テレヘルス企業が医療をギグエコノミーのように扱う理由

著者紹介:Oliver Kharraz(オリバー・カラズ)博士は、対面またはバーチャルケアのためのデジタルヘルスケアマーケットプレイス、Zocdoc(ゾックドック)のCEO兼創設者である。

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テレヘルス(遠隔医療)が本格的に始動した。

パンデミックによって拍車がかかり、アメリカの多くの医師がオンラインによる診察を行うようになり、患者もまたインターネット上で医療に関するアドバイスを受けることに慣れ親しむようになった。テレヘルスのメリットがあまりにも明らかなため、専門家らはテレヘルスの定着化を確信している。Center for Medicare and Medicaid Servicesの管理者であるSeema Verma(シーマ・ベルマ)氏は、「コロナによる危機が我々を新たな領域に踏み込ませたのは確かですが、もうここから後戻りすることはないでしょう」と言う。

それではこれから、テレヘルスはどこへ向かうのか?パンデミックの中、非常に重要な役割を果たしてきたテレヘルスには今後も十分な伸び代があるが、まだ発展途中の初期段階にあるにすぎない。テレヘルスが持つ可能性を実際に実現するためには、まずテレヘルスの今日の提供方法に深刻な欠陥があるという事実を直視しなければならない。患者自身を危険にさらす可能性のある欠陥だ。

Teladoc(テラドック)のような従来の遠隔医療サービスは、遠隔医療がまだ珍しいものだった時代に構築されたもので、主にひどい風邪や厄介な発疹のような急性のニーズをサポートするために使用されていた。彼らが主に提供するのはランダムなトリアージケアのようなものだ。患者はオンラインにアクセスして順番を待ち、たまたま手のあいた最初の医師に診てもらう仕組みである。こういったサービスを提供する企業はバーチャル往診と称して売り出しているが、患者にとってはベルトコンベアの上で立ち往生しているように感じるかもしれない。患者はただシステムに身を任せる以外に選択肢がないということがあまりにも多い。

保険会社にとっては運営コストが安く済むため非常に好都合なビジネスモデルであるが、患者はコストを負担することになる。医師にとっては流れ作業のようなシステムだ。患者の生活環境を訊いたり関係を築いたりする貴重な時間に支払いが生じるわけではなく、次の患者に移らない限りより多くの報酬は得ることができず、医師は質の良いケアの提供によってではなく、患者の数をこなすことによって対価を得る仕組みである。

これは医療システムの理想的なあり方と相反するものであり、このモデルを強化していくというのは、遠隔医療の未来を築く上で大きな間違いと言えるだろう。医療は長い間、地域の医療提供者との継続的な関係を大切にすべきという考えを前提としてきた。個人の健康を全体的かつ長期的に見ることができ、時に困難でデリケートな医療問題を解決に導いてくれる信頼できる医療提供者が必要という考えである。

ランダムなトリアージモデルはこういった尊い絆を断ち切り、まるでUberの運転手とのような、礼儀正しくはあるものの、手短で取引的かつ非人間的な関係性に置き換えてしまう。しかし医療は決して、ギグエコノミーのようにして扱われるべきでない。

医師である私は、このモデルが拡大され続けるとどうなってしまうのかという懸念に悩まされている。1人の患者が医師から医師へと引き渡されるたびに、重要な情報が失われる可能性がある。このモデルでは、患者の基本的な体調、家庭状況、生活環境など、情報に基づいた治療を行うために重要な「無形のもの」を把握することができない。長期的データの欠如により、誤った診断につながってしまうこともある。これが、医療システムが長い間、患者の引き渡しを最小限に抑えるようにデザインされてきた理由であり、この誤りを増加させるような遠隔医療インフラを選択することが間違いである理由である。

それではどんなアプローチが正解なのか。

私たちは今、この国の医療システムと遠隔医療の統合時代の幕開けを迎えようとしているところであり、私は完全な答えを知っていると主張するつもりはない。しかし患者はランダムな医師たちよりも、自分自身の健康に関してはるかに優れた管理者であることは確かである。効果的な遠隔医療は、患者は決定権を与えてくれる。私たちが患者に選択肢を与えそれに耳を傾けるとき、患者は何を好むかを私たちに教えてくれるからである。

私の会社が収集したデータによると、かなりの割合の人々が自身で決定権を持ちたいと考えていることが明らかになっている。遠隔医療患者の10人中9人が、インターネット上で待機させられた後にランダムに指定された医師に会うのではなく、自分が選んだ医師と予約を取れるようにしたいと考えている。

こういった選択が患者に与えられた場合、ほとんどの患者(10人中7人)はバーチャル診察を予約する際に最寄りの医師に予約を入れている。患者は本能的に、いずれは医師と物理的に同じ部屋にいる必要があることを知っているからだ。そのため地元の医師を選ぶことで、前回のオンライン診断での会話を、次回の対面診断で引き続き継続することが可能になると患者自身分かっている。遠隔医療か、信頼できる医師との継続的な関係かの選択を迫られたくないと患者は感じている。もっともである。そんな選択は迫られるべきではない。

従来型の遠隔医療企業で、この必要性に焦点をあて取り組んでいる企業はいない。むしろこのパンデミック禍の中、トリアージモデルがまだ実行可能なうちに規模拡大を急いでいるのが現状だ。短期的に見れば、適切な時期に適切なサービスを提供してくれているという理由から、このモデルが市場から評価されるかもしれない。ただし長期的な価値は、患者の要望に耳を傾け、対応し、それを繰り返していくことからのみ得られるのである。

患者は、医療に関する選択肢を最も多く自分に持たせてくれるサービスを高く評価すると言われている。私もそこに賭けている。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:遠隔医療 コラム

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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