約3週間後の11月17日、18日に迫ったTechCrunch Tokyo 2015の海外ゲストスピーカーが、また1人決まったのでお知らせしたい。Yelpで新規市場担当バイス・プレジデントを務めるMiriam Warren氏だ。2007年にMiriamがYelpにジョインしたときには、すでに超ヘビーなYelpユーザー(Yelperと呼ぶ)だったというから、Yelpの歴史と発展、特に海外展開を見てきた最重要人物と言える。Yelp登場の歴史的背景と、他サービスとのYelpの差別化について、2015年5月にサンフランシスコでMiriamに対して行ったインタビューを交えてまとめてみたい。
ソーシャル化は同時多発的に起こった現象だった
Yelpが創業したのは2004年10月のことだ。振り返ってみると2004年はソーシャル元年だったように見える。2002年にマレーシア発のサービスとしてFriendsterが後にSNSと呼ばれることになる新ジャンルを開拓していたが、SNSブームに火を付けたのは2004年1月に始まったOrkutだろう。今となっては意外な感じがするが、OrkutはGoogle社員が作ったサービスだった。Orkutはインドやブラジルで爆発的にユーザーを伸ばした。2004年前後を振り返ってみると、LinkedIn(2003年)、Facebook(2004年)、YouTube(2005年)、Twitter(2006年)などが続々と生まれ、「ソーシャルネットワーク」という言葉が一般化したのだった。日本ではmixiが2004年と早い時期に立ち上がっていた。
インターネットが爆発的普及を始めた1995年から10年ほどのネット初期というのは、いまとだいぶ状況が違った。ユーザーは半匿名で、ユーザー同士の繋がりをサービス側がグラフデータとして保持しないのが一般的だった。チャットサービスや交流の掲示板、情報投稿サイトなどは古くから存在しているが、ユーザー同士を結ぶのは特定のアイテムや話題だけだった。レビューや売買サイトであれば、アイテムというのは書籍や店舗、商品、そのジャンルなどを指す。ここにユーザー同士を繋ぎ、フォロー・非フォローといった関係を持ち込んだのは一連のSNSなのだった。TechCrunch Japan読者には説明不要だろうけど、この繋がりを「ソーシャル・グラフ」と呼ぶ。
2004年にソーシャル系サービスが一気に出てきて、ソーシャル・グラフの価値はすぐに明らかになる。友だちが、泊まったことのあるホテルについて何か肯定的なことを言っていれば、それは誰か全く見ず知らずの人がオススメだと言っているよりも遥かに意味のあることだからだ。サービス提供者がユーザー獲得をすることを考えた場合でも個別ユーザー単位でなくソーシャル・グラフごとサービスを利用してもらうことで、大きな価値を提供できる。今再び、メッセージング系サービスの存在感が大きくなるにつれて勢力図が変わりつつあるように見えるものの、Facebookが貯めこんだソーシャル・グラフは外部サービスへも大きな影響を与えているのはご存じの通り。
Yelpは最初からソーシャルだった
Yelpはネットがソーシャル化していく時期に生まれたので、それまでの匿名性の高いサービスとは根本的に異なっていた。Miriamは、
「Yelpには、redpony68というようなユーザー名の人はいません」
というふうに指摘する。Yelpが掲げる標語は「本物の人々による本物のレビュー」だ。Yelpが誕生した2004年には、まだFacebookアカウントによるログインなどという概念も技術的枠組みもなかったが、最初からYelpはSNS時代を先取りしていた。というよりも、米国でFacebookが強すぎたので誤解しがちだが、ネットのソーシャル化は同時多発的に起こった現象だったわけで、Yelpはその一角を占めていたということだ。
Yelpは2014年4月に日本に上陸を果たしている。日本には、すでにレストランのレビューサービスは多数あるが、何が違うのだろうか?
「Yelpのレビュー対象が食べ物だけじゃないという点が挙げられます。歯医者や配管工、自動車整備なんかのスモールビジネスもレビューの対象です。多くの人がYelpを食べ物のことだと思っているのは、それは食事というのが1日に3度あるからに過ぎません。実はレストランのレビューは全体の19%に過ぎず、23%はショッピング関連です」
以下のグラフがYelpが公開しているジャンル別レビューの比率だ。
「各地にコミュニティマネージャーがいるのも差別化です。アジアだと台湾、香港、シンガポール、マニラ、クアラルンプール、東京、大阪、京都、福岡などにコミュティマネージャーがいます」
Yelpは各地(各都市)にコミュニティを作ることでも知られている。世界170都市に170人ほどのコミュニティマネージャーがいるそうだ。コミュニティマネージャーは飲食店でミートアップを開き、ユーザー同士の交流を促す。ヘビーなYelpユーザーはYelperと呼ばれているが、さらにその上に「Yelpエリート」と呼ばれる「選ばれし者たち」がいる。このYelpエリートの選出は「Yelp評議会」と呼ぶ本社組織で決定されているが、素晴らしいレビューを書く人だという以外の基準は特に公開されていない。ちょっとした謎めき感があるところも、熱心にレビューを投稿するユーザーのエンゲージメントに一役買っているようだ。Yelpを使ってみると分かるが、フェアで熱のこもった長文のレビューが結構ある。
文化は違う、でも人間は国によって思うほど違わない
ぼくがMiriamに話を聞いていていちばんハッとしたのは、文化に違いはあっても、実は人間というのは、国や言葉が違ってもそんなに違わないというデータに基づいた知見だった。
「カナダが2番目に進出した市場でフィリピンが32番目です。この間、多くの国への進出にあたって、ぼくたちの国でYelpをやるのは難しいよと言われました。ドイツの人たちは、自分たちはすごくネガティブだから、レビューサイトをやってもネガティブなものばかりになるといい、逆にチリの人たちは、何でも褒めるようなポジティブさがあるという風に。私も最初はそうかもしれないと思っていたんですけど、実際には国を問わず、ほとんど同じでした」
ある店舗やサービスについて、「ほかの人にも推薦するか、しないか」という項目では、約7割の回答が「する」というポジティブなものだそうだが、この数字は国によらずほぼ同じなのだという。
これはちょっと驚きだ。かつてAirbnb共同創業者にインタビューしたときにも、ぼくは同じことを言われたことを思い出した。AirbnbのBrian Chesky CEOは、みんな自分たちの国は違う、自分たちの国への進出は難しいというんだけど、実際には何も変わらないと分かったのがAirbnbの国際展開における教訓だったという。これは、「われわれ日本(人)は違う」と言い過ぎていないだろうか、という反省を促すような知見だと思う。
多言語、多地域対応で有利に展開
創業11年、32カ国にわたって8300万件集まったYelp上のレビューは、機械翻訳ではあるものの16の言語に翻訳される。これはどういうことかというと、地元の人達のオススメ情報を、旅行者がダイレクトに見ることができるということだ。
「地元の人→旅行者」ということ以外にももう1つ、「いつものサービスを使って、初めて訪れる場所の情報が得られる」というダイレクトさもある。これは、Uberなんかを使うと良く分かるが、どこの国に行っても、いつものサービスが使えるということの手軽さはユーザー視点で見るときわめて大きい。3日間しか滞在しない国のために、その国で使うべきサービスが何かを調べてダウンロードするのか、と考えると良く分かる。国境を超えるような情報サービスを提供しようと思うとき、広くグローバルに展開しないと競争上不利になり得るサービスがある、ということだと思う。
Yelpの日本上陸から1年ちょっと。日本ではまだこれからという感もあるが、Yelpは間違いなくソーシャル時代のローカルビジネスのレビューサービスの雄だ。このYelpについて語るMiriam Warren氏のトークセッションを是非、TechCrunch Tokyo 2015に見に来てほしい。