トランプ大統領の移民規制はこれからの米国企業、労働者に悪影響を及ぼす

私は移民だ。20年前にインドから米国にやって来た。以来、博士号を取得し、2つの会社を立ち上げて100人近くの雇用を生み出した。1つめの事業はGoogle(グーグル)に売却し、投資家に10倍超のリターンを還元した。

これまでアメリカンドリームの中で生きることができ、感謝している。光栄なことに米国市民になり、他の人に益をもたらしてきた。しかし問題がある。私はまさしく、トランプ大統領が追加した移民制限(Business Insider記事)の対象となるような種の人間なのだ。追加の移民規制では、まず米国民に就労機会を提供することを米国企業に求め、H-1Bビザに応募できる資格を狭めている。移民の流入を抑制するためのものだ。

多国籍企業が活用するLビザ、一部の学生が使うJビザとともに、H-1Bビザ応募の資格を厳しくする中で、トランプ政権は経済成長への扉を閉ざしつつある。H-1Bビザスキルワーカープログラムが雇用を生み出し、米国の大学を卒業した人の収入を増やしていることは多くの調査で示されている。実際、もしH-1Bビザの発行を一時停止するのではなく増やしていたら、130万人の新規雇用を生み(American Immigration Councilレポート)、2045年までにGDPを1580億ドル(約16兆6000億円)を押し上げていた、と経済学者は指摘する。

私のような人間を移住できないようにすることは、短期的には必要な人材を確保するのにすでに苦戦しているテック企業にカオスをもたらす。これは経済成長を鈍化させ、イノベーションの息を止め、雇用の創出を減らすことにつながる。移民を歓迎しない国にすることで、トランプ大統領令は世界で最も優秀な若い人を引きつけてとどまらせるという米国企業の能力に大きな打撃を与える。

私の話を参考にして欲しい。私はインドのMITとして知られるインド工科大学(IIT)で電気工学の学位を取った後に米国にやって来た。私がIITに入学した年は、わずか1万の募集枠に対し、数十万人の出願があった。MITよりもIITの方が入学競争は激しい。4年後に私は卒業し、周囲にいた成績優秀な仲間の多くとともに米国で学問を続けることに決めた。

それから、教育を継続し幸運を求めて米国に渡った優秀なインド青年に与えられる道を歩んだ。我々の多くが米国をテクノロジーイノベーションの頂点、そして真に実力主義の国だととらえていた。つまり、移民に正当なチャンスが与えられ、ハードワークが報われ、才能ある若い人が未来を築ける国だと考えていた。

私は10の大学から入学を許可され、トップクラスのコンピューターサイエンスプログラムを提供していたイリノイ大学で博士号のコースを履修することに決めた。すでに博士課程を終えていた学生として、私はコンピューターチップがオーバーヒートしないようにする新しい方法を開発した。いまでは世界中のサーバー企業で使われているものだ。その後、自身のテック企業を興す前にMcKinsey(マッキンゼー)でしばらく働いた。私が興した会社はAppurifyというアプリをテストするプラットフォームで、後にグーグルが買収して自社のクラウドサービスに統合した。

私はグーグルで何年か過ごしたのち、ゼロから何かを始めることが恋しくなり、2016年にatSpokeを立ち上げた。ITやHRのサポートを合理化するAIで作動する発券業務プラットフォームだ。2800万ドル(約30億円)を調達し、60人を雇用した。そしてClouderaやDraftKings、Mapboxといった企業がより効率的な職場を構築し、リモートワークへの移行を管理できるのをサポートした。

私のようなストーリは珍しいものではない。新しい国に移住することは楽観、野心、リスクの許容をともなう。これらすべての要因は多くの移民が自分で新たな事業を始める方向へと向かわせる。移民は、米国で生まれ育った人の2倍の割合で事業を興す。2016年の新規企業の約30%、米国のユニコーンスタートアップの半分以上が移民によるものだ。Procter & Gamble、AT&T、グーグル、アップルそしてBank of Americaなど現在ではアイコン的な存在の米国のブランドの多くが移民、もしくは移民の子供によって創業された。

米国が才能ある若者、特に重要なテクニカルスキルを持っている若者が選ぶ目的地であることは当然だと思う。しかし永遠に続くものはない。20年前に私が米国に到着して以来、インドのテックシーンは興隆を迎え、子供たちはインドを後にしなくても随分と簡単にチャンスを見つけることができるようになった。中国、カナダ、オーストラリア、欧州もまた若い移民が才能やスキル、往々にして米国で受けた教育を持ち込みやすくし、自国の労働力に加わってもらったり、事業を興してもらったりするためにグローバルの人材獲得競争を展開している。

雇用ベースのビザプログラム、短期的なものすら終わりにするのは、米国の経済が真に必要としているイノベーションと起業家精神を締め出すものだ。さらに悪いことに、そうすることで世界で最も優秀な若い人にアメリカンドリームを信じさせ、チャンス探しに駆り立てるのを難しくしている。トランプ大統領令の真のレガシー(遺産)は、米国の企業が今後数年間のうちにグローバル人材獲得で競争を展開するのを困難にすることだろう。それは究極的には雇用創出を阻み、経済を後退させ、米国の労働者が打撃を受ける。

【編集部注】著者であるJay Srinivasan(ジェイ・スリニバサン)氏はatSpokeの共同創業者でCEOだ。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:atSpokeアメリカ

画像クレジット:Cavan Images / Getty Images

原文へ

(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。