Anu Shukla(アヌ・シュクラ)氏は、RewardsPayの立ち上げを手伝ってくれるエンジニアリング担当副社長に完璧な候補を見つけた。シュクラ氏は、ベンチャーキャピタルから投資を受けたスタートアップを単独または共同で5社創業したことがある。同氏が知っている基準は、鍵となる幹部レベルの従業員には概ね1.5%〜2%の持分を渡すというものだった。
だがシュクラ氏は、適切な人材を獲得するためなら、場合によってもっと渡す必要があることを知っていた。「その時は、会社にあまりキャッシュがなかった」と同氏は2010年に創業したRewardPayについて語った。同社は消費者が貯めたリワードポイントを他の店で商品に交換する仕組みを提供する会社だ。「技術の開発や技術チームを構築するために、彼のような人物を求めていた」とシュクラ氏は付け加えた。大手企業に対してなら、かなりの給与を要求するにふさわしい経験も持ち合わせていた。
結局シュクラ氏は彼に会社の持分の3%を渡した。彼には長期間にわたってモチベーションを維持してもらう必要があった、と同氏は語る。「そして次回以降の資金調達ラウンドで彼の持分が希薄化されることもわかっていた」と説明した。
テックスタートアップにとって重要な「通貨」はさまざまな要因を考慮して発行される
通常ストックオプションの形で発行される株主持分(エクイティ)は、テクノロジーとスタートアップの世界の通貨だ。創業者間で創業時の持分を分け合った後は、株主持分を人材誘致に使う。従業員に対し、スタートアップに入る時にほぼ避けがたい給与の減少分を補償するのだ。会社が売却または公開される暁には特別な給料日を迎えられるという期待を抱かせ、従業員がモチベーションを維持するのに役立つ。
だが創業者は、製品開発のために雇うエンジニアに、またそれに続く新規採用者に何%の株を渡すべきなのか。会社がついに販売できる製品を持ったときに、是非来てほしいとお願いする販売担当副社長についてはどうか。さらに、若いスタートアップが大きな夢のために募集する他の人たち、例えば成功の可能性を高める鋭い考えやコネを提供するアドバイザー、回数間もない取締役会に参加するにふさわしい専門知識を持つ社外取締役についてはどうだろうか。
株主持分を適切に配分することは、初めての創業者にとって1つのチャレンジだ。従業員にふさわしい持分の割合は、スキル、ランク、従業員番号など、さまざまな要因で決まる。
「雇うのは5人目の従業員なのか、25人目なのか」と、4つのスタートアップを単独または共同で創業し、従業員としても4つの会社で働いたことがあるシリアルアントレプレナーのJoe Beninato(ジョー・ベニナート)氏は問う。「来る人の経験はどうか。毎回、状況を個別に判断する必要がある」
1%か0.05%か、それはポジションとランクによって決まる
これは複雑な問題だが、いくつかのオンラインガイドが報酬のベンチマークを提供している。創業者が人材を採用するときに会社の持分をスライスして渡す場合、その大きさを決めるのにベンチマークが参考になる。例えばIndex Venturesは、シードステージで付与するオプションに関して、起業家の理解を助けるハンドブックを発行している。アーリーステージの会社では、シニアエンジニアに付与する持分割合の相場は1%だが、経験豊富な事業開発担当者には通常0.35%の分け前が与えられる。ジュニアレベルのエンジニアでは0.15%だが、ミドルレベルでは0.45%だ。ジュニアレベルの事業開発担当者には0.05%を想定しておく必要がある。これは、ジュニアレベルのデザイナーやマーケティングのポジションと同じだ。
大きな肩書を与えるからといって、店を譲り渡してしまう必要があるわけではない。「シードステージの会社で役割や肩書のインフレが進行する例を数多く見てきたが、そういったことは避けることが賢明だ」と、Indexハンドブックに引用された欧州のシードファンド、Seedcampの共同設立者兼ゼネラルパートナーであるReshma Sohoni(レシュマ・ソホニ)氏は警告する。「シートステージでは、この先一緒に冒険を続けられるのは誰なのか、確信が持てないからだ」
タイミングは経験とランクに勝る
シュクラ氏はRewardsPayでのチーム構築の際、希望給与と経験の両方を考慮して、最も早く参画したエンジニアらに0.5%〜1%の株式持分を渡した。給料水準は最低限でも大きい株主持分があれば進んで働く人もいたし、個人的な事情からキャッシュの割合を高くしたい人もいた。シュクラ氏は、「初期のチームメンバーは、後で加入する従業員より間違いなく多くの株をもらう」と述べた。
実際、多くの場合、従業員が会社に参画するタイミングによって付与する持分割合が変わる。それは理にかなっている。誰かがあなたのスタートアップにコミットするのが早ければ早いほど、本人はリスクを取ることになるからだ。
鍵となる従業員が3人目で、2人のチームに加わる場合、その人はほぼ共同創業者と見なされ、10%もの会社持分を獲得することもある。だが、スタートアップが販売やプロモーションできる製品を持つ段階で、販売責任者やマーケティング担当副社長が加わるときは、経験に応じて1%から2%の持分割合になるだろう。
「パーセンテージはケースによって著しく異なる」とベニナート氏は言う。「指数関数的に減少するとまでは言えないが、似たようなものだ。最初の人物がより多くを獲得し、時の経過とともに減少する」
従業員オプションプールを用意する時期
いずれ、創業者は従業員オプションプールの設定を検討する必要がある。持分付与の方法としては、新規採用のたびに持分を削るよりも規律がある。「シードラウンドの後に従業員プールを10%とか12%前後に設定するのが良いと思う」と、アーリーステージに投資するベンチャーキャピタル、NFXのマネージングパートナーで4回の創業経験があるJames Currier(ジェイムズ・キュリエ)氏は述べる。同氏によると、オプションプールの大きさを正確に調整するには、次の資金調達サイクルまでの12〜18カ月にわたる採用意欲を見極めなければならない。
繰り返しになるが、オンラインガイドが役に立つ。例えば、Holloway Guide to Equity Compensationは、弁護士やアドバイザーと話す時に起業家が理解しておくべき「クリフ」「クローバック」「シングルトリガー」「ダブルトリガー」などの難解な用語を説明する80ページのハンドブックだ。このガイドは、回避すべき地雷原を特定するほか、従業員プールがそれぞれ9%、20%の2社における株主所有割合の内訳を例示している。
創業者は後々、オプションプールに手を加える必要がある。ラウンドが進むにつれ全員の持分が希薄化していくからだ。「シリーズAの後は、必要なマネージャーの数にもよるが、10〜15%に抑えるのが良いと思う」とキュリエ氏は言う。シュクラ氏はこう付け加えた。「VCは通常、発行枠がフルに利用可能な、完全に空のオプションプールを求める」。
交渉の準備をしておく
オプションプールの大きさは、ベンチャーキャピタリストとの交渉事になるはずだ。創業者は、VCの会議室で腰を下ろす前に、この問題について考えておくのが賢明だ。「VCは、プレマネーベースでオプションプールを大きくしておいて、自分たちの経済的利益をこそっと増やそうとする」と、Brad Feld(ブラッド・フェルド)氏とJason Mendelson(ジェイソン・メンデルソン)氏は著書「Venture Deals:Be Smarter Than Your Your Lawyer and Venture Capitalist」で警告している。つまり、オプションプールを拡大するということは、創業者とアーリーインベスターの持分を原資にする(削る)ということであり、フェルド氏とメンデルソン氏は、VCが過度に大きなオプションプールを求めていると感じたなら、押し返すよう創業者に勧めている。
「起業家は、『見てみろ、我々のニーズを満たすのに十分なオプションがあるはずだ』と言うべきだ」とフェルド氏とメンデルソン氏はアドバイスする。両氏は、VCを希薄化から完全に保護するメカニズムを推奨する。そうすれば、創業者の想定が実は間違っていて、次の資金調達の前にオプションプールを拡大する必要が生じる場合に備えられる。
一度にすべてを手にする人はいない
株式報酬には、その形態に関係なく、権利確定スケジュールがある。スタートアップは伝統的に、1年間の「クリフ」つきで4年、というベンチマークを使ってきた。つまり12カ月間働くまでは従業員に一切の権利がなく、その後1年働くごとに25%、または毎月48分の1ずつ権利行使が可能になる。だが、成功する会社に育つまでに通常4年を大幅に上回る年数がかかるという認識が広がりつつあるし、オプション付与の目的は何か大きいことを成し遂げるために人材をつなぎとめることにある。そこで、より長い権利確定スケジュールが一般的になりつつある。
企業が株式公開や売却に至るまでの時間が長期化していることもストックオプションの条件に影響している。通常、従業員は会社を辞めても90日以内であればオプションを行使できるが、支出が大きくなるかもしれないし、税金が多額になる可能性もある。最近は、企業がその期間を90日をはるかに超えて延長する例も散見される。そうすれば、従業員が株をキャッシュに換えられるタイミングのずっと前に退職したとしても、結局何も得られないということはない。
アドバイザリーボードと取締役会
株主持分は、会社に存在しないタイプの人材を引っ張ってくるのにも適している。フルタイムで働いてもらうことはできなくても、興味が一致していれば、成功の確率を高めるアドバイザーとして貢献してもらえるかもしれない。なお、このステージの会社では、創業者でないボードメンバーは株主である可能性が高いため、ボードメンバーの持分は投資規模に見合ったものになる。
シリアルアントレプレナーからベンチャーキャピタリストになったキュリエ氏は、自分の会社ではアドバイザーに対して0.1〜0.3%の持分をアドバイザーに渡していたという。「会社の価値を3倍にするようなアドバイスをしてくれるアドバイザーが望ましい」と同氏は言う。「問題は、アドバイザーとして連れてきた5〜6人のうち、誰がそういう人なのかわからないことだ。そこで、連れてきた全員に0.2%ずつ渡して、そのうち1人が渡した価値以上のアイデアをくれることを願うのだ」
ポイント:キャッシュは限られているが、株主持分も同じ
株主持分を渡すことには痛みを感じないかもしれない。成功確率を大幅に高められる一流の人材をスタートアップに呼ぶ際に、キャッシュに手を付けずに済む手っ取り早い方法だ。だが、あなたが渡すものの価値を十分時間をかけて理解してほしい。また、従業員プールを設定すれば、早い段階で規律のあるプロセスを確立できる。そうしておけば、シュクラ氏のRewardsPayがしなければならなかったように、本当に特別な人を獲得するために少し余分に払う必要が生じたら、どう判断すべきかがわかるはずだ。
【編集部注】筆者のLewis Hower(ルイス・ハワー)氏は、SVB Startup Bankingのマネージングディレクターとして、Silicon Valley BankとVCやスタートアップコミュニティの橋渡しをしている。
画像クレジット:Richard Drury / Getty Images
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(翻訳:Mizoguchi)