タグ1行でサイトを要素ごとに編集・評価、「KARTE Blocks」クローズドβ版提供開始

顧客体験プラットフォーム「KARTE(カルテ)」を提供するプレイドは7月30日、新プロダクト「KARTE Blocks」クローズドβ版の提供を開始した。プレイド代表取締役CEOの倉橋健太氏は、新プロダクトについて「プレイドとして最初からずっとリリースしたかった、サイトそのものをより良くするプロダクト。ずっとアプローチしたかった領域に、念願叶って踏み出せた」と語る。

ノーコードでサイトを要素ごとに更新・評価できるKARTE Blocks

プレイドが2015年3月から提供するKARTEは、ウェブサイトやアプリを利用する顧客の行動をリアルタイムに解析。ユーザーを「データ」としてではなく「人」として可視化し、ポップアップやチャットなどで、それぞれに合ったコミュニケーションを提供するための顧客体験(Customer Experience:CX)プラットフォームだ。

KARTEが「ウェブ接客ツール」として打ち出され、サイト/アプリ上の「コミュニケーションレイヤー」を担うツールとして展開されてきたのに対し、新プロダクトのKARTE Blocksは「サイトそのもの」を扱うツールだ。

プロダクト開発を担当したプレイド Product Managerの棚橋寛文氏は、KARTE Blocksについて「サイトをブロックの集合体と捉えて、ブロックごとに整理・編集・更新・評価できる、今までにないサイトの『管理体験』を提供するもの」と説明する。

KARTE Blocksは、タグを1行追加するだけで、サイトのあらゆる構成要素をブロックとして分割。CMSで構築されたか、スクラッチで開発されたかを問わず、どんなサイトでもKARTE Blocksの管理画面からブロックごとの編集や、更新スケジュール設定、公開・非公開の設定ができる。また、閲覧数・クリック数・コンバージョン率など、ブロックごとのパフォーマンスの可視化も可能。プレイドではこのツールの概念を「BMS(Block Management System:ブロック管理システム)」と呼んでいる。

各ブロックの画像やテキストの編集・更新はコードの知識がなくても可能だ。また、HTML・CSS・Javascriptの心得があれば、より踏み込んだ編集・カスタマイズもできる。KARTEで得られた行動データをもとに、セグメントごとにブロックをパーソナライズして表示することも可能で、「来訪回数3回以上の人には、このブロックにこのメッセージと画像を表示する」といった出し分けも行える。また複数パターンでのA/Bテストも実施できる。

「コミュニケーションレイヤーを担ってきたKARTEに加え、サイト自体の体験も顧客に合わせて柔軟に変えていきたいという声は、以前からあった。そこに対して、どういう切り口で、どう価値提供していくか、社内でも試行錯誤した結果、KARTE Blocksが誕生した」(棚橋氏)

棚橋氏は「KARTE Blocksではコミュニケーションだけでなく、サイトという『場』、ECであれば『店』自体をより良くするもの」と述べ、「場とコミュニケーションとで総合的に、より良い顧客体験を提供するためのスタートラインに立てた」と語る。

「サイト上のコミュニケーション」から「サイトそのもの」のCX向上へ

KARTE Blocksを「念願のプロダクト」と呼ぶプレイド代表の倉橋氏は「KARTEの開発当初から、一番リリースしたかったのはサイトそのものをより良くするプロダクト。サイトを持つ全ての企業が取り組むことだから、本当は最初からやりたかった」と話す。

「KARTEはポップアップなどで表現されてきたように、サイトの“上”のコミュニケーションレイヤーで、既存の担当者のオペレーションを邪魔せずに、顧客体験向上につながる新しい価値を乗せていくという領域で事業をスタートした。パーソナライズ、解析基盤としては、かなりユニークなものを提供できている。これはプロダクトとしてバリューを出し、事業価値を証明するためにあえて選んだことだったのだが、今、ようやくサイトそのものの改善にかかわるプロダクトを出せる。今回のリリースは我々としてもうれしく、かなり気合いも入っています」(倉橋氏)

棚橋氏も「ウェブサイトの更新・評価は業種や規模によらず行われるもの。これをKARTE Blockによって、もっと簡単でシンプルにしたい」と述べている。ターゲットは「ウェブサイトを使う全ての企業・サービス」(棚橋氏)だ。

このため、小規模なサイト、会社でも導入しやすいよう、価格はPV数などサイトトラフィックに準じた設定を検討しているとのこと。今回のクローズドβ版は、既にKARTEを利用している企業に対し、提供企業数と期間を限定した上で無償提供されるが、KARTE Blocks正式版では月額数万円程度からの料金で、提供を予定しているという。

「KARTE Blocks」クローズドβ版先行導入企業の一部

「サイトそのものをどうマネジメントするか、サイトの体験をどう良くするかというところでは、あまりイノベーションが起きていない。CMSはあるけれども、根本からの新しい変化はなかったように思う。マーケティングオートメーション、カスタマージャーニーといった、周辺での変化は起きているが、サイトそのものの進化はなかなか起こせていない部分。できるかぎり、サイトにかかわる全ての企業、サービスで導入してほしい、使われてほしいプロダクトだ。小さなサイトでも導入しやすい構造は、KARTE以上に用意していきたい」(倉橋氏)

今後、KARTE Blocksで実現したいこととして、棚橋氏は「ブロックの集合がページ、ページの集合がサイトと考えて、サイト全体のパフォーマンス向上を分かりやすく可視化したい」と述べている。「加えてユーザーを人として見るというのがKARTEの思想。根幹は人軸にあるものとして、例えば未登録の人と初回、5回以上利用した人での行動の違いなどを、ブロックと人の両面から明らかにできるようにしたい」(棚橋氏)

また、現在はChrome拡張を使い、担当者がブロックを手動で定義しているのだが、タグを入れるだけで自動でブロックに分解し、管理画面に並べてパフォーマンスが確認できるような機能改善も目指す。「BMSによるサイト運営ナレッジの蓄積により、ベストプラクティスに簡単にアクセスできるような状況も、クライアントとともに実現していきたい」(棚橋氏)

倉橋氏は「BMSのコンセプトにより、ウェブサイト運営の課題に対応する、全てのパーツがそろった」と述べ、「KARTEが提供してきたアディショナルなマーケティングから、より日常的なマーケティング活動へ進化させるところへ、ようやく入ってきた」と話す。

「まずは、BMXの考え方の浸透に当面フォーカスするが、そこから、サイトのパーツのパフォーマンス、ユーザーへの寄り添い方などを、企業・サービスとともに考えていきたい」(倉橋氏)

KARTEの解析流通金額は年間1.55兆円まで拡大

プレイド代表取締役CEOの倉橋健太氏

プレイドでは2015年のKARTEに続き、アプリでもユーザー行動をリアルタイムに解析し、顧客体験を提供する「KARTE for App」をリリース。また、サイトのタグやアプリのSDKでリアルタイムにトラッキングした行動データに加えて、企業が保有する顧客データや商品データなどの静的データをKARTEに取り込み、リアルタイムデータと統合することで、さらなるデータの利活用を支援する「KARTE Datahub」も開発・提供している。

これまでは、これらのプロダクトの機能強化や認知拡大を進めてきたプレイド。Datahubを活用し、その人に合った商品をおすすめする「レコメンド機能」の提供や、KARTE for Appのメジャーアップデートなども実施した。また蓄積した膨大なデータを生かして、機械学習で企業のマーケティングなどを支援するデータ活用のための基盤を開発し、2019年8月のGoogle Cloud Nextで発表するといった活動も行っている。

現在、KARTEのクライアントの半数はEC領域。ほかに不動産や金融、人材、そしてB2B SaaSなどの領域で利用されている。EC領域での流通額は、KARTEで解析可能な範囲だけで年間1.55兆円に及ぶという。2019年の日本のネット通販市場は19兆円なので、そのうちの10%弱の金額に当たるユーザー行動が、KARTEで計測されていることになる。

「会員の属性データや購入データだけでなく、行動プロセスデータも集めているというところは、大手でもなかなかない」と倉橋氏。これだけのデータの量が確保できたことで、データを直接連携させなくても「傾向が見えるようになった」と話している。

「(機械学習では)大量にデータがなければいいアウトプットは期待できないが、ようやくいいアウトプットが提供できるようになってきた」(倉橋氏)

2019年11月にはGoogleからの資金調達も発表したプレイド。「今年後半からは、さらに事業連携を加速させていく」と倉橋氏は述べている。

プレイドはまた、2020年5月にはEmotion Techへの出資・提携を発表している。Emotion Techは、顧客体験の調査・分析クラウド「EmotionTech」、従業員体験の調査・分析クラウド「EmployeeTech」を提供する企業。倉橋氏は「Emotion Techには、CX、EX(Employee Experience:従業員体験)に関して、より高度なナレッジやリソースがある。プレイドだけでは対応しきれない、個々の企業・サービスへの具体的な運用については、こうしたパートナーとしっかりタッグを組んでいきたい」と語っている。

2020年は新型コロナウイルス感染症に世の中が翻弄されたが、プレイドも例外ではなく、クライアントの意思決定や予算確保の面では影響があったという。ただ「総論では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の機運が高まり、アフターコロナ/ウィズコロナ時代へ向け、企業の課題意識は未来を向いている」と倉橋氏はいう。

プレイドは、オンラインとオフラインをまたいで顧客への提案や価値提供を図るような取り組みも行っているが、倉橋氏はO2O/OMOへの新型コロナの影響について、次のように述べている。

「世の中の流れでいえば、今、オフラインの窓口や店に行くということが、一時的かもしれないが、希少性が高いものとなっている。店が予約制になっていたり、美術館がオンラインで受付をして人数制限をしたりということもあり、通常のオペレーションにデジタルが既に入ってきている。業界を問わず、ユーザー情報をオンライン・オフラインで閉じさせず、ユーザー軸でつなぐことで、シームレスな良い体験につながると思うので、今後O2O/OMOの話は確実に増えていくと見ている」(倉橋氏)

倉橋氏は「新型コロナにより、当初はリモートワークやSaaSといった仕事環境の面からDXが注目された。次に企業の目が向き始めているのがEX(従業員体験)だ。デジタル化が進むときに、人と人、人と企業のつながりをどう深めていくのか、これまでになかった課題感が生まれてきている」と話している。

そして「その先で、『事業として何のためにDXを進めるのか』というところで、CXという言葉にも目が向いてきた。CX向上とDX、つなげて考えなければ『基盤だけ刷新したけれども……』という話になってしまう」と語る。

「新型コロナにより、健全な課題感、問題意識へのシフトが起きていると実感している。中長期的には、我々のCXの領域でも市場が広がるだろうと考えている」(倉橋氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。