Damon Motorcycles(デーモン・モーターサイクルズ)は、オートバイメーカーのTesla(テスラ)になるつもりはない。しかし、その電動二輪車はテスラのオーナーの精神を最初に捉えるものだと、このスタートアップは考えている。2万4995ドル(約270万円)というDamonの新型バイクHypersport(ハイパースポート)がターゲットとする市場はそこにあると、Jay Giraud(ジェイ・ジロー)CEOは語る。
カナダのバンクーバーに本社を置くスタートアップであるDamon Motorcyclesは、12月に動画で予告していた電動バイクを、1月7日に米国ラスベガスで開催されているCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で披露した。
Damon Hypersportは、最高速度は時速200マイル(時速約320km)、高速走行距離200マイル(約320km)、トルクは147フィート重量ポンド(約199.3N·m=ニュートンメートル)、80%までの充電時間は20分、重量は500ポンド(約226.8kg)に満たないと、ジロー氏はTechCrunchに電話で伝えてくれた。この電動バイクはクラウドに接続され、デジタル乗車モデルを通して性能が管理される。その結果、停止状態から時速60マイル(時速約95.6km)に達するまでの時間は3秒を切る。
この性能だけをとっても、Hypersportは競争が激化しつつある電動バイク市場でひと際目立つ存在だが、それはDamonが提供するパッケージの一部に過ぎない。現在シードステージのこのメーカーには、オートバイの構造に共通する欠陥(と彼らが見ているもの)を克服するために開発した独自のデジタル安全技術がある。
「私たちは、安全性、操作性、快適性、そして現在のすべての電動バイクメーカーを含む、この業界の全員が訴えてきた問題に対処することで、業界を変革したいと考えています」と、ジロー氏は12月、TechCrunchに話していた。
その目的のためにDamonは、独自の技術的機能を搭載することで、Hypersportを、超高速のスマートで安全なバイクとして位置づけた。まず手始めに、同社独自のCoPilot(コパイロット)システムを搭載した。これは、センサー、レーダー、カメラを使い、死角を含むバイクの周囲で動くものを追跡し、ライダーに危険を知らせてくれる。
Damonはまた、オートバイのデザインにおける「全サイズ共通」という問題にも、調整可能な人間工学的システムをHypersportに導入し対処した。彼らのデビュー作となるこのバイクでは、ウインドスクリーン、シート、フットペグ、ハンドルバーの位置が、街中での体を起こした乗車姿勢から攻めの高速走行での姿勢まで、姿勢や状況に応じて電子的に位置を変えられる。DamonではHypersportの予約を受け付けているが、ディーラーは通さず、消費者へ直接販売しサービスを行うモデルを採用している。
同社は、電動バイクで混み合う様相を見せつつある、停滞した米国のオートバイ市場に参入する。米国自動二輪工業審議会の統計によれば、米国でのオートバイの新車販売台数は2008年のおよそ半数に落ち込み、40歳未満のオーナー数は激減しており、改善の傾向は見られていない。
若いライダーへの販売と興味を復活させるために、ハーレーダビッドソンは2019年、大型バイクメーカーとしては初めてとなる道交法上合法な電動バイクLiveWire(ライブワイヤー)の販売を米国で開始した。これが、ハーレーダビッドソンの電動バイク製品ラインの先駆けとなった。
ハーレーダビッドソンは、Alta Motors(アルタ・モータース)、Mission Motors(ミッション・モータース)、Brammo(ブラモ)など、いくつもの電動バイクのスタートアップが経営破綻した後、2019年に1万9000ドル(約200万円)という最高速度120マイル(約193km)のSR/FをデビューさせたZero(ゼロ)など、今も存続する電動バイクのベンチャー企業とともに市場参入した。
イタリアの高性能電動バイクメーカーであるEnergica(エネルジカ)は、米国でのマーケティングと販売を拡大しており、2020年にはカリフォルニアのLightning Motorcycles(ライトニング・モーターサイクルズ)が電動バイクの発売を開始し、仏米資本の企業Fuell(フュエル)が1万ドル(約108万円)で走行距離が約240kmというFllow(フロー)を発売する予定だ。
電動バイクメーカーの参入が目白押しの米国のオートバイ市場で、Damon Motorcyclesはどのようにスケールを拡大していくのだろうか。同社のCEOであるジロー氏は、飛び抜けた高性能と安全機能を融合させることで、Damonは競合他社に差を付けられると信じている。彼はまた、DamonのHypersportと計画中の後続モデルは、既存の、しかし電動バイクにはまだほとんど手を出していない市場セグメントに売り込めると考えている。つまりそれは、テスラのオーナーだ。
「彼らは電動ドライブというものをよく知っています。あの強烈な加速感とか。さらに彼らは、信じられないような性能のみならず、EVの安全性を保つ技術についても正しく認識しています」とジロー氏は語る。ジロー氏はカナダ人のDominique Kwong(ドミニク・クオン)氏とDamonを共同創設した。
だが、四輪のテスラのオーナーが、果たしてバイクを買うのだろうか?「もちろん買います」とジロー氏。「大変な数のテスラオーナーがバイクを所有しています。私たちのウェブサイトのフォームで興味ありと答えてくれた方のうち1700人が(テスラの)オーナーだと教えてくれました」
Damonは、ジロー氏が言うところのテスラ効果に期待している。「テスラを買ってからほぼ6カ月以内に人々は家やガレージの中で他に電動化すべきものを探すようになります。私たちが最初に追いかけるのは、そうした人たちです」とジロー氏は言う。
Damonが裕福な電気自動車の所有者たちに270万円で最高速度320kmの電動バイクを売り込めるのかは、時間と販売台数が教えてくれる。
さらに、その核心的なデザインがDamon効果を生み出すか否かにも注目したい。OEMや電動バイクのスタートアップに対する市場の期待が、高性能と高度なデジタル安全機能を備えたバイクへと変化していくかどうかだ。
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(翻訳:金井哲夫)