シリコンバレーが恐れる米カリフォルニア州のプライバシー法

シリコンバレーが戦々恐々としている。

米カリフォルニア州ではあと3カ月強でプライバシー法が変わる。2020年1月1日に発効するカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)だ。ここ数年で最も大きな変更となる。同州の4000万人の住民だけでなくシリコンバレーのすべてのテクノロジー企業が広くプライバシー保護の恩恵にあずかる。

この法律はヨーロッパのGDPR(EU一般データ保護規則)に似ている。消費者に、企業が取得した情報を知る権利、その情報を削除する権利、およびその情報の売却を拒否(オプトアウト)する権利を与える。

カリフォルニア州の居住者にとっては非常に強力な規定だ。消費者は企業が取得した自分の情報にアクセスできる。企業はユーザーに関する驚くべき量のデータを収集している。ケンブリッジアナリティカが良い例だ。Facebookから数百万人のプロフィールページのデータを取得し選挙の結果を左右しようとした。ここ数カ月でGDPRが課した重い罰金を見れば、シリコンバレーのテクノロジー企業はCCPA施行後に多額の罰金が課される可能性を視野に入れる必要がある。CCPAの施行が適用されるのは、法律発効6カ月後だ。

法がシリコンバレーを震え上らせているのも不思議ではない。そうあるべきだ。

米国の大手テクノロジー企業はほとんどがカリフォルニアにあるから、ロビー活動を行いCCPAの弱体化を試みたのも当然だ。GDPRより重い義務を州の新法に入れて欲しくなかったのだ。

大規模なロビー活動にもかかわらず、カリフォルニア州議会はほとんど法案を修正せずに可決した。州内のテクノロジー企業には悔しい結果だったに違いない。

「ケンブリッジ・アナリティカの件を受けて、テクノロジー企業が自らの“非”を認め消費者利益を最優先する方向に舵を切ったと考えるのは早い」と、ACLU(米国自由人権協会)のNeema Singh Guliani(ニーマ・シン・グリアーニ)氏は昨年、法案成立直後に述べた。「連邦規制に従うよう見せかけているが、実際にはトランプ政権と議会を巻き込み州レベルの消費者プライバシー保護を弱めようとしている」。

法律が可決された後、テクノロジーの巨人たちは最後の切札を出した。より包括的な連邦法案の推進だ。

広範なロビー活動を通じて、世の中へ発信するメッセージをコントロールすることができる。連邦法案は、カリフォルニア州の新しいプライバシー法の規定を一部無効にする弱体化された法律だ。連邦法案が通れば、膨大な費用をかけて異なる州の法律を守る努力をせずに済むという面もある。

ちょうど今月、AmazonのJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏、IBMのGinni Rometty(ジニー・ロメッティ)氏、SAPのBill McDermott(ビル・マクダーモット)氏を含む51人の最高経営責任者のグループが、上級議員へ宛てた連邦法案を求める公開書簡に署名し、「消費者はそれほど賢くないため、居住する州によってルールが異なる場合には、おそらく理解できない」と主張した。

次に、Dropbox、Facebook、Reddit、Snap、Uber、ZipRecruiterをメンバーに含むInternet Association(インターネット協会)も、連邦プライバシー法を推進している。「今が行動する時だ」と同協会は表明した。年末までに同協会がその気になれば、カリフォルニア州のプライバシー法は施行が適用される前に沈められる可能性がある。

テクノロジー企業のCEOや上級幹部で構成する全国的かつ超党派のネットワークであるTechNetも連邦プライバシー法を求めている。どんなプライバシー法であっても「企業は法律を順守すべきだが、同時にイノベーションも追求できる」ことを保証すべきだと主張しているが、その根拠は示していない。メンバーには、Kleiner PerkinsやJC2 Venturesなどの大手ベンチャーキャピタル、Apple、Google、Microsoft、Oracle、Verizon(TechCrunchの親会社)などの大手テクノロジー企業が入っている。

テクノロジーの巨人と通信会社が協力するとき、何か怪しいことが起こっている。だが、誰かをだましているわけではない。

「テクノロジー業界が連邦法案を推進し始めたのが、CCPAを弱体化させようとする試みがカリフォルニア州議会によって否定された直後なのは偶然ではない」と、ACLU北カリフォルニア支部の弁護士であるJacob Snow(ジェイコブ・スノー)氏はTechCrunchに語った。「テクノロジー企業は連邦法を推進して州のプライバシー法を一掃しようとする企てはやめて、2020年1月1日からカリフォルニア州民がCCPAの下でプライバシー権を行使できるよう保証すべきだ」。

CCPAの発効前に議員ができることはほとんどないが、テック大企業の挑戦を止めることはできない。

シリコンバレーのテック大企業とそのロビイストが本腰を入れたら、カリフォルニア州民がCCPAの恩恵を享受できるのは短い間になってしまうかもしれない。ただ、消費者が一度でも勝利を収めたことが慰めになるはずだ。

画像クレジット:ウィキメディアコモンズ

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。