Elizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)被告は、Theranos(セラノス)の創業者兼CEOとして、投資家を欺いた罪で有罪評決を受けた。4カ月にわたる裁判手続きと7日間の審議の末、陪審団はシリコンバレー以外にも永続的な影響を与える評決に達した。
かつて最年少で最も裕福であり、一代で億万長者となった女性は、2件の通信詐欺共謀罪と9件の通信詐欺罪に問われた。ホームズ被告は、投資家詐取の共謀と、デボス家、ヘッジファンドマネージャーのBrian Grossman(ブライアン・グロスマン)氏、元不動産・信託弁護士のDan Mosely(ダン・モーズリー)氏からの投資家を詐取したことで有罪評決を受けた。患者への詐取に関する容疑については無罪となった。
Black Diamondの幹部Chris Lucas(クリス・ルーカス)氏、Hall Groupの幹部Bryan Tolbert(ブライアン・トルバート)氏とマネーマネージャーのAlan Eisenman(アラン・アイゼンマン)氏が裁判で証言した3件の通信詐欺については、陪審団は評決に至らなかった。Edward Davila(エドワード・ダビラ)判事は、これら3件について審理無効とした。Jeffrey Schenk(ジェフリー・シェンク)検事は、司法省と協議した後、政府がどのように進めたいかを1月9日の週に裁判所に伝えると述べた。
ホームズ被告はスタンフォード大学を中退した後、2003年にTheranosを設立した。静脈内の血液を採取して検査結果を何日も待つ代わりに、指先を刺して採取するほんの少しの血液だけで、瞬時に何十もの検査を行うことができるという、医療システムに革命を起こす技術を投資家やパートナーに売り込んだ。間もなくホームズ被告は評価額100億ドル(約1兆1620億円)の企業のCEOとなったが、1つ問題があった。それは、その技術が機能しなかったことだ。
Theranosは2018年に解散したが、ホームズ被告の刑事裁判は、パンデミックとホームズ被告の出産による遅れを経て、2021年秋に始まった。検察側は11週間にわたり、元米国防長官のJames Mattis(ジェームズ・マティス)氏、内部告発者のErika Cheung(エリカ・チャン)氏、Theranosの患者、投資家、医療関係者、ジャーナリストなどの証人に尋問を行い、ホームズ被告が故意に投資家を欺いたと主張した。
Theranosの技術が実際には同社が主張するような成果を上げていなかったにもかかわらず、ホームズ被告は、自分は真実を語っていると思っていたと述べた。投資家に提示したスライドショーは科学者やエンジニアが作ったものだとさえ主張した。しかし検察側は、ホームズ被告が故意に投資家やパートナーをミスリードしたと陪審団を説得することに成功した。その証拠の1つは、TheranosがWalgreens(ウォルグリーン)との提携交渉中にPfizer(ファイザー)のロゴを無許可で使用していたことを示すものだった。Theranosの元シニアプロダクトマネジャー、Daniel Edlin(ダニエル・エドリン)氏は、Theranosが投資家の前で偽りの技術デモンストレーションをすることがあったと証言した。億万長者の投資家Rupert Murdoch(ルパート・マードック)氏が血液検査を受けたとき、Theranosは報告書を送る前に異常な結果を削除したと、エドリン氏は述べた。
注目を集めている裁判の大きな展開として、ホームズ被告は自ら証言台に立ち、スタートアップ創業者としての失敗は、自身が詐欺を働いたことを意味するものではないと主張した。重要な場面で、ホームズ被告はTheranosのCOOであるRamesh “Sunny” Balwani(ラメッシュ・”サニー”・バルワニ)被告が自身を虐待したと主張した。
2023年に別の裁判に臨むバルワニ被告は、ホームズ被告の秘密のボーイフレンドだった。2人はホームズ被告が18歳、バルワニ被告が37歳のときに出会い、ホームズ被告がスタンフォード大学を中退した翌年に同居し始めた。ホームズ被告はまた、スタンフォードの学生時代にレイプされ、それが学位を取得できなかった理由の1つだと公判で述べた。ホームズ被告は「この会社をつくることで、人生を切り開こうと決めた」。ホームズ被告はバルワニ被告の支配的な行動について詳しく説明し、そこには何を食べ、いつ眠り、どのような服を着るかなど、毎日のスケジュールを指示する書面を作成することも含まれていた。ホームズ被告は「彼(バルワニ被告)は私が平凡であることにかなり失望し、どうすればもっと良くなれるかを教えようとしていた」と述べた。
陪審団は7日間審議し、陪審説示を家に持ち帰ってレビューしてもよいか尋ねさえした。また、証拠として提出されたホームズ被告と投資家の通話音声の一部の聞き直しを求め、それでも審議は新年に入っても続いた。
審議7日目に、陪審団は11件の罪状のうち3件について全員一致の評決に至らなかったとする3回目のメモを判事に提出した。検察側はダビラ判事に、陪審団がデッドロック状態に陥った場合の対処法についての指示書を読むことを提案した。ホームズ被告側の弁護人は、このような指示は強制的と見られる可能性があるとして反対したが、判事は指示書を配布した。判事はまた、有罪が証明されるまでホームズ被告が無罪と推定されることを陪審団に念押しした。4時間後、陪審団は、3件の容疑について全員一致の評決に至ることができなかったというメモを再度提出した。その直後、他の8つの罪状についての評決が出された。
著名なホワイトカラー裁判で、審議がこれほど長引くのは予想外ではない。Ghislaine Maxwell(ギスレーヌ・マックスウェル)の4週間にわたる直近の裁判では、陪審団は5日間審議し、6件の容疑のうち5件つについて有罪とした。2007年、元報道界の大物Conrad Black(コンラッド・ブラック)は、14週間にわたる裁判の12日間の陪審団審議の末、詐欺罪で有罪になった。
この裁判の評決は、テック系の創業者たちに、自社の技術について嘘をつくことは許されない、特にそれが実際の人々の健康に影響を与える場合はなおさらだ、というメッセージを送るものだ。しかし、患者を欺くことに関する訴えが無罪とされたことは、複雑なメッセージだ。それ以上に、この事件は、投資家やスタートアップと協業するパートナーにとって、デューデリジェンスがいかに重要であるかを示した。注目すべきは、Theranosの投資家が、通常疑われるようなベンチャーキャピタル企業ではなかったことだ。むしろ、前教育長官のBetsy DeVos(ベッツィ・デボス)氏、億万長者のメディア王ルパート・マードック氏、前国務長官のHenry Kissinger(ヘンリー・キッシンジャー)氏、ウォルトン家など、裕福なエリートたちがホームズ被告の資金源となっていた。これらの投資家は、ホームズ被告がより突っ込んだ質問から逃れても、Theranosに資金を提供する意思があったことを示す証拠もある。
しかし、投資家たちのホームズ被告に対する誤った信頼だけが、欠陥のあるTheranosの技術を前進させたのではない。Theranosや他の診断会社は、FDAの承認を受けていない機器が市場に出回ることを可能にする規制の抜け穴を利用していた。
ホームズ被告の評決言い渡し日はまだ決まっていない。検察は米国時間1月3日、ホームズ被告の勾留を求めないが、政府は同被告の保釈金を確保するために現金か財産のいずれかを望んでいる、と述べた。
Theranosはまだ過去のものではない。バルワニ被告は2023年に自身に対する詐欺罪の刑事裁判を控えている。
画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images
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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi)