ドリコム、学生向けインキュベーション開始でエコシステム作りへ

ドリコムが学生を対象にしたインキュベーションプログラム「Startup Boarding Gate」を開始する。8月2日のキックオフイベントを前に、現在参加者を募集中だ。

Startup Boarding Gateでは、1チーム2〜3人の学生を5〜10チーム応募者から選抜し、各チームを法人化した上で約5カ月の期間内にサービスの実装までを進める。

開発資金として1チームに100万円を提供する。またドリコムの社員、役員がメンターとなって指導をするほか、業務スペースや起業家・スペシャリストとのマッチングの場を用意する。プログラム終了時にはデモデイを開催して、投資家への紹介の場を設ける。大規模なトラフィックを日々さばいている人々の生のアドバイスを受けられるというのは、事業会社のプログラムならではではないだろうか。

事業会社が学生に限定してプログラムを行うということで、起業志向の強い学生を採用するためのプログラムではないかとも思ったのだけれども、ドリコム代表取締役の内藤裕紀氏はそういった点にはこだわらず、「将来的には学生特化のY Combinatorのような存在になりたい」と大きな目標を語る。

プログラムの参加者のサービスが成功した際、失敗した際についての具体的なスキームは聞けなかったが、プログラム終了後の活動には厳密な制限は設けないそうだ(ただし、資金提供にあわせて数パーセントの株式はドリコムが持つことになる。事業の継続が難しくなった場合などの扱いが気になるところ)。法人での参加も可能だが、「創業メンバー以外の株主がいない」といった条件が付く。プログラム自体は、将来的には年2回ペースで開催したいとしている。

エコシステムまでを作りたい

ドリコムはちょっと変わった新卒採用を実施したことがある。2013年度新卒に向けて、入社後すぐに子会社を設立して新事業を展開するという「スタートアップ ボーディング」というものをやっていた。ここから立ち上がった会社のアプリは、実数は非公開ながら好調にダウンロードされているらしい。

こういった背景もあって、内藤氏は「新卒でも学生でも、立場は関係なく優秀な人材はいる。学生で、生活費以外のお金があればそれほど大きなリスクなくサービス立ち上げに挑戦できるのではないか。世の中はゲームに目を向けているが、もっともっと新しいモノが生まれる。『ちょっとやんちゃだけれども、やってみたらいいんじゃない?』と応援できる学生に来て欲しい」と期待を語る。そもそもドリコム自体、もとをたどれば京都大学発の学生ベンチャーだ。

もちろん、ドリコムとしても優秀な学生が立ち上げるスタートアップとの接点を持ちたいという意図もあるのだろう。内藤氏は「これまでドリコムという組織単体でサービスを考えていたが、ここ3年くらい掛けて、提携や子会社の設立によって、緩い関わり、強い関わりを問わず、周囲と関係性を築いてビジネスをするようになってきた」と語っている。ちなみに前述のスタートアップボーディング以外にも、四半期に1回開催する新規ビジネスの社内公募制度を通じて子会社が生まれているそうだ。

ではなぜこういった取り組みを始めたのだろうか? 内藤氏は、ベンチャー投資が活発になる一方で学生に投資できるVCが少ないこと、そして自身が大きな病気にかかったことがきっかけになっていると語る。

内藤氏は、3年前の2011年にギラン・バレー症候群という病気で入院している(内藤氏のブログ)。この病気は体の自由がきかなくなるため、数週間の安静が必要だったそうだ。仕事も一切できない中で「もし自分が居なくなっても回るような、再現性のあるエコシステムとは何か、新しいモノを生み出す仕組みとは何か」と考え、自社だけで事業に取り組むという方向性を少しずつ変えるようになったのだという。

ドリコムの決算を見てみると、2014年3月期は売上高69億8900万円、営業利益で5億300万円の赤字という状況。売上は現状ゲームが中心になっているが、今回の取り組みを含めてさまざまな形で新しい事業を模索しているようにも見える。このプログラムからどんな学生起業家がデビューするのか楽しみにしたい。


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TechCrunch Japan

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