テクノロジーへの独占禁止の動きが米国から中国、韓国、インド、ヨーロッパまで勢いを増している

テック分野における何十年にもわたる拡大と統合を経て、独占禁止の動きは世界中の産業にとって重要な課題となっている。

過去10年間にはゆっくりとばらばらに進んできた動きだったが、この数週間で、該当産業に対する急速かつ包括的な行動としてまとまりつつある。これに対して、米国は世界的にも顕著な遅れをとっている。

この動きが最も顕著なのは中国だ。同国の競争当局が、長年続いたインターネット大企業への無干渉政策を突然かなぐり捨てて、同国の最も巨大なテック企業に対して抜本的な措置をとることを決定したのだ。

この動きは、中国の規制当局が11月初旬にAnt(アント)の記録破りのIPOを妨害することから始まった。Antは中国で最も重要なテック企業の1つであるとともに、3000億ドル(約31兆円)以上の評価額を視野に入れていたフィンテック企業で、中国人と華僑を中心に世界で13億人のアクティブユーザーを抱えている。

その規制措置は、Antの株式の33%を保有するAlibaba(アリババ)の、時価総額を即時に600億ドル(約6兆2000億円)下落させた(未訳記事)。

北京からの悪いニュースはテック業界全体に続いている。今週初め、市場規制当局は、貸出基準の厳格化などを含む、Antの「是正」計画を示したが、それらは同社の高い収益、利ざや、成長に深刻な影響を与えることが予想されている。米国時間12月29日のウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、中国政府がAlibaba創業者であるJack Ma(ジャック・マー)氏の、ビジネス帝国に対する影響力を具体的に「縮小」しようとしているとし、中国政府自身も同社の大規模な所有権を取得する可能性があると報じている。

さらに北京政府は、AlibabaとTencent(テンセント)が協業し、連動する2社のウェブの外部に、他のスタートアップたちが生息できる場所を作るように強制するように見える。2020年12月初め、当局はalibabaに僅かな金額の罰金を科し、また、Tencentによる買収案件を調査した(Bloomberg記事)が、その動きは、独占禁止法による介入の新しいラウンドの号令として、アナリストたちには受け止められていた。2021年にはさらなる動きが予想される。

だが、テック企業を服従させようとしているのは中国だけではない。ほぼ1年前、ドイツに拠点を置くDelivery Hero(デリバリー・ヒーロー)は、ソウルに拠点を置く人気フードデリバリーアプリのBaedal Minjok(ベーダル・ミンジョク)を40億ドル(約4133億円)で買収することを発表した。韓国時間12月29日、韓国の競争当局は、Delivery Heroに対し買収の承認のためには既存のローカルデリバリー資産を売却(The Financial Times記事)するよう命じた。この命令はそもそもBaedal Minjokを買収する理由の1つを損なう要求だ。Delivery Heroは、取引を完了させるために対象となる資産を売却する(Bloomberg記事)と述べている。

一方、今月には欧州とEUを離脱する英国は、違法コンテンツに対する法的責任の強化、サービスの透明性の拡大、主要プラットフォームでのオープンな競争の義務化など、テック分野での競争を強化するための新しい政策や規制が相次いで発表された(NYTimes記事)。こうした政策は、ずっと以前から進められてきていたが(未訳記事)、いまや力を持ち始め、旧大陸における最大規模のハイテク企業の運営方法に、大きな変化がもたらされる予兆が現れている。

世界的な政策の多くは、業界の統合や規模を元に戻そうとするものだが、インドでは、規制当局がそもそもそのような大規模化を防ぐために動いている。現地の競争当局は2020年11月に、現地での決済額の30%以上を扱う企業が出てこないようにする枠組み(Bloomberg記事)や、金融相互運用性の基準を義務づけることを発表した。この政策は、中国で見られるAlipay(アリペイ)とWeChat Pay(ウィーチャットペイ)のような、フィンテックの2社独占を避けるためにデザインされているように見える。

このような世界的な独占禁止活動が活発化している中で、後れを取っているのは実は米国だ。おそらく最大手のハイテク企業のすべてが、米国内に本社を置いているからだろう。議会、大統領、複数の州法務長官たちが、Amazon(アマゾン)、Google(グーグル)、Facebook(フェイスブック)のような企業の領分について、徐々に態度を厳しくして来ているが、巨人たちに対する動きは、まだほんの初期段階に留まっている。

これまでで、最大かつ最も注目すべき動きは、2020年12月初めに46州がFacebookを相手に起こした大規模な訴訟である。その当時私たちはこの訴訟のことをを、同社が成長し市場支配力を維持するために「競合他社を「違法」かつ「略奪的方法」によって買収したと主張している。顕著な例としてFacebookによるInstagramおよびWhatsAppの買収が挙げられている」と報じている。

もちろん、1990年代のMicrosoft(マイクロソフト)に対する米国政府の訴訟を覚えている人もいると思うが、独占禁止法の訴訟は、裁判所での審議に何年もかかることが多く、最終的に何か変更が行われてとして、大きな変化にはつながらないことが多い。

バイデン政権がこれらの動きを劇的に変えるかどうかは不明のままだが、2020年1月の就任に向けての移行準備のために、現時点では非常に限られた情報しか得られていない。

とはいえ、これらすべての独占禁止法に関わる動きは、それぞれこの数週間以内に世界中で同時に発生している。この動きは2021年におけるテック業界の大規模な規制闘争を予感させる。

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カテゴリー:その他
タグ:独占禁止法

画像クレジット:Aitor Diago / Getty Images

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(翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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