送金・決済システムを開発するスタートアップKyashは2016年12月14日、スマホで少額を個人間で送金できソーシャル拡散を狙うサービスKyashのベータ版サービスを開始する。同時に第三者割当増資による10億円超の資金調達を発表した。出資元の三井住友FG、電通グループ、伊藤忠商事とは業務提携も進めていく。調達金額10億円超はシリーズAとして最大級といえる。
Kyashは2015年1月設立、2015年7月にシードラウンドで1億7000万円の資金を調達している。創業いらい2年近く決済システムの開発を進めてきたとのことだ。創業者で代表取締役社長の鷹取真一氏は三井住友銀行出身。また今回の発表と同時に、投資会社グリーンヒル・ジャパン代表取締役社長の箕浦 裕氏(元・三井住友銀行副頭取)が顧問に加わっている。
Kyashのサービスの特徴は、1回10万円までの個人間送金をスマートフォンアプリを使い最小限のハードルで使えるようにし、ソーシャル拡散も容易な作りとしたことだ。「飲み会の『割り勘』のような数千円代の個人間送金に使ってもらいたい」と社長の鷹取氏は話している。
今回のシリーズAの第三者割当増資の引受先は、ジャフコ、三井住友銀行、伊藤忠商事、電通デジタル・ホールディングス、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタルの各社。三井住友FGとは今後協業を検討する。また電通グループとはサービスデザインおよびマーケティングパートナーとして協業する。伊藤忠商事とは、Kyashの決済プラットフォームを活用した新規事業の開発を通じて協業する。調達した資金は、人材獲得とマーケティングなどに充てる。
スマホアプリで手軽にサービスを開始でき、ソーシャル拡散を狙う
Kyashの送金サービスは、招待制のベータ版サービスとして開始、規制当局の承認を待って2017年初めには一般公開を予定している。まずiOSアプリを公開する。初年度100万人のユーザー獲得を目指す。
サービスの登録ユーザーに対して仮想的なVISAデビットカードを発行する(仮想カードだけでなくプラスチックカードをユーザーが入手することも可能にする方向だ)。KyashはVISAのイシュア(カード発行会社)の1社との位置づけだ。
ユーザーはすでに持っている自分のクレジットカード(VISAまたはマスター)を登録し、デビットカードにチャージする。チャージしたお金は、VISAデビットカードとしてオンラインショッピングに使うこともでき、また他のユーザーに送金することもできる。
法的な枠組みはSuicaカードなどと同様の「前払金支払手段」となる。Suicaと同様にチャージ、送金で得たお金を現金として引き出すことはできない。その代わり、ユーザー間の送金だけでなく、VISAデビットカードへチャージされたお金として各種の支払いに使うことが可能だ。
Kyashのサービスで注目したいポイントは、1点目に使い始めるまでのハードルが低いこと。2点目にメール、ソーシャルメディアを使い手軽に「送金」や「請求」ができ、それが同時にユーザー獲得につながっていることだ。
1点目の使い始めるまでのハードルが低い理由は、Kyash自身は与信にかかわらないこと、また「前払金支払手段」を使うことから本人確認(KYC)プロセスを省略できるためだ。例えばネット銀行では本人確認のため郵便物による本人確認の手続きに数日が必要となっているが、このハードルがない。スマホアプリで登録をするだけで使い始めることができる。また、手持ちのクレジットカード類を登録するのもスマートフォンのカメラでカードを撮影するだけで済む。
2点目の送金先だが、今のところメール、Facebook、Twitter、LINE、スマホの電話帳を宛先に使える。送金相手がまだKyashを使っていない場合も送金、請求できるところが大事だ。例えばメールを使う場合、メールの中のダウンロード用リンクからKyashアプリを入手でき、その場でサービスの登録してもらうことも可能となっている。
面白い機能として、KyashユーザーどうしはQRコードで送金先を指定できる。ビットコインのスマートフォンウォレットのような使い勝手といえる(もちろん、ビットコインと異なり送金はKyashユーザー間の限られれており転転流通性はない。ただし、法定通貨建て決済であること、ユーザーから見える手数料がないことをメリットを感じるユーザーもいるだろう)。
ユーザーから見ると手数料なし、CF的に強いビジネスモデル
Kyashでは、サービスを利用するユーザーから見ると、チャージにも送金にも決済にも手数料は一切発生しない。クレジットカードでサービスにお金をチャージするときのカード決済手数料はKyashが支払っている。
ではKyashがどこで利益を出すかというと、ユーザーが仮想VISAデビットカードを決済に使うさいの手数料だ。それに加えて、ユーザーがチャージしたお金が決済システムに滞留することも同社のビジネスに寄与する。発表会の質疑応答で、社長の鷹取氏は「(滞留するお金を)自由に使える訳ではないが、キャッシュフローとして強いビジネスだ」と強調した。同社のシステムに滞留するお金の半分は供託金として保全する必要があるが、例えば一部分を運用して運用益を出すことは可能とのことだ。
今後は、海外展開と複数通貨対応、それに各種ポイントや仮想通貨(ビットコインなど)への対応も視野に入れている。同社は自社の決済システムには自信を持っており、決済システムの横展開にも意欲を見せている。「(独自ポイントのような)自前の経済圏を持つ訳ではないので、価値移転のインフラに徹するポジションが可能だ」(鷹取氏)。