もっとも美しいプロダクトはときどき、もっともシンプルなプロダクトだ。たとえば、ここでご紹介するRadio.Garden。マルティン・ルター大学ハレ校のGolo Föllmerが作ったこのプロジェクトは、まるで実写のような地球の表面に、グリーンのドットがたくさんある(上図)。マウスがドットの上に来ると、そこがイランでもエストニアでもフェロー諸島でもどこでも、そこのラジオ局を聴ける。
そのインタフェイスには、意外にも鎮静効果がある。使いはじめるとすぐに、地球上の最僻地に行ってみたくなるだろう。アイスランドの上をごろごろしていると、Spice Girlsや、地元のラジオ局のトークショーが聴ける。テヘランを訪ねると大音量のディスコになり、背後にはRadio.Garden固有のシーシー音やパチパチ音が聞こえる。そう、暗いタクシーの中や、路地裏のカフェでは必ず、エリック・クラプトンやジャミロクワイが鳴っている、その雰囲気だ。
Föllmerはこう言ってる: “遠くの声を近寄せるラジオは、人をその場所にワープさせる。Radio Gardenでリスナーはラジオ放送という独自の世界を探検し、地球全体の各所に広がっているさまざまなアイデンティティを耳にする。ラジオの信号には、最初から国境がない。ラジオ局とリスナーは、想像力によって、互いに遠方の文化に接続し、数千マイル離れた自分の家から、そこの人びとと結びつく。ラジオ局側から言えば、ローカルなコミュニティのラジオが、数千マイル先に新しい家を見つけ、自分自身を豊かにする”。
彼の言うことは、まったく正しい。人間が24時間365日情報漬けになってるこの時代に、ラジオには短い余命しか与えられていない。それは別の時代のメディアであり、これまでの整理統合と近年の電波バブルによって、約2000局に減ってしまった。でも、このきれいなプロジェクトは、遠くの見知らぬ土地をドライブしているときは、ラジオが地元の小さなFM局を見つけてくれたときが最高の救いであること、月明かりしか照明のない僻地の古い農家に民宿したときには、そんなFM局の音楽の大音量が、唯一のぬくもりであることを、思い出させてくれる。