ニュースアカウントを開放したLINE、狙うはポータルとソーシャルで断片・量産化したコンテンツの再編

「当初はいろいろ試行錯誤していた。ニュースを求めている人であっても、わざわざアプリを入れるような人は少数派ではないのだろうか」——LINE NEWSを担当するLINE執行役員の島村武志氏はこう振り返る。

同社は12月1日、LINE NEWSのプラットフォームを開放し、外部メディアがLINE公式アカウントで自社のニュースを配信できる「アカウントメディアプラットフォーム」を発表した。現在はMAU(月間アクティブユーザー)1200万人、友だち登録者数1500万人を誇るLINE NEWSも、順風満帆なスタートとはいかなかったそうだ。

LINE執行役員の島村武志氏

LINE執行役員の島村武志氏

LINE NEWSはアプリ主体からプッシュ主体に

SmartNews、グノシーなど、次々にニュースアプリが生まれる中でアプリとしてスタートしたLINE NEWS。MAU300万人程度までは成長したが、ユーザー数は伸び悩んだ。そこで島村氏は冒頭のコメントのように、「気軽にニュースを見てもらうこと」イコール「アプリを見てもらう」ではないのではないかと考えるようになっていったという。

その仮説を確かめるべく、2014年4月にはLINEの公式アカウントを友だち登録しているユーザー向けに1日3回ダイジェストニュースをプッシュ配信する「LINE NEWS DIGEST」を開始。これで状況は大きく変化する。

友だち登録者は330万人から1000万人にまで増加。MAUも600万人を超えた。「自分たちしかできないことがうまくできた。スマホでは能動的にアプリを立ち上げてニュースを見るのではなく、プッシュしてあげる。一覧からニュースを検索して読むのではなく、(最初からダイジェストを表示して)0クリックでも読めればいいと分かった」(島村氏)

その後2015年4月には旅行をテーマにした「なにここ行きたい!」話題のレシピを紹介する「これは使えるレシピ」(約63万件)など20以上のテーマの情報を受信できる「LINE NEWSマガジン」をスタート。スタンプ配布キャンペーンなどの効果もあるが、マガジンは1カ月で累計登録数636万件を達成。友だち登録数は1500万人、MAUは1200万人となった。

LINE NEWSのMAU・友だち登録者数の推移

LINE NEWSのMAU・友だち登録者数の推移

「LINE NEWSマガジンは、これまで1つだったニュースの選択肢を複数にした」——島村氏は語る。LINE NEWSは「やさしいニュース」というテーマを掲げ、ですます調のテキストや簡潔な解説に努めている。しかしそんなニュースは万人向けのものではなく、あくまでライトにニュースを読みたい層に向けた情報になりがちだ。そのためマガジンのような「テーマ」でニュースを届けることで、新しい価値作りにチャレンジしたという。

「この経験を生かして、自分たちがどういうことをすべきか考えた」(島村氏)。今まではたとえマガジンで選択肢を増やしたとしても、あくまでLINEの中にある編集部の情報だった。それを開放する第一歩が今回のアカウントメディアプラットフォームの取り組みだという。

ポータルとソーシャルで断片化・偏重するネットニュース

島村氏は発表会でも語っていたのだけれども、今ネットにあるニュースは、ポータルサイトとソーシャルメディアによって断片化、量産化され、非ブランドなものになりがちなのだという。

Yahoo!ニュースに代表されるポータルサイト上のニュースは、掲載記事をポータルサイトの編集部が選ぶ。そのため、記事提供元であるメディアとしては、ブランドを作りづらい。LINEの中にもlivedoorニュースのようなポータルがあるが、「自社を批判することになるが、構造としては同じ」と言う。

またソーシャルメディアによって、ニュースとの接触機会はさらに増えたが、その中では友だちの食べたごはんの写真と国際的な大事件が並列に並んで見える。さらに言えば友だちが面白いと思うコンテンツに偏重してしまうと島村氏は指摘する。

島村氏が語ったポータルとソーシャルによるコンテンツの断片化

島村氏が考えるポータルとソーシャルによるコンテンツの断片化・量産化の現状

メディアとともにプラットフォームを作る

LINE NEWSだってポータルサイトと同じようにさまざまなメディアがコンテンツを掲載するワケだが、掲載するコンテンツはメディア側でダイジェストニュースを編集できるし、そもそも各メディアのアカウントで配信する。これによってメディアのブランド化が促されると期待する。また各メディアのダイジェストニュースには広告を掲載するが、広告収入は50:50でLINEとメディアがシェアするという。

島村氏はLINE NEWSが開けたプラットフォームであり、あくまで各メディアのファン獲得の入り口として価値を生むと主張する。「何もかもダイジェストニュースにして、『ファストフード』にしたくはない。しかし、メディアに関心を持ってもらわないことには始まらない。本当に重要なのはその先にある深いレポートだが、最初からそれを見てもらえる訳ではない。LINE NEWSのプラットフォームをメディアの皆さんと作りたい」

「アカウントを持って、自分たちの記事を自分たちの意図で集めて出せる、完全なオウンドメディアというところをめざす。ニュースアプリやほかのポータルとメディアとの関係は寄生関係かも知れないが、LINEでは集客も広告もシェアしていく。ほかの記事の合間に自分たちの記事がでるわけではない。あとはどれくらい自分たちのファンを集めて頑張れるかどうか」(島村氏)

参画メディアとしての期待と不安

僕らも彼らのプラットフォームに参画するので、その立場で感じたことも書いておこう。実際に入稿フローなどを聞くと、LINE NEWSに掲載するためのレイアウトやタイトル付けなど、各メディアの編集部には結構な負荷がかかりそうなのだ。

もちろん新しいプラットフォームを利用するためと考えれば、その作業はトレードオフなのだろうが、発表会の第2部のトークセッションに登壇した日本版BuzzFeed創刊編集長の古田大輔氏もこの点を指摘していたし、同じくトークセッションに登壇したNewsPicks編集長の佐々木紀彦氏がモバイル向けのインターフェースを評価した上で、「(インターフェースがいいだけに、元サイトへの)リンクバックがないのではないか」と語っていた。発表会に参加した人間のほとんどはメディア関係者なので、まだそのプラットフォームの価値を見定めているといった感じの質問も多かった。

フォローするわけではないが、僕が関係者から聞く限りは、現状のLINE NEWSでも、特にエンタメ系メディアのリンクバックのトラフィックは大きいようだ。

しかし今回選ばれた24社は、島村氏が「言い方は悪いが、オッサンホイホイ。これまでの(やさしいニュースという)LINE NEWSの印象を変えたかった」と語るように、「堅い」メディアを意識的に増やしている。ビジネス系メディアとLINE NEWSの相性に関してはLINEにとっても未知数なのだろうし、プラットフォームに参画した以上、僕たち自身も研究していかないといけない。

LINEでは今後、パートナーメディアの拡大を進めるとしている。今後はビジネスメディアにとどまらず、特化型メディアや地方紙などにも提案を進める。「例え同じニュースを取りあげても、各媒体のトップページは違う。それを楽しんでもらいたい。両論併記で、自由にメディアを読んで頂きたい」(島村氏)。この両論併記にはもちろんLINE NEWSも含まれる。同社は今後さらに編集部の体制を強化。「やさしいニュース」に特化したコンテンツの配信を進めるとしている。

LINE NEWSが展開するプラットフォームのイメージ

LINE NEWSが展開するプラットフォームのイメージ

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。