デバッグやテストをAIで自動化―HEROZが2億円を調達してハーツユナイテッドと提携

AI将棋「将棋ウォーズ」などを開発するHEROZが、今度はソフトウェア開発をAIで効率化する取り組みを始める。HEROZはハーツユナイテッドグループと資本業務提携を結び、ゲーム開発や、ウェブを含むエンタープライズ開発におけるテストの自動化を推し進める計画だ。同時にコーエーテクモゲームスとも資本業務提携を結び、2社合計で総額約2億円の第三者割当増資による資金調達を実施した

ウェブサイトを解析して、外部から自動でテスト

もともとソフトウェアの動作を試す「テスト」というのは、人力でやるケースと、機械的に自動化するケースがある。後者は「自動テスト」と呼ばれ、きちんとしたソフトウェア開発の現場では、必ずテストコードを書くことになっている。例えば「足し算機能」があったとき、「1+1=2」「3+1=4」「100+5621=5721」などと入力と出力のペアを列挙しておき、左側をプログラムに渡して右側の回答と一致するかを確認することで動作が正しいことを検証する。もっと複雑な機能や複数機能が組み合わさった場合でも、なるべく多くのテストケースを用意したり、架空のユーザーやデータを用意して動作を確認しながら開発を進めることになる。ユーザーが取るであろうアクションを事前にプログラムにしておいて、これを実行することでバグを発見することができる。

テストコードがあるソフトウェア開発の現場は幸福だ。

テストがあれば何か変更を加えたときに別の部分が壊れた、ということがすぐに分かる。開発プロジェクトに途中から参加した人が付け加えた変更によってウッカリ別の機能を壊したとしても、すぐにそれを発見できるし、常に一定の品質保証ができる。ただ、テストコードを書くのは、それはそれでまた別の労力がかかるため、どの程度の量のテストコードを書くのか、どう書くのか、というは何冊もの本になるぐらい議論があるところ。最初からテストコードを書いたほうが結局トータルではコストが下がって品質も高いという考えがエンジニアの支持を集める一方で、納期に追われる現場では目をつぶってテストコードなしで突っ走るケースもあったりするのが現実だ。

自動テストのコードがない場合、人間がプログラムを実際に動かし、あちこちをクリック(タップ)して動作を検証することになる。人間がやる場合、スプレッドシートにチェック項目を何十も並べ立ててやったり、ただ適当に使ってみる2つのアプローチがある。前者は労働集約型の生産性の低い作業になりがちという問題があるし、後者は抜けや漏れが起こるという問題がある。ユーザーというのはソフトウェアを作った側の想像をやすやすと超える使い方をするものだ。その結果、出荷したアプリがクラッシュしたり謎の動作結果となる、ということになる。

ハーツユナイテッドは2013年創業の東証一部上場企業で、テストやデバッグを主幹業務としている。2017年3月期の売上高は154億円で、このうち約8割がデバッグ関連だ。デバッグの対象はゲーム(コンシューマー/オンライン/アーケード)、モバイルやウェブの業務システム、家電や自動車、サイバーセキュリティー、パチンコ・パチスロなど多岐にわたる。

今回のHEROZとの事業提携の狙いは、すでに行っているこのデバッグ事業において、AIを適用して自動化を推し進めるところにある。AIといえば、パターン認識と、その逆の生成系の利用が目覚ましい成果を挙げているわけだが、漏れなくテストケースを生成するといった用途には有効ではないか、ということだ。

「エンタープライズ」と呼ばれる領域はコンシューマー向けサービスに比べて相対的にユーザー数が少なく、いきおいテストに工数を割けないこともある。特にバグっても人が死んだりお金が消えたりしないところは全般に品質が低め、というのは日々業務システム相手にイラッと来ている読者の皆さんもピンと来ることだろう。実は先に述べた「自動テスト」すらやっていないことが多いのだ。

ハーツユナイテッドではVRやIoTといったジャンルでも今後デバッグ事業の業容を拡大していくというが、直近では「HEROZ Kishin Testing」と名付けたツールを開発。ユーザー登録フォームに対するテストケースの自動生成とテスト実行を自動化する試みを始めている。

ゲームの「バランスブレイカー」を発見してルールを検証

コーエーテクモゲームズは「信長の野望」「三國志」などの戦略ゲームのタイトルで知られるが、ここでも今後、HEROZが将棋AIなどで培ったAIの技術を採り入れていくという。もともと戦略シミュレーションは簡単なAIが組み込まれているが、より高度なAIを入れていくことでコンピューターがプレイする戦国武将に異なる性格をもたせたり、人間と互角に戦えるレベルにしていくとができるだろうという。

もう1つ、ゲームとAIの関係でいうと「バランスブレーカー」と呼ばれる一種の「抜け」を発見することにもAIが適用できるのではないかと期待しているという。ルールに矛盾や穴があると、ある特定の戦略で楽勝できてしまう。そういう設計上のミスをこれまで人間がつぶしていた。HEROZ代表取締役の高橋知裕氏によれば、こうしたゲームルールというのは代々人間が継承しつつ、今も紙の上に書き下しているそうだ。ルールの抜けをコンピューターが調べられるようになれば、今後生み出されるゲームの多様性が増すと期待できる。

HEROZは2009年4月創業で、創業時にBIGLOBEキャピタルなどから1億円の資金調達をしたあと、自社開発ゲームで収益を上げてきた。2016年1月には金融領域へAIを適用するということで、一二三(ひふみ)インキュベートファンドから1億円を追加で資金調達。2016年12月にはゲーム領域でのAI適用でバンダイナムコエンターテイメントとの資本業務提携も発表している。

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TechCrunch Japan

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