Autodeskが都市開発向けAIソフトウェア企業Spacemakerを2億4000万ドルで買収

エンジニアリング・設計業界を対象としたソフトウェアとサービスを提供する米国の上場企業、Autodesk(オートデスク)は、都市開発向けのAIベースソフトウェアを開発してきたノルウェーのスタートアップ、Spacemaker(スペースメーカー)を買収した。

買収価格は2億4000万ドル(約250億円)で、ほぼ全額現金払いの取引となる。 スペースメーカーに投資するベンチャーキャピタル(VC)には、2019年に同社への2500万ドル(約26億円)のシリーズAラウンドを共同で主導した欧州企業、Atomico(アトミコ)Northzone(ノースゾーン)が含まれている。 資本政策表に名を連ねるその他の投資家には、北欧に展開する不動産イノベーターNREP(エヌレップ)や同じく北欧の不動産開発業者OBOS(オボス)、英国の不動産テクノロジーファンドRound Hill Ventures(ラウンドヒルベンチャーズ)、ノルウェーのConstruct Venture(コンストラクトベンチャー)などがある。

Håvard Haukeland(ホーヴァート・ハウケラン)氏、Carl Christensen(カール・クレステンスン)氏、Anders Kvale(アナス・クヴァール)氏によって設立されたスペースメーカーは、ノルウェーのオスロを拠点としており、他にも世界各地に多くの支店を構えている。従業員は115名で、AIを利用したクラウドベースのソフトウェアを開発および販売し、建築家、都市計画者、不動産開発者がより多くの情報に基づいた設計上の決定を行えるよう支援している。デザイナーの肩越しに見るようにすることによって(CEOのハウケラン氏はよくこのように言う)、スペースメーカーのソフトウェアが目指しているは、人間の作業を強化し、都市開発の設計と計画のプロセスをスピードアップさせるだけでなく、出来上がった空間の持続可能性やそこに住むことになる人々や生活の質といった成果を向上させることである。

これを実現するために、ユーザーは同社のプラットフォームを使用することで、地形、地図、風、照明、交通、区画分けなどの設計基準やデータを考慮しながら、複数の設計案を簡単に「生成、最適化、反復」することができる。その後、スペースメーカーは、候補地の可能性を最大限に引き出すために最適化された設計案を提供する。

「2020年の初めには会社を売却する気などまったくありませんでした」とハウケラン氏は先週、電話でこう語った。 「しかし、以前から関係のあったオートデスクと話を始めてみると、同社が私たちと同じビジョンを持っていることがよくわかりました。さらに、この売却によって私たちのビジョンを強化できること、また実際に、そのビジョンをはるかに短期間で達成できることがわかりました。自分たちのビジョンを実現し、製品を世界に送り出して、何百万人もの建築家やエンジニア、開発者の手に届けること、それこそが私たちを動かすものであり、私たちの望むことなのです」。

金曜日午後遅くの電話でオートデスクのCEO兼社長であるAndrew Anagnost(アンドリュー・アナグノスト)氏は、スペースメーカーの買収が、クラウドの力、「安価なコンピューティング」、そして機械学習を利用して設計方法を変化させ、進化させていくという同社の長期的な戦略に沿ったものであると述べた。

「これは、最先端の機能を組み込んで社内で製品を開発する際にも、買収を検討している企業について検討する際にも、私たちが戦略的に取り組んできたことです」と同氏は語っている。

「これは私たちがしばらく注目していた分野でした。 スペースメーカーが構築したアプリケーションは、私たちが都市計画のための『ジェネレーティブデザイン』と呼んでいるもので、都市計画に適用するための設計案や設計案のテスト結果を機械が生成します。

「スペースメーカーは、クラウドコンピューティング、人工知能、データサイエンスを利用し、顧客が複数の設計案を検討して、より適切な決定を行えるよう支援するという点で、非常に際立っています」。

画像提供:スペースメーカー

買収後は、スペースメーカーをオートデスク内での独立した部門として維持し、これまでうまく機能していたように見えるやり方やスタートアップの理念に(願わくば)あまり干渉しないようにすると同時に、チームがミッションを継続するために必要なリソースを確保できるようにする計画だ。

「オートデスクはスペースメーカーをスペースメーカーとして維持したいと考えています。[単に]私たちの製品を獲得するのではなく、私たちが一つのチームとして進んでいく可能性と探求の道を獲得するのです」とハウケラン氏は述べている。「また、私たちが取り組んでいるミッション、私たちの仕事のやり方や持っている知識、途中で失敗した試みすべてを獲得します。単に製品を買収するということではないのです」。

そういった知識や「失敗した試み」というのは、建築家としてのスペースメーカーCEO自身の経歴だけでなく、プロダクトマーケットフィットへの過程やその技術自体にまで及ぶ。

「スペースメーカーは当初、建築家を直接ターゲットにしていましたが、建築家の予算は比較的少ないことに気づきました」と、ノースゾーンを代表してスタートアップのシリーズAラウンドを主導したMichiel Kotting(ミヒール・コッティング)氏は振り返る。「業界でのハウケラン氏の経験から、スペースメーカーはターゲットを[不動産]開発業者に変え、その開発業者がソフトウェアを社内外の建築家に提供するようにしました。 1プロジェクトあたり6桁の金額にもなる大きな案件を、始めてすぐに獲得できたことに驚いていました」。

また、コッティング氏によると、スペースメーカーはジェネレーティブデザインに将来性があることを早い段階で確信していたそうだ。「建築家が紙の上で行っていたようなことを単に実行するソフトウェアではなく、現代のコンピューティングの全機能を建築家が自由に使えるようになります」と同氏は語っている。「そこにたどり着くまでの道のりは、Deep Mind(ディープマインド)のAlphaGo(アルファ碁)プロジェクトに少し似ています。さまざまな技術、ML(機械学習)、AI、ルールベースの最適化などを組み合わせ、最大限の成果を生み出します。『最新のディープラーニングモデルをプロジェクトに投入してどうなるか見てみよう』というだけではないのです」。

「スペースメーカーは実際、オートデスクの顧客が解決したいと言っていた問題を、期待されるような方法で解決していました」とアナグノスト氏は述べている。「スペースメーカーは単に優れた発想と優れたテクノロジーを備えた卓越したチームであるというだけでなく、実際に問題を解決していたのです。 私はこのことが非常に重要だと考えています。 誰でも自分の好きなテクノロジーを使うことはできますが、まったく新しいビジネスチャンスや市場を創出するため、または既存の問題をまったく新しい革新的な方法で解決するためにそのテクノロジーを活用できなければ、本当に有用なものを作り出しているとは言えません。スペースメーカーは有用なものを作り出してきました」。

「スペースメーカーのシリーズAラウンドを主導してからまだ2年にもなりませんが、その時、世界をリードする製品と、建築や不動産開発にAIを適用することで可能性の限界を押し広げようとするDNAを持つ企業を目の当たりにしました」とアトミコのBen Blume(ベン・ブルーメ)氏は語っている。 「建築、エンジニアリング、建設(AEC)ソフトウェアの世界的リーダーであり、また業界全体の標準となる製品を提供するオートデスクによる買収は、世界トップクラスのAI製品がここヨーロッパで作られてきているという私たちの確信を証明するものです」。

画像提供:スペースメーカー

ノースゾーンのコッティング氏は、製品を繰り返し作り上げる中で、スペースメーカーは「『人参加型』の技術を磨いてきた」と述べている。「ジェネレーティブデザインが候補となる解空間を計算し、建築家がその空間を調べて興味深い出発点を見つけ出し、デザインの選択肢の影響を確認できます。ですから、美しく、目的にかなった最適なものを設計できます」。

また同氏は、建築家の才能と「最先端」のソフトウェアデザイナーの両方が備わっていなければ、スペースメーカーがこれを実現することは不可能だっただろうと考えている。 これは、ノルウェーで会社を設立することが有利に働いた可能性がある部分である。 「この面での適材がノルウェーに多くいることはあまり知られていないかもしれませんが、この国は、石油やガスの最適化という、スペースメーカーの場合と非常に似通った問題を慢性的に抱えてきました。それで、人材は実際に豊富なのです」とコッティング氏は付け加えている。

当時の課題は、ノルウェーで人材がいないことではなく、スタートアップで働くように優秀な人材を説得することであり、スペースメーカーの課題も同じだった。しかし、北欧文化全般で見ると、このような人材が強みであったとも言える。

ハウケラン氏はこう振り返っている。「初期の経験でわかったことは、こうした困難な問題を解決するという遠大な過程の途上では、解決しなければならない問題が次々に出てくるため、自主性を持って問題を解決できる非常に優秀な人材が必要だということです。 そして、4年前にノルウェーでは、本当に多くの優秀な人が石油やガス、またはコンサルティングに携わっていきました。 それによってわかったのは、多くの人は社会に貢献できるミッションに参加したいと心から思っていること、そして自分たちの能力と才能と頭脳を使って難しい問題を解決できるということでした。 そのおかげで、素晴らしい才能を持つ人たちを数多く当社に迎えることができたことは幸運でした」。

アナグノスト氏はまた、スペースメーカーの企業文化とそのヨーロッパ的視点を差別化要因として挙げている。「スペースメーカーはクラウドで最先端のアルゴリズムとアプローチを採用しているヨーロッパのハイテク企業ですが、その起点となっている倫理的枠組みは他の地域のスタートアップと比べてあまり一般的ではありません」と同氏は語っている。「何が差別化要因かと言われれば、それは同社が持ち込んだ倫理的枠組みだと思います。『このデータを使用してユーザーが毎日行っている仕事をより良いものにしていこう。それを顧客と協力して達成していこう。そして顧客だけではなくステークホルダーのエコシステム全体のためにも、より良い結果を生み出していこう』という考えです。そのステークホルダーには地域の環境も含まれます。テクノロジー企業のそういった理念は、米国市場よりもヨーロッパ市場で急速に広まりました。米国市場は『物事を切り開いて進もう』とすることに重きを置き、ここでの自分たちの倫理的基盤は何なのか、自分たちは何を達成しようとしているのか、ということについてはそれほど重視していないからです。

しかし、ヨーロッパでは現在、ユニコーン企業が注目を集めており、また10億ドル(約1040億円)以上の価値の企業を生み出した実績が増えてきていることから、スペースメーカーを売却するのは早すぎたのではないかという疑問が当然起こる。

しかし、「それはVC的な視点だと思います。この疑問はつまり、VCへのリターンが十分ではない段階で売ってしまって良いのかということだからです」とオートデスクのCEOは答えている。「スペースメーカーとその従業員が何を達成しようとしているかという視点から見れば、違った考え方ができます。米国資本を受け入れ続けることで評価額が上がるかもしれませんが、オートデスクの内部で密接に働くことで、これまで以上に多くのことを成し遂げることができます。VCへのリターンは小さくなるかもしれませんが、従業員は自分たちのビジョンに対する純利益がどれくらいかといったことは考えないでしょう。スペースメーカーの従業員と話をしたことがあれば、彼らが自分たちの仕事にとても情熱を持っていることがわかると思います」。

「スペースメーカーとの協力関係から早い段階で手を引くことは、私たちが望んだことではありません。しかし、私たちは最大の効果を短期間で実現したいという同じ熱意を抱いており、その過程で、オートデスクがスペースメーカー製品を自社の将来にとって非常に重要なものであると考えていることがわかりました」とコッティング氏は語っている。

一方、ハウケラン氏は、スペースメーカーが「構想のうちまだ5%」しか開発していないと語り、業界全体でも働き方の大きな変革が始まっていると述べている。 「何かを設計してそれがどう機能するかを確認するためだけにコンピューターを使うのではなく、ユーザーがコンピューターに手助けを依頼したり、コンピューターがユーザーの肩越しにアドバイスしてくれたりするようになると、本当に状況が変わってきます。 それは単なる新しい製品ということではなく、非常に根本的な変化となります。 何年もかけて業界を変えていくことになる大きな変化です」。

「私たちは今後もスペースメーカーに協力し、そういった製品を作り上げられるよう、働きかけていきます」とアナグノスト氏は述べている。「しかし、スペースメーカーとしても、自分たちの技術を発展させるための別の方法や、オートデスクのエコシステムの一部に自分たちの技術を関係させることができる別の分野を見つけることになるでしょう」。

関連記事:不動産業者向けバーチャル内覧用撮影ロボットのGiraffe360が4.7億円調達

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:不動産テック 資金調達

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。