ディープフェイク動画のiOSアプリ「Avatarify」が電子透かし提供へ

ディープフェイク動画の作成は昔は大仕事だった。今や必要なのはスマートフォンだけだ。クラウドにアップせず、スマホ内で直接ディープフェイク動画を作るアプリを提供するスタートアップであるAvatarifyは、David Beckham(デビッド・ベッカム)の妻、Victoria Beckham(ヴィクトリア・ベッカム)などのセレブに利用され、アプリチャートで急上昇中だ。

しかしディープフェイク動画に共通する問題点は動画がフェイクであることを簡単に判断できるような電子透かしが添付されないことだ。Avatarifyは悪用その他の好ましくない事態を防ぐための電子透かしを近く提供開始するという。

米国に本社があるが本拠はモスクワのスタートアップAvatarifyは、2020年7月に創立されて以後、数百万回もダウンロードされている。ファウンダーによれば、2021年に入って以降だけで1億4000万本のディープフェイク動画が作成されたという。TikTokでは現在、ハッシュタグ「#avatarify」が付けられた動画の再生回数が1億2500万回に達している。ライバルには、資金豊富なSnapchatをはじめRefaceやWombo.ai、Mug Life、Xpressionなどがある。ただしAvatarifyの外部資金調達はエンジェルラウンドのみだ。

ファウンダーによれば、エンジェルラウンドで得た資金はわずか12万ドル(約1300万円)に過ぎなかったが、その後はベンチャーキャピタルを受け入れておらず、スクラッチでスタートしてたちまち1000万ダウンロードを達成し、10人足らずのチームで通年換算1000万ドル(約10億8900万円)のビジネスに成長したという。

これほど安定したビジネスを作れた理由はわかりやすい。Avatarifyは7日間の無料トライアルというフリーミアムのサブスクリプションモデルを採用している。サブスクリプション料金は年間契約の場合34.99ドル(約3800円)、週決めは2.49ドル(約270円)だ。無料で利用を続けることもできるが、動画には目に見える透かしが入る。

Avatarifyは、フリーミアムのサブスクリプションモデルを採用してるだけでなくプライバシー保護にも適した仕組みだという。動画はハッキングその他によって情報がリークされるる可能性があるクラウドにアップされることなく、スマートフォン(iPhone)上でローカルで処理される。

Avatarifyは機械学習アルゴリズムなどを利用してユーザーが選択した写真を加工し、顔をアニメーションさせたり、サウンドと同期させたりしてショート動画を作成する。ユーザーは素材写真を選び、エフェクトや音楽を選択してタップするだけでよい。Avatarifyが自動的にアニメーションさせる。成果物はInstagramやTikTokにショート動画として投稿することができる。

特にTikTokではAvatarify動画が大人気だ。ティーンエージャーは自分でダンスしなくても有名人や友達はてはペットの写真を処理してアニメ化できるからだ。苦労して自分が下手なダンスを披露するよりずっとクリエイティブなアイデアが利用できるわけだ。

Avartifyは「このアプリを使って他人になりすますような悪用をしてはならない」と警告しているが、もちろんこれを効果的に禁圧する方法はない。

共同ファウンダーのAli Aliev(アリ・アリエフ)氏とKarim Iskakov(カリム・イシャコフ)氏は、2020年4月に新型コロナウイルスによるロックダウンが強制されたときにこのアプリを開発したという。アリエフ氏はPythonでプログラムを書くのに2時間しかかからなかったという。これはZoomのフィルターを使って自分の顔の表情を別の顔にマッピングするものだった。その結果フェイクビデオをリアルタイムでZoomにストリーミングすることができるようになった。アリエフ氏はElon Mask(イーロン・マスク)氏の顔のアバターで通話に登場し、その場にいた全員が仰天したという。チームがこの動画を投稿したこころバイラルに拡散した。

ファンダーがこのコードをGithubに掲載するとすぐにダウンロード数が伸び始めたという。2020年4月6日にリポジトリを公開し、2021年3月19日時点で5万回のダウンロードを記録した。

アリエフ氏はSamsun AIセンターでの仕事を辞めアプリの開発に専念した。2020年6月28日にAvatarifyのiOSアプリが公開されるとTikTokのバイラル動画で拡散され、有償販売開始前だったにもかかわらずApp Storeのトップチャートにランクインした。2021年2月には、Avatarifyは世界の無料アプリのランキングで1位になった。2021年2月から3月までの期間では月間収益が100万ドル(約1億1000万円)を超えた(AppMagicより)

こうした成功にも関わらずAvartifyもディープフェイクビデオが持つ根本的な問題からの逃れることができていない。つまり無断で他人の顔写真を利用してポルノ動画を作成するなどディープフェイク動画の悪用問題は依然として残っている。電子透かしの提供は正しい方向への一歩だろう。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Avatarifyディープフェイクアプリ電子透かし

画像クレジット:Avatarify

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(文:Mike Butcher、翻訳:滑川海彦@Facebook

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TechCrunch Japan

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