トランプ大統領、マクマスター陸軍中将を安全保障補佐官に―未来志向の学者肌だが大のスライド嫌い

2017-02-22-national-security-advisor-mcmaster

マイケル・フリンの突然の失脚から1週間後、トランプ大統領は新しい国家安全保障担当補佐官を任命した。大統領は各方面との関係修復を図るつもりなのか、新補佐官は、少なくとも前任者よりも多くの人々に受け入れられそうだ。

ハーバート・マクマスター陸軍中将は戦士にして学者とももっとも珍しい種類の軍人とも評されてきた。セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と会談していたことに非難が高まる中で辞任したフリンが断固たる信念のタイプだったのに対してマクマスターは正反対だ。

マクマスターはよく「軍を代表するフューチャリスト」と呼ばれるが、テクノロジーに対する態度は複雑で、単純な擁護者ではない。マクマスターはテクノロジーが戦争さえ解決するという「テクノロジー万能の傲慢」に陥ることを強く批判する。マクマスターは2013年のニューヨークタイムの意見コラム(op-ed)欄に「テクノロジーによって迅速、安価に勝利をもたらすことができるから戦争をその政治的本質から分離できるというコンセプトは強く疑うべきだ」と書いている。この記事、The Pipe Dream of Easy War〔安楽椅子の戦争〕では次のように続く。

アフガニスタンやイラクの戦争はリモコンで操作することはできない。予算削減の圧力とテクノロジーの魅惑は一部に「われわれが知っていた戦争は終わりを告げた」という主張を呼び起こしている。先進テクノロジーは戦争に勝つための不可欠の要素ではあるが、テクノロジーを賞賛するあまり、精密攻撃であるとか外科手術的作戦であるとかテクノロジーによって敵を局限できるという幻想は軍事の本質を混乱させ、より大きな戦争目的の達成を妨害するものだ。

テクノロジーに対する深い考察はマクマスターの著書、Dereliction of Duty〔責任の放棄〕という議論を巻き起こしたものの全体として高い評価を受けた本にも反映されている。この本は ベトナム戦争の拡大に関して当時のアメリカ指導部、特にジョンソン大統領、マクナマラ国防長官、統合参謀本部の責任を分析している。マクマスターのこうしたアカデミックな気質は前任者のフリンと鋭い対象をなしている。フリンはイデオロギー的であり、反イスラム過激派感情が強すぎると批判されていた。

陸軍の改革に関して、 2015年4月のシンポジウムでマクマスターは軍事テクノロジーに依存しすぎることから生ずる危険について講演した。「われわれが直面することになる最大のリスクは、必ず長引くことになるという戦争の本質に矛盾するコンセプトの拡大だ。戦争の複雑な本質を単純化して将来の戦争を攻撃対象を選択する演習のようなものにしてしまおうという動きをわれわれは目撃している。次世代テクノロジーは次の戦争をこれまでの戦争と本質的に異なるものにしてくれるに違いないという考え方だ。

その数ヶ月後、ロンドンにおける防衛問題のカンファレンスでマクマスターはテクノロジーの進歩は伝統的なマンパワーを代替するものではないと述べている。派手な新しいテクノロジーは短期的なメリットしかもたらさないとして次のように強く警告した。「将来の戦争では[次世代テクノロジーが]決定的役割を果たすというのは幻想にすぎない。…テクノロジーはわれわれが敵に優越する要因のごく一部だ。しかもテクノロジーは敵もわれわれと同様に使いこなすことになる可能性がもっとも高い要因だ」

マクマスターはもちろんテクノロジー恐怖症ではない。しかし楽観的なテクノロジー万能論をを強く拒否する。マクマスターは「将来の戦争からその政治的本質、人間性、不確実性、勝利への決意を切り離そうとすることは間違いだ」という。

もう一つ興味深いのはマクマスターが心底PowerPointを嫌っていることだ。 「PowerPointは〕状況を理解しコントロールしているというありもしない幻想を作り出すので危険だ」とマクマスターはニューヨーク・タイムズで述べている。「ある種の問題はブレット印を打ってリスト化できはしない」というのはトランプ大統領にも念を押しておいてもらいたい。

トランプ政権でマクマスターがどういう役割を果たすことになるのかを知るにはまだ時間がかかるだろう。トランプの最側近サークルというよりその外側のサークルの一員に落ち着くのかもしれない。しかしマクマスターが著書でも示したような安全保障問題に関する国家の指導部の責任を厳しくチェックする態度は今後とも重要なものとなるだろう。

元アメリカ陸軍将校であり中東専門家のアンドルー・エクサムはAtlanticに次のように書いている。

マクマスターの著書で特に注目すべき点は、ケネディー、ジョンソン政権における国家安全保障政策の決定がきわめてずさんに行われていたという指摘だ。この傾向は特にケネディー政権で顕著であり、政策決定は大統領側近のごく少数のグループに委ねられていた。ここでは本来大統領を補佐すべき堅牢な政策チェックの過程が失われていた。

マクマスターのようなアメリカ軍を代表する思想家にとって、外部の意見に耳を傾けず側近政治に傾斜する大統領は批判の対象になるはずだ。トランプがマクマスターの考えを受け入れるか、それとも多くの共和党人脈の有力者同様、高い地位に就けて塩漬け状態にしてしまうのかは今後を見守る必要がある。

どういう役割を果たすことになるにせよ、ジェームズ・マティス国防長官、ジョン・ケリー国土安全保障長官、そしてハーバート・マクマスター大統領安全保障担当補佐官といういずれも尊敬される軍人だった3人が新政権の安全保障政策を形づくることになる。

画像: National Infantry Museum/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

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TechCrunch Japan

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