学の神経科学者、コリー・バーグマン(Cori Bargmann)博士が登壇して30億ドルの使いみちを具体的に説明した。

UCSFで開催されたイベントでCZSの概要を説明するコリー・バーグマン博士

バイオハブ(Biohub)

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Biohubはサンフランシスコのミッションベイ地区(AT&Tスタジアムの南)、イリノイ・ストリート499に建設される施設で、 UCSFに近く、他の大学からのアクセスにも便利だ。Biohubの共同責任者としてUCSFのジョー・デリシ(Joe DeRisi)教授、スタンフォードのスティーブン・クウェイク(Stephen Quake)教授が任命された。両教授ともバイオフィジクス、バイオエンジニアリングの分野のリーダーだ。このプロジェクトの成果は広く公開され、世界中のすべての医師、研究者が自由に利用できる。

Biohubには常勤の研究者と先進的設備が置かれ、ジカ・ウィールスのような危険な感染症の突発的流行にも対応できる。新しい疾病が発見された場合、従来のように誰がどのように対応するか、誰がワクチンを製造する、予算をどう配分するかを議論し始めるのではなく、CZS自身が即座に対策をスタートさせるのだとデリシ教授は説明した。

画期的テクノロジー

CZSはまた疾病の治療と予防を変革するような新しいテクノロジーの開発にも力を入れる。ザッカーバーグは望遠鏡や顕微鏡の発明を例として「新しいツールの発明が科学にまったく新しい分野を切り開いた。疾病の場合にも新しいツールが画期的な役割を果たすことを想像するのは簡単だ」と述べた。

ザッカーバーグが開発の目標として例示したテクノロジーには「脳の活動を視覚化するAIソフト…ガンの遺伝子を解析する大規模な機械学習応用データベース…あらゆる感染症に対応する解析能力をもったICチップ、疾病の早期発見を可能にする連続的血流モニター・システム、人体のすべて部分の細胞のマッピングとモニター、個人の疾病と身体特性に合わせて薬品を即座にカスタマイズするシステム」などを挙げた。

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ザッカーバーグとチャン

人体各部の細胞のマッピング、あるいは細胞地図(cell atlas)は医学上の重要なブレークするーになり得るという。クウェイク教授は「人体にどれだけの種類の細胞があるのか、誰も正確なことは知らない」と述べた。すべてのタイプの細胞がシークェンシングされ、遺伝子が編集可能になればガン、糖尿病、感染症その他重大な疾患の治療に革命が起きるという。

研究者のネットワーク構築

CZSは「チャレンジ・ネットワーク」と呼ばれるバーチャル組織にも投資する。これは世界のトップクラスの専門家を結ぶネットワークで、特に緊急性の高い課題の解決を目指す。たとえば、神経を変性させる可能性がある遺伝子が最近発見されたが、それが神経系疾患にどのような影響を与えるのかは未解決のままだ。チャレンジ・ネットワークはこの分野に関連する医師、科学者、技術者が研究成果など各種情報を容易にコミュニケーションできるチャンネルを構築する。これにはテクノロジーを用いた遠隔地間の協力に加えて実際の会議の開催も含まれる。【略】

ビル・ゲイツが登壇してCZSを賞賛

「これは必ず成功するはず」とバーグマンは結論した。また医療問題というザッカーバーグ夫妻にとって未知の部分が大きい分野に巨額を投資を行うことを疑問視する声を予想して、「私たちはプロジェクトを進めるにあたって世界のトップクラスのエキスパートと密接に協力し、意見を聞いていく」と述べた。

マーク・ザッカーバーグは最後に、こうした慈善活動にあたっての師であり、インスピレーションを得た人物としてビル・ゲイツを紹介した。ステージ上でゲイツはこのプロジェクトについて、「大胆かつ野心的だ。われわれはなお一層このような科学の拡大を必要としている」と述べ、他の慈善活動家の参加を求めた。ゲイツは「エボラ出血熱が大流行に至らなかったのは世界にとって幸運だった。しかしわれわれはそのような事態が発生しても即座に対応できるような組織を必要としている」と述べた。【略】

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チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ(CZI)を拡大する

今日発表された新プロジェクトはチャン・ザッカーバーグ・イニシアティブが資金を負担する。このイニシアティブは昨年12月に、夫妻の長女、マッックスが生まれたことを記念して発表された。LLCとして組織されており、マーク・ザッカーバーグはFacebook株式の99%、総額450億ドルの資産を生涯にわたって拠出することを約束している。CZIもこのような場合に普通の慈善団体ではなくLLCとして設立した理由は、NPO、政治キャンペーン、法制化活動のためのロビイーングに加え営利を目的とする組織にもザッカーバーグ自身が株式を管理して寄付ができるようにしたためとみられる。CZIの目的は人類の持つ潜在的可能性を開花させ、平等性を実現するところにある。

CZIの最初の投資はAndelaへの2400万ドルで、シリーズBの資金調達ラウンドをリードする形で6月に実施された。Andelaはアフリカでテクノロジー企業のためにエンジニアを訓練し、配置することを助けるスタートアップだ。またこれに続いて今月初旬にCZIはインドのビデオ利用学習のスタートアップByjuに5000万ドルの投資を行った。

これまでのCZIの投資は主として教育に向けられたきた。しかし今回の新しいプロジェクトでは、今世紀末までに疾病対策を根本的に改善するという目標のためにザッカーバーグ家の資金が用いられる。「私たちは〔娘の〕マックスの世代の生活が現在より劇的に改善されたものになることを目指している。一人残らずすべての人々が対象だ」とザッカーバーグは述べた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

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TechCrunch Japan

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