ジョブズの大はしゃぎのアナウンスを思い出しながら、10周年を迎えたiPhoneを祝おう

Jan 09, 2006; San Francisco, CA, USA;
Apple, Inc. CEO STEVE JOBS introduced the AppleTV and Apple iPhone at Macworld in San Francisco.
Mandatory credit: Photo by Eric Slomanson/Bloomberg News

iPhoneは今日(米国の9日)10歳になった。少なくともその発表があった日から数えてのことだが。だから、少しだけ時間をとってその日のことを思い出してみよう。スティーブ・ジョブズがその製品とプレゼンテーションに見せた興奮と誇りと共に。さあ、あなただってそうしたい筈だ。

私はこのビデオを、特に最初の30分ほどの部分を、1〜2年に1度は観ている。とはいえ私自身はiPhoneを所有したことは1度もないのだが。これは私たちが1年を通して何度も参加しなければならない類のプレゼンテーションの、言うまでもなく最良の例だ。だから単にノスタルジーに浸るだけではなく、ジョブズが優れたマジシャンのように振舞い、どのように観客を操ったのかを見ることには価値がある。彼はピンポイントの正確さで観客の注意をコントロールしてイリュージョンを生み出したのだ。

仰々しく番号付きリストにするまでもないが、この発表の中で私が気に入っている3つの瞬間を紹介しよう。

実は、ここにある、だけど…

ジョブズはプレゼンテーションの最初から徐々に緊張を高めて行った。彼自身が興奮していることを隠さず、発表の範囲を拡大し(3つのデバイスがある)、それをさらに広げた(実は1つの統合デバイスだ)。そして彼はユーモアでその高まった緊張を一気に緩めてみせた。「それがこれです!(And here it is!)」(ビデオ3分13秒の辺り)。

この偽iPhoneは目玉がひっくり返るようなギャグだった。何しろ本当に可笑しいので皆が笑ったが、あまりに緊張が高められていたので、何らかの手段でエネルギーを解放する必要もあったのだ。それは丁度近くの茂みで何かが唸っているのを聞いた時にアドレナリンが血管に溢れるような感覚だった。すわ虎か?しかしそれは単に車で、自分の愚かしさに思わず笑ってしまう。

しかし、その後ジョブズは凄いことをする。かれは虎を見せたのだ。誰もが「まあもちろん彼はすぐにはそれを見せないだろう」と考えていたときに、そのプレゼンテーションの流れに逆らって、彼はさりげなく彼のポケットから実際のiPhoneを引っ張りだしたのだ。「実は、ここにある、だけどしばらくはまだここにしまっておこう」。

ここにありますそれは全くの予想外で、デバイスもちらりと見せられただけだったので、会場の誰もそれに反応することさえできなかった。しかしそれは本当に食欲をそそるやりかただったので、聴衆はまたすぐに気持ちを捕らえられた。ここにあるんだ!この部屋の中に!その時点で皆は、よりはっきり見たい気持ちで熱い石炭の上を歩いていた。しかしジョブズは続く20分の間、皆の強い注意を引きつける必要があったのだ。

これってクールじゃないかな?

iPhoneのデモを始める選択肢として、iPodの部分が選ばれたのは気まぐれからではない。1つには、観客は既にiPodのインターフェイスに馴染んでいたので、それと比較することができた。だがそれに加えて、ジョブズはタッチインターフェイスが既存の製品を如何に良くするかを示すことができたのだ(iPod Touchの発表は2007年9月)。

それだけでなく、スクリーンではカラフルなアルバムアートを披露し、アプリは(最初はそのようには呼ばれていなかったが)他の3つの重要な操作を披露する機会を提供した。ホームボタン、タッチスクロール、そしてランドスケープモードへの切り替えだ。

ipodart

全体を通して、ジョブズは、アップル社の発明品に純粋に感動しているようにみえる。観客から感嘆のため息を引き出した最初のロック解除の後で、彼はこう尋ねる。「今の、もう1度見たいかな?」。そしてアーティストリストをスクロール表示するとき、ラバーバンド動作のような詳細を見逃す人がいないように彼は注意を促している。「これってクールじゃないかな?」彼は確認を繰り返す。

何度もホームボタンを押して、彼は電話機の操作が簡単であることを示すだけでなく、アニメーションが如何にスムースかも見せた。皆はこれを見て、電話機が如何に洗練されていてユーザーフレンドリーであるかを、言葉で言われるまでもなく理解したのだ。

それほど悪くないね

もちろん人びとは電話機を通話に使う。しかし、この時点でのスマートフォンたちは、ジョブズが指摘したように、電話機としては扱い難いものばかりだった。iPhone上での連絡先の管理は、タッチスクリーンインターフェイスによって確かに簡単になった。しかしそれ以上に私を驚かせることがデモの中で起きた。

ジョブズは、ジョニー・アイブ呼び出し、その通話中にフィル・シラーがジョブズに電話をかけてきた。これは奇遇だ、そうじゃないかな?しかし、それによってジョブズはインタフェースの固有の柔軟性と、彼らがそれを設計した先見性の両方を披露する機会を与えられたのだ。

マージシラーが電話を掛けてきた時に、ジョブズは電話機上に「マージコール(merge call)」ボタンが表示されていることを皆に説明した、これは当時既に複数の通話を行っている際に表示されていた「追加コール(add call)」ボタンを置き換えるものだった。通話はマージ(統合)され、観客は湧いた。だがそれで終わりではなかった。すぐに関連するインターフェイスが示されて、始まったときと同様にコンファレンスコールが簡単に管理できることが示された。

今にして思えば、最もありふれた日常的な機能を取り上げて、それが手軽にシームレスに働くことを見せただけだ。だがそのことで、ジョブズは電話体験のどの側面も損なわれていないことを見せつけたのだ。同時に、どれほどのものを他の電話機が、何年もの間見落としていたのかを示していた。これは大きなポイントだが、まだ他の機種での実現は微妙なままだ。


さて、これで応援としては十分だろう。私はこの種のものにとても感謝している。そして10年が経っても、これは今でも最も効果的なテクノロジーアナウンスだったと思っている。たとえそれが私を納得はさせなかったとしても。10周年おめでとう。iPhone。

(訳注:途中の見出しの「それほど悪くないね(Not too shabby)」は、電話を終える直前のジョニー・アイブが言った言葉)

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(翻訳:Sako)

FEATURED IMAGE: ERIC SLOMANSON/BLOOMBERG NEWS

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TechCrunch Japan

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